マイフレンドD

□mother 〜暖かい愛の作り方〜 参
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仕事が終わり、透香を迎えに行こうとした時目の前に真っ黒い服にニット帽を被った男が現れた。
「零」
その人物は赤井秀一だった。何で此処に・・・、零は一瞬考えたがそれはどうでもいい。透香だけが零の生き甲斐なのだから。
零は無視を決め通し、保育園に透香を迎えに行こうと歩き出すが、赤井に腕を掴まれてしまう。零は何としてでも手を離してもらおうと暴れるが聞き入れられず、掴まれた手を引っ張られて抱き締められ、
「逢いたかった・・・」
と耳元で囁かれる。そう言われた瞬間涙が溢れて止まらなくなった。まるでこの温もりを感じたかったんだと言わんばかりに。
(馬鹿か零。お前はどうしてあいつの元から離れたのか忘れたのか?今は色恋にうつつを抜かして居る場合じゃない筈だ。守るべき相手が居るだろう。命より大切な透香が)
心のどこかでそんな声がして、零は抱き締めてきた赤井の腕を解き、突き飛ばした。溢れた涙を右手で拭い、赤井に言い放った。
「二度と私の前に姿を見せるなFBI!私はお前なんかに逢いたくなんてない」
赤井に背を向け、透香が待つ保育園へと向かった。
まさか赤井がその後、木の陰に隠れていた風見に殴られたとも知らずに・・・。

赤井はこの5年、突然姿を消した零を一生懸命探した。公安では降谷零は退職しましたと聞き、頼みの綱である新一でさえも、零の行方が掴めなかった。零は亡くなってしまったんじゃないかと考えた時もあった。
そして零がいなくなってから5年が経ち、未だに懲りず公安を訪ねていると、零の部下である風見がため息を付きながらも零の居場所を教えてくれた。
ただし、風見もその日ついて行き、零を泣かせたら絶対に零の元には現れないという要件付きで。
秀一はその要件を呑んだ。つまり、秀一はもう二度と零の前に現れることは許されない、という事だ。秀一は風見にお礼を言い、立ち去ろうとした時、風見に1発殴られた。
「せめて子どもの顔ぐらい見て言ったらどうだ」
と脅迫され、遠くから子供の顔を見に風見の後を追って保育園に行った。そこにはちょうど、お迎えに来た零と娘の透香が手を繋いで帰ろうとしていた。
そうか、零は結婚して子供も居たのかと、呟くと風見が秀一を見て言葉を発した。
「赤井捜査官がそこまで疎いということ、心底驚愕しました。子供の顔を見て、不審に思わないんですか」
「別に思わない。黒い髪や白い肌は零の夫に、タレ目は零に似たんだろうと思っただけだ。自分の子だなんて思えないな。黒髪や白い肌を持った日本人はいくらでもいる」
「いい加減にしろ、赤井秀一。お前はあのこの目を見てないのか、あの前髪の癖っ毛だってお前にそっくりじゃないか。
いや、もういい。お前にはあの子の父親になる資格も、降谷さんの隣にいる資格もない。とっととアメリカに帰れ!FBI」
あまりの剣幕に驚いたが、風見の言ったキーワードに疑問を持つ。
「・・・父親‍‍?」
「降谷さんは、お前の子を産みたいと言って公安をやめたんだ。この子には私みたいな危ない経験をさせたくない、そう言ってね。でも俺には理解できない。こんな無神経野郎の何処がいいんだ。懸命に探してるから、降谷さんを俺の命令を裏切ってでも幸せにしたい、
そうやって言うのならもうちょっと考えてもよかった。だが、お前はどうだ。約束を守ってアメリカに帰ろうとして、自分の子供を見ても夫が居るんだろうと言って逃げようとした。そんな奴が、降谷さんや透香ちゃんを幸せに出来るわけがない。
降谷さんの事は諦めてアメリカへ帰れ!」
二の句が挙げられないくらい打ちのめされた。風見の言うことは正しい。秀一は自分が降谷を幸せにできるという自覚がなかったのだ。と言うより、不安だった。また自分の前から零が消えるんじゃないのかと・・・。
それなら、遠くから零のことを見守りたい、そう思ったのだ。風見の言う通り、自分では零を幸せにすることは出来ない。愛してるの一言で幸せになれる事など、当たり前だが出来る訳もない。
遠くなる零達の姿を見て、心のどこかで思っていた。

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