波紋の刻

□季節が巡って
5ページ/5ページ


朔夜は全て知っていた。最終選別での出来事も自分の事も。それを誰かに話したことはないが、朔夜は自分の気持ちの全てを知っているかのようだった。

「何故自分が生き残ったのかと、そう思っているのなら……少なからず気持ちは分かります。それは私も同じだから。」

「…………。」

「これは私の勝手かもしれませんが……自責と後悔の念に駆られたまま生きてほしくはないと、ずっと貴方を見て思ってきました。」

それはあの最終選別を知り得るからこその痛みであり言葉であって……朔夜にとってもまた彼女なりの深い葛藤があるのだと、それを勝手だと罵る思いはなかった。

「これは、亡くなった彼の想いに応えなければならない、そう思う気持ちで言っているのではありません。これは私からの……切な願いです。」

朔夜は自分に告げた。しかし混乱していた義勇はその言葉の意味をこの時理解することは出来なかった。

最終選別の残像だけが思い返された。何もできずただその七日という時間だけが経過したあの悪夢のような日々。綴じた蓋が外れかかりそうになる度に苦しくなり息が詰まりそうになる。今はまだ何も考えたくはなかった。だからどう答えていいのかわからなかった。

「私がただ伝えたかっただけですから気にしないでください。」

また思考を解いたかのように朔夜は言う。困ったように笑った後朔夜は瞳を綴じすっと深呼吸した。

「……貴方に話すことができて少しスッキリしました。」

そう言って朔夜は話を切った。何事もなかったかのように刀を鞘に収め立ち上がった。

「さて、冨岡さん。剣の手合わせしてくれませんか?」

「いや、俺はお前に聞きたいことが……」

「えっ?今、何か言いました?」

そう言って朔夜は自分の手を引いた。義勇は肯定も否定もせず黙って手を引かれた。その手から感じた体温が心地よくなるほどとても温かかったなものだったから。さらりと風で流れる朔夜の長髪。

風にのせて春の匂いがした──。



──晴れない心のままなぜ鬼殺隊に残ったのかと。

あの時聞くことの出来なかった想い。

自分の隣で刀を振るうことができるようになるまで鍛錬を重ね。

自分に下を向かせない為に鬼殺隊にいる。

その口から告げられることがなくとも……

季節を廻り年を重ねていく度に、この時知ることが叶わなかったその想いは、確かに自分に伝わった──……。
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ