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□伝えられない儚さを
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少し肌寒いだけの季節が過ぎ、
寒さが厳しくなった冬の日。
禁じられた森の湖のすぐ傍の木の上で休んでいると
「はぁ…アリシア、可愛かったなぁ…」
なんて小さく呟く声が下から聞こえた。
「………良かったじゃない、ジョージ」
どこからか聞こえた声に驚いたジョージが
キョロキョロと辺りを見渡す。
「上よ、上」
「あぁ…ハナか」
「ごめんね、アリシアじゃなくて」
「それは別にいいんだけど…聞いてたんだ」
「…聞いてたじゃなくて、聞こえただけ」
私がいる木の下に、ジョージが腰掛ける。
「うん、聞かれたなら仕方ないなぁ。
今日、アリシアがさ」
なんて 何も聞いていないのに、
ニコニコと笑顔で話し始めるジョージ。
「あ…予鈴なっちゃったな!ハナも戻る?」
遠くで鳴った予鈴の音に反応して、ジョージが立ち上がる。
「ううん、私はあとから行くね」
彼の問いかけに笑って見せれば
そっか、なんて彼からも笑顔が返ってきた。
雪に足跡を残して
早足で去って行くジョージのその背中を見つめる。
「…アリシアの所なんて行かないで、ジョージのバカ」
小さく呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく、ただ真っ白な雪に吸いこまれた。
伝 え ら れ な い 儚 さ を
(( 降り積もる雪に、残して ))
( 私を見てもいない彼に
好きだよ、なんて言える訳ない… )
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