波紋の刻
□藤の花
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「…………。」
初めて貰った物……。
一体これはなんだと言うのか。かといって義勇から貰った物には変わりない。朔夜は懐にしまった巾着をぎゅっと大事そうに握り締めた。
「どうしましたアァ?!お姉さん、胸なんか抑えちゃって、溜め息なんかついちゃってェ!!どこか具合いでも悪いんですかァ?!」
「ひっ!」
「ひって、軽く傷ついたァァ!!」
朔夜は驚きを隠せない。溜め息なんてついた記憶もないのだがいつの間にか声に出てしまっていたのだろうか。それよりも、蝶屋敷の庭園には今この瞬間まで自分以外の誰もいなかったはずだ。一体どこからいつの間にと朔夜は忙しなく周囲を見渡した。
朔夜が顔を上げると既にそこに少年はいた。なぜか頬は赤らみ鼻の下が凄く伸びている。見るからに鬼殺隊であることは明白なのだが、仮にもここは怪我人等が収容される蝶屋敷。この少年の方こそ体調は大丈夫なのだろうかと朔夜は口をあんぐり開けたまま固まった。
「何か悩みがあるなら聞くよー?!あ、でも恋の悩みとかは無しね!そういうの却下!その他のことならなんでも──……」
調子良くたくさん喋ってくれるところを見ると調子が悪いわけでもなさそうだ。突然の事で驚きが先走り青年の風貌をよく確認していなかったが、ふと平静になって朔夜はあることに気がついた。
「あ、その金色の髪……もしかして、今日から一緒の任務の……」
「えー!!!一緒?!僕と君がァ?!え、何?どうして分かっちゃったの?運命?これって運命ー?!!」
「いえ、カラスからの伝言で。」
朔夜が淡々と答えるとどこからともなく鴉が肩に乗ってきた。
「蝶屋敷ニテ金色ノ髪ノ隊員ト合流、二西ヘ行ケ。ア、マチガエタ。金色ノ髪ノ阿呆ッポイ女ズキト……」
「オイ……今なんつった?間違えたとか言わなかったか?オイ、今なんっつった?」
何やら先程とうって変わり鴉に睨みをきかせ始めた金髪の少年。このままでは睨みだけで鴉が殺られそうだと、鴉の言うことだからと朔夜が少年を宥めればすぐに機嫌は直った。
「やはりあなたが。申し遅れてごめんなさい。私は、如月朔夜。階級は庚──」
言い終える前に朔夜は少年に両手をガッシリと握られた。少年の背後に咲き乱れた薔薇の花が見えるのは気のせいだろうか。任務続きできっと疲れが溜まっているのだと朔夜は自分の目をゴシゴシと擦った。
「俺の名前は我妻善逸。朔夜ちゃん、君を守る男さ。」
眉も動かさず善逸と名乗る少年を見つめる朔夜。
「ありがとう。善逸。じゃあ早速、準備が出来たらここを経ちましょう。早く帰って来たいので。」
あえて寸言は入れず簡潔に返すと心做しか善逸は寂しそうにしていた。
次の任務は──……
どうしても一見頼りなさそうに見えてしまう……この雷の呼吸の使い手、我妻善逸との鬼の討伐だ──。