零番目の罪
□第1章 鎧
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移動する酒場ーー豚の帽子亭には、今日も笑い声が響いていた。
「ハイお待ちっ!」
金色…というより、黄色の髪をした緑の瞳の少年は、そう言って酒樽を客の前に並べた。
少年は特に顔形がいいというわけではなく、どこにでもいそうな普通の少年だった。
一方でーー、
「食い逃げ、する気じゃないよね?」
そういって客の首根っこを掴む美少年がいた。プラチナブロンドの短髪に、宝石のように綺麗な琥珀色の瞳。
その顔は無表情なのに、周りが凍りつくほどに冷たく恐ろしい。
「ま、ままままさか!」
客は慌てて金を握らせると、そのまま逃げるように帰っていった。
少年は持たされた金を数えて、それを満足げにポケットにしまった。
…とはいえ、そんな些細な表情の変化が読み取れるのはこの店のマスターである少年くらいだが。
「こらこらノア〜、商売なんだから常に笑顔じゃないとダメだぞ!」
ノアはキョトンとして、それから頷いた。
「(にぃこ)」
口の端をあげて目を細めたノアは、ひどく不気味だった。
こんなに笑顔が下手な人間がいるのか、と思うほどに。
だから少年も、
「あー…やっぱさっきのままでいいかな」
と、いうしかなかった。
店内の温度が5度ほど下がり、客がカチンコチンに固まったところでドアが開いた。
「大変だっ…!錆びた鎧の、騎士が…」