紅舞ウ地
□傷だらけの髑髏
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鉢合わせても避けるように逃げる海賊たち。
戦うこともなく一瞬にして海賊が退いた理由をエースも薄々勘づいているのだろう。エースは何も聞いてはこなかった。
エースの背中で揺られながら、洞窟の焼け焦げた扉を潜って外に出た。途中、何度も涙が零れ落ちそうになるのをアリアは必死で堪えた。一滴の涙でさえ素肌を晒しているエースにはすぐに気づかれてしまいそうだから。
なるべく平坦な道を選び、おぶられている自分に衝撃を与えないように慎重に進むエースの優しさが痛いくらい染みた。そんなエースだからこそ余計な心配はかけたくなかった。
カサカサと、草木をかき分ける音だけが二人の間にあった唯一の音。そんな沈黙を破ったのはエースだった。
「さっき空を舞う葵い光が見えたんだ。」
「葵い光……?」
なんとなく聞いたその言葉だったが、口ずさんで、覚えのある葵い光にアリアははっとした。
「もしかして……マルコ?」
マルコの放つ不死鳥の光は蒼白く、見たものの目に焼き付いて離れることのない神秘的な光だ。エースはそれを言っているのだろうか……。
肯定するように、エースは顔だけこちらに振り向いて口元を吊り上げた。
不安で満ちていたアリアの顔に途端に笑顔が舞い戻った。アリアは後ろからそっとエースを抱き締めると背中に顔を埋めた。
「髪の毛がくすぐってェ。」
照れ臭そうにエースは言った。
「ありがとう。私が安心するように教えてくれたんでしょ……?」
「……そんなんじゃねェよ……。」
アリアは嬉しくなって顔を綻ばせた。仲間という枠に入らなくても、仲間たちと同じくらい自分はエースが大切だ。
ねぇ……エースはどう思ってる……?
見覚えのある木々の間を抜け、エースの教えてくれた底なし沼の横を通り過ぎて、もう森の出口が近いことをアリアは知っていた。
仲間に何て言われるだろうか、そんなことを思いながら、最後の木のアーチを潜り抜けた──。
「うわぁ……。」
久びさにも感じる一面の白い世界に、二人はあんぐりと口を開けた。砂浜に反射した陽の光が、まるで空と地上を一つの世界にしているようだ。
そして眩しさに慣れた視界の中に、白ひげ海賊団のその船が飛び込んできた。
空を舞う蒼い光に誘導されながら、ゆっくりと着実にこの島へと近付いてくる船。
「ちょっと離れててくれ。」
エースはそう言うと、自分を背中から下ろし右手を高く振り上げた。
肩から指先へと燃え上がった炎はそのまま火力を増し、天高くまで火柱を走らせた。
それが、初めて見るメラメラの身の能力だった。
熱気とその炎の凄まじさにただただ圧巻した。
そこに、恐怖なんて何もなく……。