波紋の刻
□変装
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天元たちがいる部屋の前に戻ると襖の向こうはざわついていた。善逸も伊之助も目を覚ましたようだ。
「宇髄様、準備が整いました。」
「おう。入ってこい。こっちも準備万端だ。」
そう返事があったので朔夜は襖を開けた。出窓の冊子部分に腰掛けていた天元は朔夜の姿を直視した後、顎に手をかける仕草をとった。
「ほう……なかなか見れるじゃねぇか。」
そう言った天元の容姿も隊服ではなく着物へと着替えられていた。任務中は結っている髪も下ろされ、普段鬼殺隊で見慣れている雰囲気とはまた違う。すると横からひょっこりと炭治郎が顔を覗かせた。
「うわぁ、朔夜さんとても綺麗ですねぇ!」
炭治郎の素直すぎる言葉が言われ慣れない朔夜には衝撃的であった。白い肌に栄えた赤い着物。着物だけでなく頬や唇には紅が塗られ髪は結い上げられている。華やか、それでいて鬼殺の使命を忘れてはいない凛とした瞳が何とも言えぬ妖しき雰囲気を漂わせていた。
「……これは……任務の為だから。」
朔夜は急に小恥ずかしくなり着物の袖で顔を隠した。善逸は朔夜の周りをくるくると回り見舐めていた。
「なんだそのズルズル長ぇ着物、邪魔じゃねぇか?俺様が切ってやろうか?」
「お前、馬鹿ァァかか?!んなことさせるかー!」
「あ?鬼が出てきたら身軽に動けねェだろうが。」
「動かなくていいんだよオォォ!朔夜ちゃんは俺が守るんだからァァ!!」
論争を始める伊之助と善逸に炭治郎が間に入り二人を宥めていた。それはそうと先程から自分に負けないほどの違和感を感じていたのだが、三人が並んで更にその違和感は強くなり朔夜は無表情で呟いた。
「ところで三人共、その格好は何ですか?」
聞き違いでなければ"変装"と聞いていたのだが。朔夜の言葉に三人の動きがぴたりと止まる。同じように言い知れぬ失望の眼差しを向ける三人に、天元はしらーっと窓の外を眺めていた。そのあまりにみすぼらしい風格好にはさすがの朔夜にも助力の言葉が見つからず絶句した。