波紋の刻
□隊士の階級
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──時は深夜。
ここは鬼殺隊本部から十数キロ離れた村里。
周りを山林に囲まれた山の麓に位置する村だ。畑の間を細い畦道が続くその脇には灯りの消灯した民家がいくつも集落し、比較的大きい村に思える。
ここが今回の任務目的の場所だ。一見何の変哲もない村だが、最近この村で若い男性の失踪が相次いでいるらしい。その探索も兼ねて今回鬼殺隊が派遣されたというわけだ。
朔夜はすうっと一息吐き空を見上げた。
今夜は朧月──。
月にはぼんやりと霞がかっている。しかしながら月夜の淡い光が足元を照らし普段深夜に任務へ赴くことの多い鬼殺隊としてはまだ良い環境と言えるだろう。
なのに……なぜか……
「ううっー!暗いよー!怖いよー!もうヤダぁぁ!!」
なんて、日がかけてからというもの善逸はずっとこんな調子で自分の後ろをかろうじて着いて来ているのだ。ガタガタと震える様はまるで初めて任務に駆り出された隊士のようだ。これでも杏寿郎が亡くなったあの場にいたというから驚きだ。柱に見初められ上弦の鬼と出くわして命があるとは朔夜には到底想像がつかなかった。
そしてそんな余計なことを考えているとまたはたと思い出してしまう。
煉獄様……。
強く、優しい方だった──。
「また!朔夜の心臓の音が変わった!君も怖いんだよね?!だって心臓の音がずっと緊張の音をしてるから……俺が守らなきゃいけないのは分かってる!でも怖いんだよぉー!」
言っていることが矛盾している……。
朔夜は何とも言えず呆れて額に手を当てた。善逸は耳がよく聴こえるらしい。よくといっても少し聞こえがいいなどというものではない。その優れた聴力は朔夜の想像を遥かに超えていた。心音や脈でさえも聞き取れ、そして"音"である程度その人間の心情や思考が分かってしまうらしい。心情の変化まで察知され無条件に全てを見透かされるようで朔夜はこの特異体質の前では気が気ではなかった。
「善逸……私は否定しない。怖いことが駄目だとは思ってないから。」
「へ?」
「私は何度、何年、任務の回数を重ねても、いつの任務に経つ時も、藤襲山の最終選別へ向かった時の気持ちのままよ。」
その言葉に善逸はついに歩む足を止め立ち止まってしまった。黒く淀んだ空気が善逸の周りに渦巻いている。
あ、マズいことを言ったかな……。
決して嘘ではないのだが、ちょっと余計な恐怖を植え付けてしまっただろうかと朔夜は困惑した。弁解すべく申し訳ない気持ちと共に朔夜はそっと善逸の傍らに寄った。
「ただ恐怖は時に判断を見誤ってしまうっていうだけで、それさえ間違わなければ……」
「……ですか?」
「え……?」
「歳、いくつですかー?!!」
──そっち?!
つい心の中で叫んでしまった。人が真剣に話していたのに。心を読まれることはあっても善逸の心は読みにくいということがよく分かった。本当に、すごく……。