マイフレンドD

□出逢い
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俺は赤井秀一。実は生まれた時から左目が見えない。その事で小学校の同級生に良くからかわれていた。
高校に上がった時、やっと心の許せる友人に出会った。それが谷本健二だ。
俺にとって健二は命の恩人。1人でも生きていけると思っていたのに、健二は俺に友達にならないか、と話しかけてくれたのだ。
その健二が車に引かれそうになった時、俺はとっさに庇って車に引かれた。
病院で一命は取り留めたが、医師に告げられた言葉は残酷だった。
これから一生、左耳の聴覚が戻ることは無いでしょう。と・・・。

それからというもの健二はいつになく、俺の側にくっついて来た。
お前の左耳が聞こえなくなったのは俺の責任だ。とか何とか言っていたが、健二が隣に居てくれて助かったのも事実なのだ。左耳が聞こえない分話しかけられても気付かないのがほとんどだった上、左目も見えない事で不自由だったが、健二がいてくれた事で本当に助かった。
それから俺は自分で喫茶店を立ち上げた。店員には妹の真澄と、健二が。
そんなに大きくは無いが、客はいいぐらいに来てくれていて、常連客もいる。
常連客は高校生なのだが、頭が切れる。たまに恋人を連れてくるのだが、二人とも似合いのカップルだな、と思っている。

今日はその喫茶店が開店するのが昼からで、十一時くらいには付いておこうと、店に向かっていた。
その途中、ある女性とぶつかった。
慌ててその女性に駆け寄り声を掛ける。
「大丈夫か‍?すまない、少々急いでいたもんで」
そう言って顔を見ると、俺は見とれた。金色の肩まである髪に、青い瞳。ピンク色の唇。
取り敢えず手を差し出した。
「大丈夫か?」
もう一度確認すると、彼女は1度頷くと俺の手をとって彼女が立ち上がる。
彼女は立ち上がると、肩にかけていたポシェットからノートとペンを出して何かを書いていく。
書き終わった彼女が差し出したノートにはこう書かれていた。
私も少し急いでいたんで、すみません。貴方の方こそ大丈夫ですか?
すみません、私耳が聴こえないので普段なら手話を使っているんですが、こうやって外に出る時はこれを使ってるんです
俺は書いてある文字を読み終わると、手話で〈大丈夫だ。俺左耳が聞こえない上に左目が見えないから、手話ぐらいは出来る〉と伝える。
彼女は驚いたような表情をしたあと持っていたノートとペンをポシェットにしまいこみ、彼女も手話で返してくる。
『そうなんですね。私口元で言ってることがわかるんで、手話じゃなくても大丈夫なんですけど、貴方が手話ができると聞いて、嬉しいです』
嬉しいという顔をして笑いながら、彼女は手話で俺に言葉を伝える。
『あっ、すみません。このあと友達と会う予定なのでまた機会があれば・・・』
そう言い終わると彼女は手を振って、違う方向へとかけていった。
俺も気を取り直して仕事場へ向かった。

一時までに今日の仕込みを終わらせていると、十二時半過ぎに健二が来た。
「おっ、仕込みしてるのか?」
「あぁ。昨日ある程度はして置いたんだが、こういうのは当日にしないとな」
俺は、蓋を閉じると健二に向き直った。
「秀一、紹介したい奴が居るんだが」
「ほぉー、お前の彼女か?」
「違うさ。ほら、零」
零、と呼ばれた女性が店内に入ってきた。そこには、先ほど街角でぶつかった女性が居た。
「こいつは俺のいとこの降谷零。妹みたいなもんだな」
「初めまして、じゃないな。先程はどうも」
口に出しながらも手話を使って彼女に伝える。そうですね、と彼女も返すから、健二が驚いた。
「秀一、お前零を知ってるのか?」
「あぁ、ここに向かう途中、目が不自由なせいで、その子に気が付かなくってね。街角でぶつかったんだよ」
「ほぉー。あっ、零、こいつは俺の友達の赤井秀一だ。零に紹介したかったヤツ」
俺の話を冗談混じりで聞いた後、健二は俺のことを彼女に紹介していく。当然手話を使って。
彼女は俺の紹介を健二から聞くと、俺の方を向いて、手話で挨拶を始める。
『改めて、初めまして。降谷零です。健二兄さんがいつもお世話になってます。私のことは、名前で呼んで下さい。よろしくお願いします』
零は挨拶をすると、俺に微笑んだ。俺も零の後に続いて自己紹介をする。
「俺は赤井秀一だ。健二には俺の方が世話になっているからそれは気にしないでくれ。俺の事は苗字でも名前でも好きなふうに呼んでくれ。零」
手話と口で伝え終わると、早速零が俺の名前を呼んだ。手話ではなく、きちんと自分の声で・・・。
「よろしくお願いします。秀一さん」
初めて聞いた零の声はまるで天使のような声だった。

「ありゃ、やっぱり惚れちゃったな、秀一。良かった、良かった」
俺が零と話している間、健二はこんなことをいいながら、煙草を蒸かしていた。
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