紅舞ウ地
□小さな期待
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先とはなんだと、そう言いたそうな顔をしながらも、火拳は面倒くさかったのか無駄だと悟ったのか息を切った。
「俺は……」
ポツリと言葉を漏らす。火拳の横顔を見つめながら、アリアは静かに次の言葉を待った。
「俺は名声が欲しい。だから、白ひげの首を捕る。……笑うなら笑え。」
どこか自信に満ちたその表情は、寂しく笑う。吐き捨てられるように言い放たれた言葉。しかし、それは自分が期待していた言葉そのものだった。
アリアは首を横に振った。
「そうかな?"敵だから"そう思う?私はあなたならやれそうな気がしたけど。」
「え?」
「私はワンピースを見つけた"世界の行く先"が見たい。白ひげを倒せるような強者なら、それを見つけ、世界を変えてくれるんじゃないかって期待してた。」
敵なのに笑えるでしょ?と、アリアも同じように付け加え笑う。淡々と告げた言葉に呆れたのかエースは固まっていた。
それでもアリアは構わず火拳を真っ直ぐに見た。今はポカンと間の抜けた火拳の裏側に、無人島で白ひげに挑むその姿を思い出す。何度も立ち上がり向かっていくその姿だ。
「それに、能力者や力に溺れた人間は嫌いだけど、あなたは違ってたから……。あなたのこと知りたくなった。」
自由な海。信頼できる仲間。力に媚びない生き方。自分にはないものがあるその人が、単純に羨ましかった。だから気づけば、走り出していた──……。
柔らかい夜の風が頬を撫でた。沈黙が流れて火拳は蹲るように顔を伏せた。また余計なことを言ってしまったのかと、そう思っていれば、顔を埋めたその腕の中から控え目な声がした。
「何をどう世界を変えたいってんだよ……。」
アリアは無言で空を見上げた。
「……わからんない。何も変わらないかもしれないし、何か変わるかもしれない。」
「なんだそれ。紛争でも起こそうってのか?ヘンなやつだな……。」
「………………。」
……そうかもしれない。
それでもいつまでも期待して、何かが変わる瞬間を待っている。
「期待するのは自由でしょ?火拳さん。」
自分でもよくわからないけど、そう言って、アリアはにっこりと笑った。