波紋の刻

□怒り
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そんな時、この騒動で住人たちが外へと出てきた。何事かと家屋から身を乗り出し自分たちの様子を伺っている者もいる。

「……うるさいわね。」

気を阻害された堕姫は呟くと無作為に攻撃を放った。地面、家屋、全てが広範囲に抉れていく。その規模はあまりに大きく、朔夜もまた自分の周囲への攻撃を受けきるのに手いっぱいだった。
はたと気づいた時には瓦礫の残骸と共に切断された人の胴体。そこに先程まであった街の風景は無く地獄のような絵図が広がっていた。辺りは埃と血の匂いが入り乱れ、その中に泣き叫ぶ者の声がする。それが耳鳴りのように頭に響き、朔夜は日輪刀を手に下げたまま絶句して立ちすくんだ。今にも手から日輪刀が落ちてしまいそうだった。

守るなんて規模ではない……。

炭治郎も後ろにいた住人を庇い左肩に傷を負っていた。それを見て朔夜は我に還った。その傷は決して浅くはない。地面に流れ落ちる程の出血だ。早く止血しなければ。朔夜も今の一撃を受け反動でまだ手が痺れていた。元々傷を負っていた左肩。両手であってもそうは力も入らず、受け損ねた流れ弾で自分の後方の家屋も真っ二つに倒壊していた。

「炭治郎……怪我の手当てをしなければ……」

朔夜は自分の着物の振り袖をちぎり炭治郎の肩の傷に当てがった。その時炭治郎の身体が小さく震えているのがわかった。

「待て……ゆるさ……ないぞ。こんなことをしておいて。」

にやりと笑みを浮かべ背を向け去ろうとしていた堕姫に炭治郎が低く言う。堕姫は足を止め眉間に皺を寄せた。

「まだ何か言ってるの?もういいわよ不細工。生きてる人間に価値無いんだから。仲良くみんなで死に腐れろ。」

堕姫は吐き捨てた。朔夜はピタりと止血の手を止め、口元を震わせた後それでもぎゅっと唇を噛み締め耐えた。炭治郎は額に青筋を走らせ堕姫から視線を逸らさずに静かに怒りを露にした。朔夜はその心情を察した。

全てを守りきることが出来ずどれ程の悔しさと惨めさを感じていることか。尚もそれに非情さを加える鬼。怒りが、憎しみが湧き上がる……。

「……炭治郎、まともに聞いては駄目。鬼も奇襲をかけては来ない。私が追うから今は傷を塞いで。」

言う朔夜の声も怒りで震えていた。いつまでも冷静でいられる保証はない。炭治郎の肩の傷の血は止まらず、みるみるうちに布が赤く染まり上がった。絶大な怒りがより身体に負荷をかけているのだ。炭治郎は目を血走らせ日輪刀を力強く握った。そうすると余計に血が溢れるものだから、朔夜は炭治郎を宥めようと"落ち着け"と軽く頬を叩いた。そして朔夜は炭治郎の肌に触れたことでその異変に気がついた。

異常な高体温。そして炭治郎のその額に色濃く浮かび上がったのだ。見たことも無い痣模様が──。
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