紅舞ウ地

□臆病者
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臆病者とは、まさに自分のことを言うのだろう。

普段、仲間内に見ている海賊とはちがう……。敵に見た本物の海賊は、冷酷で黒いオーラを放っていた。

とてもではないが、目の前にしてようやく自分が立ち向かえる相手だとは到底思えないことに気がついた。そもそも立ち向かうなんて頭すらなかった。いつも仲間に守られ、それが当たり前であったアリアは海賊同士の争いがどういうものであるか、不覚にも敵と認識して始めて知った。
食料のひとつですら、そこにあるのは命と命の駆け引きだ。男たちは隠しもしない禍々しい殺気を放っていた。

生かして帰すつもりはない……。

捕まれた腕が硬直する。身体の震えが伝わっているのではないかと、余計に心臓は早くなっていった。

──この恐怖を悟られてしまえば終わりだ。

幸いにもまだ、身一つで追いかけてきたということが警戒にはなっているらしい。ただの世間知らずが幸いしたわけだが。

「その背中の刺青……本物か?白ひげ海賊団は決して仲間の死を赦さないと聞くが……本当か?」

男が興味本位で聞いてきた。その時、握られた腕に感覚がはしった。それは冷たさにも似た感覚だった。

「うっッ!ぁあ!」

同時に痛みが後からついてきた。冷や汗と共に、心臓の鼓動も最高潮になっていた。
すっと一筋、まるで線でも描いたかのように切れた腕。しばらくしてそこからジワジワと赤い血が滲み出てきた。男がナイフでアリアの腕を切ったのだ。ほんの遊び感覚なのだろう。傷は浅い。ただ自分を精神的に追い詰めるのには十分だった。

「仲間を殺すとどうなるって?!なあ!白ひげ海賊団!!」

ブンとそのまま地面に放り投げられた。どうやらこの背中の刺青も男達の前ではただの飾りに見えるらしい。いや、そう見せているのは自分のせいであり何者でもない。もはや自分の掲げる髑髏には何の意味もない……。
これがマルコや白ひげ……エースならばまた違っていたのだろう。
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