紅舞ウ地

□二つのシルエット
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『お前らのこと知りたくなった』

少し言葉を言い間違えたが、嘘じゃない……。

眠れずにいた医務室のベッドの中で、隣から聞こえてきた会話に耳を傾けられずにはいられなかった。

「──戦えってエースが言ったんだよ。」

マルコとアリアの話中に自分の名前が出てドキリとした。何故か悲しそうなアリアの声色。

そんなに自分は悪い事を言ったのか……?
海賊なのに海賊を目の前にしても戦わねェ……そんな海賊あるか?

エースにはアリアの言葉の意味が理解できなかった。
困惑していれば、どうも自分の発言が原因ではないらしいことが分かった。次に聞こえた言葉はアリアには不釣り合いな言葉だった。

追われる……?

政府……?

なんのことだ?

そんなにわけアリの過去でもあるのか……?

その時の自分には何もわからず、医務室を出ていくアリアの後を咄嗟に追いかけた。

別にかける言葉はなんでもよかった。「何かあったのか?」ストレートにそう聞いてもよかった。だけど、船首で自分の存在に気づき振り返ったアリアは予想外にいつもの笑顔を零した。

なんだ……元気そうじゃねェか……。

まんまとその振る舞いに騙されたわけで、自分の頭から心配の文字はすぐに消えていた。

「この船に残る」

だけど無神経に自分が意気揚々と伝えた言葉の先にアリアが見せたのはいつもの笑顔ではなかった。意識の抜けた無表情。期待外れの反応に少しショックを受けた。勝手だが心の隅で喜ぶアリアの姿を想像していたのだ。

いや、それよりも。

次の瞬間自分の気持ちは別の方向に切り替わっていた。一瞬泣きそうに顔を歪ませたアリア。もやっとしたものが自分の気持ちを掻き立てる。それが自分のせいなのか何なのかアリアが今何を考えてるのか、気になって仕方なかった。知りたかった。

今はただお前のことが知りたかった。

エースは"借り"を返すべくモビーディックを駆け抜けた。




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