超能力者の一人は“元”別世界出身者

□序章
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『――それじゃ、向こうで会えたらね〜』

『ええ。向こうで会えたら、その時はデュエルね。ついでにフレンド登録も』

『うん。それじゃあまた〜』

ピッ)

「……よし」


時は2022年7月3日の日曜日。

もっと正確に伝えると、後30分で時計の針は1と12を指す。

私は今日この日を、ずっと楽しみにしていた。

何故かって?

理由は簡単――、

今日から2か月、9月3日までに(わた)って、つい最近発表された新たなゲームジャンルのソフト、《ソードアート・オンライン》のβテストが始まるからだ。

つい先ほどまで話していた相手も、1000人にしか与えられないβテスターの資格を得た一人。

向こうで落ち合う約束をしてもよかったんだけど、それじゃあつまらない。

それに、別にリアルで約束とかしなくても会おうと思えばいつでも会える。

その手段については、今は秘密。


コンコン


この時、私の思考を遮るかのように鳴ったドアのノック音。

今この家にいるのは私と《あの人》しかいない――。

《あの人》は、姪である私を良く可愛がってくれている。

だから、親も妹も家にいない状態を心配してくれて来てくれているのだ。

私はドアの向こう側にいるであろう《あの人》に、警戒することなく答えた。


「どうぞー」

「失礼するよ」

ガチャ

「……もう準備を始めていたのかい、リリアーヌ」

「ええ。1分1秒遅れることなくログインしたいもの」


扉が開いた先に立っている人物――、『茅場 昌彦』。

VRMMORPGゲームソフト、通称SAOのディレクターで《ナーヴギア》をはじめとした完全ダイブ用マシンの基礎設計者。

そして天才的ゲームデザイナーにして量子物理学者としても有名なこの人は、私の父方の叔父にあたるのだ。

私自身、何てすごい家庭に生まれたのだろうとよく思ってしまう。


「君のことだから、止めても無駄なのだろうね」


叔父さんは、今日この日まで私が《ソードアート・オンライン》をやることに悲しんでいたのだ。

只のゲーム、ただのβテストなのに、叔父さんは幾度となく私がプレイすることを言葉で優しく止めようとした。

――いや、言葉ではっきりと入っていないものの、実際は反対していたのだろう。

その理由は話されていないけれど、私にはわかる。


「私も結構なゲーム中毒者だもの。それにね……」


私は一旦ここで言葉を区切った。

叔父さんは疑問を浮かべたような顔で、私を見ている。

もう私を止めようとはしていないのだろう。

――だからこそ、この言葉を伝えなければならない。


「私は死なないよ――、叔父さん」

「!」


叔父さんは、私の言葉に驚いていた。

まあ、当然なんだろう。

たかがゲームをするプレイヤーが、こんな言葉を言うのだから。

でも叔父さんの事だから、私が叔父さんのことについて色々情報を掴んでいるのもすぐに分かっただろう。

叔父さんは、本物の天才だものね。


「……そうかい。これは、君が最終プレゼントを受け取りそうだ」

「?……兎に角、そろそろ時間だからスタンバイするね」

「ああ、楽しんでくるといい」

「ありがとう」


最終プレゼント、その言葉の意味は分からないものの、いずれ分かるだろう。

そう思った私は叔父さんに時間を告げ、退出してもらった。

と言っても、時間はまだ15分ほど残ってるんだけどね。


「………」


叔父さんが部屋から出て、一人になった。

私がリンク・スタートしたのを確認したら、叔父さんは《アーガス》の本社に戻るはずだ。

まあ、それはどうでもいいよね。


(あの日から、かれこれもう14年、かぁ……)


私は一人になると、よく《あの日》のことを思い出す。

そう、過去の自分の終わりと、新たな自分の始まりを同時に告げたあの日を――。





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