紅舞ウ地
□約束の証をあなたに
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自分はエースの腕の中にいた。
自分の頭に回されたその腕……。
庇ってくれた……?
おかげで体中どこに気を巡らせてみても、痛みという痛みは感じない。
「……すまねェ。大丈夫か?」
「平気。ごめん、ありがとう。エースはどこも怪我してない?」
「こんくらいどうってことねェ。つか、元はおれのせいだ。」
ほっと緩んだエースの顔。白ひげを狙う顔とは違い、時々見せるそんな矛盾した優しさがいつも自分の中の何かを期待させる。
エースは敵だと言うけれど、敵として意識しきれないのは、決してこの船の雰囲気や自分の興味からだけではない……。
それにしても……
安堵すればまた思い出して笑いが込み上げてきたアリアは、エースの腕の中から抜け出した。
「ふふっ。珍しいこともあるもんだね。そんな驚くことがあった?」
その言葉に深い意味はない。アリアはただ何気に言ったつもりだった。
まさか、椅子から転ぶだなんて。火拳の通称で名の通った人とは思えない失敗に親近感さえ湧いたのだ。エースは床に仰向けで倒れ込んだまま、自身の傍らでクスクスと笑うアリアをぼーっと見上げた。
「……色んな意味でビビった。」
ボソッと聞こえたその言葉に、アリアはえ?と、エースを見た。自ずと目と目が合う。
「嬉しいなんて、親しい人間以外に言われたのは久しぶりだ。」
そう続けたエースの顔は僅かに赤い。アリアは言葉を無くしてただ見蕩れていた。それは自分の知らない、エースの言う親しい人たちを想ってだろうか。
だって……本当に柔らかく笑うのだ。
初めて見たエースの顔だった。
そんな時だった。ミシッと、不快な物音が二人の耳に届いた。そして、慌ただしい音と共に押し破られたドアから数人のクルーが一気に室内へと雪崩込んできた。自分たちを見るなり、クルーは顔を真っ赤に騒ぎ立てた。
「聞き耳立ててりゃ、新入り!なにアリアに手ェ出してくれてんだァ!!」
「アリア、そっから今すぐ離れろ!」
アリアは驚いてエースの傍からすぐ様飛び退いた。って、なにも疾しいことはないのに、いちいち反応してしまったら余計怪しまれる。
クルーたちがどうしてここにいるのかは兎も角。そんなつもりなどない。エースは自分を庇ってくれただけだ。弁解しなければ。そう思ったアリアよりも早く、ブチッと何かが切れる音がした。
「あ”ァ?!そりゃ最初はおれに問題があったが、この状況をどう見たらそうなんだよ!」
「既に問題があったって、テメェ、フザケンなぁッ!」
「だあぁーうるせェー!だからなんでそうなんだ!そりゃこっちのセリフだァッ!」
そこにアリアの入る隙はなかった。エースは額に青筋を浮かべたまま飛び起きると、クルーたちを横目にひと睨みし鼻息荒く入口へと向かっていった。
「あっ、エース……」
バタン!その背中を呼び止めようとしたアリアの声を遮るように、荒々しく閉められたドア。
どうしてこうなってしまうのだろうか……。
アリアは立ちすくんだまま、山ずみになったままの男たちを見た。
「おれらはただアリアが心配なだけだァ……。」
そんなことは分かっている。
しょんぼりと頭を落とすクルーたちにアリアはそれ以上何も言えなかった。
「…………。」
アリアはエースが出ていったドアをじっと見つめた。