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□まだ少し、
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私はいま、人生で一番

後悔しています。


そして、世界で一番、

自分を嫌いになりました。



ーー愛しい人は、

私の大切な人と結ばれました。







―――――――――




休日、階段を下って談話室に行くと



一番の友人アンジェリーナがいて。


その隣に並んで座るのは、


私が密かに想いを寄せている相手フレッド。






「アンジェリーナ、フレッド! おはよ!」


「あ、ハナ、おはよ!」


「おはよ。」



「あら、フレッドが宿題なんて珍しいね!」



「私のうつしてるだけだけどね」


「やっぱり?」


「ま、俺にかかれば写さなくても余裕だぜ」



「あ、そう。

それならこれ返してもらうわよ」



宿題を取り上げるアンジェリーナを見て


「あー、冗談だって!」


と、焦るフレッド。




「仕方ない。見せといてあげる」


そう言って微笑んだアンジェリーナの優しい笑顔に、



もしかして、って…思ってしまった。





「ねぇ、…あのさ

ふたり…付き合ってる?」



「あー…うん」


「ああ。」




小さく頷くアンジェリーナと


自信満々に頷くフレッド。




「ん…そっか」



なんだか、胸が痛くて


" どうしてアンジェリーナなの? "

" …出会わなければ良かった "

" 好きにならなければ… "



 なんて、そんな醜い考えが

どうしようもない嫉妬心が胸をよぎった。




「っ、もう、やっとくっついたんだね!


アンジェリーナとフレッド、


見てて焦れったかったのよね!」



大好きなアンジェリーナに嫉妬してる自分に


愛しい人の幸せを素直に喜べない自分に


どうしようもなく腹が立って、悔しくて

その気持ちに、


ただ必死に、気づかないフリをした。




気まずくなるのが嫌で、笑顔を作った。



(( …お願い。

作り笑顔に、気づかないで。 ))





「サンキュ、ハナ。

俺トイレいくわ」



「ん、了解。」




廊下を走っていくフレッドの後ろ姿を

黙って眺めていると





「ハナ…あのさ…、」




気まずそうに俯くアンジェリーナがそっと私の隣に並ぶ。


気を使わせないように、

出来るだけ明るく声を掛ける。


まるで自分に、言い聞かせるみたいに、



「アンジェリーナとフレッドが…二人が

幸せなら、私はそれでいいの


…ほら、そんな暗い顔は

アンジェリーナには似合わないよ!」



「ハナ…ごめ」


"ごめん"と言いかけたアンジェリーナの言葉を遮る。



「…アンジェリーナ、

ごめんねは、言わないで?


その代わり、笑ってて。」



「…ん、わかった。」




私の言葉に、何度か頷くアンジェリーナ。




「悪い!遅くなった」



慌てて走ってくるフレッドの後ろには、

彼の片割れのジョージ。



「遅い、待ちくたびれた」



そう言って笑うアンジェリーナの頭を

優しく撫でて笑うフレッド。




( いつもなら、笑顔でいたのは私の方だったっけ… )


そんなことを思って、寂しさを隠しながらも


二人を見て笑っていると、





「…ハナ、」




私の気持ちを知る

彼の片割れ、ジョージが私を覗き込む。




「ジョージ…私なら、大丈夫よ」



にこり、と笑って見せれば、

少し安心したようにジョージも笑う。




「ねぇ! お腹すいたし、ご飯食べに行こうよ」


ジョージの背中を押しつつ


笑って二人の横をすり抜け、少し足を速める。




「押すなって」


「あ、ハナ待ってよ!」


「走んなよ」




笑って追いかけてくる二人を見て


"出会わなければ…"  


なんて、そんな悲しい気持ちは消えたんだよ。






まだ少し、



(( 切ないけれど…もう少ししたらきっと、

誰より応援できるから


それまでは、何も言わずに待っていて… ))





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