波紋の刻

□抗いの刃
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炭治郎たちはどこ?

朔夜は外に出て辺りを見渡した。先よりも荒れた街に誰の姿もない。所々に痛々しい血痕の跡が残り夜風に乗って流れてきた血の匂いが鼻をついた。木々が囀り妙な静けさの中突如獣の鳴き声のような声が響き渡った。朔夜は驚いて近辺の家屋へと視線を向けた。

「ガァアッ!!」

それは獣でも堕姫でもない。禰豆子の声だ。一際大きな唸り声が聞こえた後、朔夜の正面の家屋の二階から窓を突き破り、禰豆子を後方から抱える形で炭治郎が降ってきた。避ける事も出来たのだが、ちょうど下にいた朔夜はあえて炭治郎たちを受け止めた。二人の重みと地面で板挟みとなり朔夜はかなりの衝撃を背に受けた。それは炭治郎も同じだったようで、二人は低い唸り声を上げた。

「あっ、え?!朔夜さん?!すみません!本当にすみません!!」

「私は大丈夫。受け止めるつもりで受けたのだから。」

炭治郎は痛みに耐えながら朔夜を下敷きにしてしまった事を謝罪した。朔夜も最低限の受身はとったが、元々の負傷もあり決して大丈夫だとは言える状況ではなかった。それでも逆に炭治郎に心配をかけてしまうと思い朔夜は平静を装った。それにしても何故に炭治郎が禰豆子を押さえつけているのだろう。炭治郎は自分の刀を禰豆子の口元に当てがい、暴れる禰豆子を必死に押さえている。

「すみません、朔夜さん離れてください!禰豆子が……禰豆子ではないんです!」

禰豆子は朔夜を見て涎を垂らしながら炭治郎に抵抗している。禰豆子の額の右部に生えた角。人を見て飢えに爪を伸ばす様は朔夜の知っている禰豆子ではない。禰豆子は自分を食べようというのか。炭治郎の言う通り朔夜は二人から離れた。それは鬼として禰豆子を恐れたわけではなく、爪一本の傷をつけられる事ですら許すわけにはいかなかったから。そうなった暁には人を傷付けたとして、この兄弟たちの為に自らの命をかけた人たちが腹を切る事になってしまうから。朔夜は今の禰豆子の姿に愕然とした。これも禰豆子を鬼と戦わせてしまったからなのだろうか……。

「うわわわん!!!」

今度はどこからともなく堕姫の声であろう泣き声が聞こえた。まだその鬼が健在している事を知ったが、もう朔夜には何が起こっているのか分からなかった。

「禰豆子は必ず俺が何とかします!お願いです!信じてください!」

炭治郎の言葉に朔夜ははっとした。ぼーっとしている場合ではない。鬼が生きているのならばまずは鬼の頸を斬らなければ。朔夜は複雑な気持ちで炭治郎を見た。炭治郎たちのことも信じていない訳では無い。そうではない。朔夜の怖い事は更に大切な人の命が危ぶまれていることだ。ただそれを直接言葉にすることはとても難しい。

「私は……貴方たちを信じてる。」

これが朔夜から伝えられる精一杯の言葉だった。炭治郎もまた何か言いたそうな表情を浮かべていたが、朔夜は禰豆子を炭治郎に任せ堕姫の元へと向かった。
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