紅舞ウ地
□小さな期待
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時は深夜。モビーディック号に小船をつけ、予め垂らしていた縄で外舷をよじ登りアリアは甲板に降りた。肩に担いでいた人二人は入りそうな大きめの袋をドサリと降ろしふうっと一息つく。毎度、船と船を行き来するのは楽ではない。
「なんだ、その荷物。宝か?」
その声に振り仰ぐ。マストの上から自分に向かってニヒヒと口元を浮つかせるのは、自分が白ひげ海賊団に来た頃からの顔馴染みのクルーだ。どうやら今夜の船番らしい。
余程暇を持て余しているのか、クルーはジェスチャーで来い来いと手招きをしてきた。船番は自分も何度も経験しているが、問題のない一晩ほど長く耐難いものはない。しかしながら、そんな退屈な夜を華やかに彩れるほど袋の中身は期待するような物ではない。
「これ宝じゃないから。」
「もったえぶんなって。」
「ダメだよ。本当にに違うんだって。」
幾分、金目の物に目がないのには困り果てる。何だよと、つまらなさそうに吐き捨てるクルーに、ごめんと顔の前で両手を合わせて謝った。
他のクルーに見つかっても面倒臭そうだ。早目に目的を果たそうとまた袋を担ぎ上げた時だった。ピクリ、不意にアリアの表情が変わった。どうかしたのか、聞こえるクルーの声に周りをキョロキョロ見渡す。それは、僅かに感じた殺気だった。
「おっ?アリアじゃねェか。何やってんだこんな時間に。つまみ食いか?」
すると船尾の方からクルーが二人歩いてきた。
「……………。」
つまみ食いなんて失礼だなぁ。
近付くにつれてプンプンと漂ってくる酒の臭い。元々酒にそんなに強くない自分からすればその臭いだけで酔えそうだ。
どうだお前も一杯なんて、手に持った酒瓶をチラつかせるクルーの誘いをやんわりと断って、とりあえず聞いてみた。
「ねえ、何か変わりなかった?誰か不審者を見たとか。」
「さァ?どうかしたのか?」
問えばクルーは揃って首を傾げた。自分たち以外の誰も見てはいないというのだ。これといって人の気配があったわけでもないし、気のせいと言われれば気のせいなのかもしれない。そんなあやふやな気持ちを残して。
「ううん、やっぱり私の気のせいみたい。」
「ハハハ。アリアの気のせいはよく当たるからなァ。くわばらくわばら。」
「もう、そんな人を疫病神みたいに言わないでよ。」
「ハハハ、誰も言ってねェ。自分で言ってんじゃねェか。」
わざと頬を膨らませアリアはクルーの冗談を一緒に笑い飛ばした。きっとあまり眠っていないせいで、変に勘違いをしてしまったのだろう。そう思い込もうとしていた時だった。
──バキッ、ドガンッ、ガシャンッ!!
「わっ!何ッ……!?」
突如、静かな空間を大きな物音が裂いた。