蒼+赫

□1話
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「──君、何者?」

夕闇に沈もうとする辺り一帯を静寂が支配する。周囲を囲む木々以外その場にはやたらと風貌に特徴のある男と女の二人以外誰もいない。ぽつんとひとつあった電灯がその存在を主張するかのように点灯し、暗闇に取り込まれてしまいそうな二人の影を色濃く栄やした。
男の両目全域を覆う黒いヘアバンドのような目隠しからはその表情が垣間見えない。しかし日常に起こりえるはずのない不測の事態に男は少なからず心の揺らぎを感じていることだろう。いや、彼の場合それは好奇心という名の感情のものだろうか。どちらにせよ、それが他の呪術師だったらどうだろう。この違和感に気づくことが出来るのは他の誰でもなく"五条悟"、彼だから。

「……光月美来です。五条悟、あなたに会いに来ただけのただの人間です。」

女は控え目に口を開き答える。"人間"そう加えることは、呪術師なら誰しもが抱くであろう疑問と警戒を手っ取り早く取り除く手段である事を彼女は知っていた。悟は普段稀にしか外すことのない目隠しをずらし、女を前に片目を晒した。その宝石のように煌びやかな薄蒼い瞳は直に女の姿を映し出した。その行動からも異常な事態だという意識であることに間違いはないだろう。それでいても落ち着きを払うその瞳は少しの疑問を宿し、今自身で確認した事実を受け入れた。ふうと小さな溜め息を漏らした後、悟は目隠しを喉元まで下げた。白髪の短髪が重力に逆らい落ちて本来の悟の容姿が露になった。

「驚いた。何も見えない何も解せない。これってどういう仕組みなの?」

そう言う悟の声には陽気ささえ感じる。だけどそれに混じり確かな警戒の色が見えた。目隠しを全て取っ払ったことがそのいい証拠で、自分が五条悟という人間にとって脅威であるかそうでないのか推し量っているのだろう。悟は不思議そうに自身の片手へと視線を落とした。
自らが術を解いたわけでもなく、現在も悟の周囲には万物の何物も寄せつけない無限の領域が存在している。本来ならばそれに阻まれ他者が悟に触れる事など叶わない。更に言えば、触れることの出来る対象を直前に自らの意思で切り替えた。なのに美来はその見えない壁を超え悟の手を掴んでいるのだ。

「これは家系的に生まれ持った体質です。呪霊の存在を把握していても、かといって一族皆誰もそんな面倒事に干渉なんてしようとはしなかったですが。」

そう言って美来は悟の手を離し、無防備に両手を上げて一歩後ろへと下がった。

「必要なら納得のいくまで好きに調べてください。それであなたに敵意がないことを証明できるなら。」

「いやいや、冗談。どうしたって人が本来持ち合わせている微量なまでの呪力の欠片すら感じない。そういう人間は稀に知ってるけど呪術が通用しないってとこに関して言えば実に不可思議だ。」

これが呪術の為す術ならまだしもと付け加え悟は警戒の色を強め目を光らせた。
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