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□恐れていた、兆し
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俺がハナの前に現れてから、


もうすぐ1ヶ月になる。







昨日、「明日から休みなの」


なんて張り切って夜更かししたせいか、


隣で眠る彼女が起きる気配は、全くない。





そっと顔を覗き込めば、幸せそうな顔。



ぐ、と伸びをして、ある事に気がついた。



「…透けて、る」




腕と指先を比べてみても、


明らかに指先が透けていて



" 俺はまた、彼女を残して、消えてしまう "


それが、頭をまわった。




「…ん、フレッド?」



目を擦って此方を見るハナ。



悟られないように、

透けている手を隠して振り向いた。




「おはよ、ハナ」


「…おはよ、いま何時?」



「もう、お昼になるところだ。」


「そっか、寝過ぎちゃったね」


「そうだな、こんな時間まで寝てるなんて

ハナはまるでナマケモノだ!」


「うるさい、バカー!」


「ごめんごめん」



謝れば、起き上がって伸びをして俺を見る。




「さて、今日はなにしよっか!」




にこにこ、可愛い笑顔で。




「ハナは、なにがしたいー?」



俺もいつもと変わらぬ笑顔で、彼女を見る。





「…!フレッド、指…」


「あ…。」


彼女に言われて下をみれば、


そこには後ろで隠したはずの、自分の手。



気付かないうちに手を前に出していた自分を恨んだ。






「…ごめん、ハナ…その、」



「もう、すぐなの?」


「…きっと。 詳しくは、わからないけど」



涙を我慢して笑うハナ。


違う、俺はそんな顔をさせたい訳じゃない。





「無理して、笑わないでくれ。」


「…ん、ごめん。」



何度か頷いたハナに、俺は笑顔を見せる。




「なぁ、約束しようぜ」


「約、束?」


「ああ。
俺がまたいなくなっても、くよくよしないって」


「…どうかな。」


はっ、として俺を見た後、すぐに俯いた。




「じゃあ、約束ごとを変えようぜ」


「…?」


「俺のこと思い出して、泣くんじゃなくて
笑ってて欲しい」


「…うん、頑張ってみる。」




目に涙をためた彼女が、優しく笑う。



その笑顔を見て、俺は確信した


こいつはもう、大丈夫だなって。





「さ、今日は思う存分俺を堪能していいぜ」


「触れられないじゃない」




手を広げた俺をすり抜けて、


ケラケラと笑いだす彼女に


それはそうだ、なんて俺も笑った。




恐 れ て い た 、 兆 し


(( だけど俺は、消えたくない。 ))
(( まだ、行かないで。 ))



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