紅舞ウ地

□約束の証をあなたに
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新世界、とある無人島の洞窟付近。
その岸辺に一隻の小船が着岸したのは三時間も前の話だ──……。



「無い無い無い無い……ッ!」

草木の中からムッスリとした顔を覗かせたのはアリアだ。その髪や服、至る所に蜘蛛の巣や枯葉を引っ掛け、露出の高い腹や腕には枝で傷ついただろう小傷がチラホラ見えた。

「……はぁ……。」

アリアは脱力して地面へとへたりこんだ。顔を上げれば、ちょうど空の真上に登る太陽。気付けばぐるりと島を一周、船を着けた岸辺まで戻って来た。
あればいいのになんて、何の宛も無くただその思いだけでここへ来た。だけど島中どこを探し回ってもそれは見つけられなかった。

「これじゃ、夕方までに帰るって約束したマルコに心配かけちゃう……。」

立ち上がらなければ、そうは思うものの、異様な睡魔に襲われる。目の奥が重く瞼が上がらない。流石に二日眠っていなければ、身体も悲鳴を上げだしたようだ。
座ったままの状態で、うっつらうっつらと半ば眠りかかっていた時だった。カサカサと後ろの林から物音がした。目はパチリと開き、聞こえる物音に必然的に気配を探る自分がいた。

ここは無人島だ。獣か何かだろうか……。

感じた生物の気配に一気に緊張が駆け巡る。振り返ると同時に、草影から得体の知れない何かが自分目掛けて飛び掛かってきた。

「……ッ……!」


──その頃、モビーディック号甲板。
トンテンカンテンと、海賊船に似つかわしくない慌しい日曜大工の音が響き渡っていた。

「おい、マルコ。アリアを見なかったか?」

「アリアなら朝方から出掛けてるよい。」

「まいったな。直すの手伝ってもらおうと思ったんだが。」

ああいうのは手先の器用なヤツのがいいと、ジョズはクイクイと親指を立てた。言われてマルコもジョズの後方へと視線を向ける。そこにはお世辞にも綺麗とは言い難い、継ぎ接ぎだらけの船長室の壁があった。

「ああ、新入りのやらかしたやつかい。」

「全く派手にやってくれたもんだ。」

マルコは特別驚きはしなかった。エースの起こした昨夜の不祥事は、もちろん隊長であるマルコの耳にも入っていたが、白ひげに挑むほど血の気の多い奴が、そうあっさり仲間になるとは思ってなかった。それに、よほどのことがあっても一々動じるクルーはこの船にはいない。
エースを乗せて早二日。その根性を見込まれたのだろうが、むしろ心配なのはオヤジの首よりこの船だ。

「アリアはもうじき帰ってくるはずだよい。それより、修理箇所が増えないように注意しとくんだなァ。」

言っている側から、船の何処かでドガンと大きな音がして二人は顔を見合わせた。ジョズとマルコが駆け付けると、大きく破損した防波壁から海面を見下ろすクルーたちの姿があった。その側で、悠長に酒を平らげるオヤジ……。マルコには大概の予想がついた。

「能力者だ。勝手に浮いてはこねェぞ。誰か泳げる奴、助けに行ってやってくれ。」

マルコの声に、ようやくクルーがひとり海へと飛び込んだ。マルコもジョズも金槌だ。こういう時、情けないが黙って見ているかロープのひとつでも投げてやるしかない。

「ったく、アリアがいねえだけでこうもかまけちまうもんなのか。」

仲間によって海から引き上げられるエースを見ながら、ジョズがひとり何か納得したように呟いた。それはまさにマルコも思っていたことだ。
仲間たちが海へ落ちたとなると、決まって海へ飛び込むのはアリアだ。決まった役割というわけでもないが、その光景が目に慣れている自分たちにすれば、いざという時もつい見守り役に徹してしまう。

「あんまり頼ってばっかいられねえってことだなァ。能力者が増えるなら尚更だ。」

呟いて、マルコは明朝自分の部屋を尋ねて来た人物のことを思い返していた。
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