とある神官さま!!

□牡牛座
1ページ/1ページ

「優斗、ちょっと良いか?」

「あ、シオン。
 どうかした?」

神官が白羊宮を歩いていると、
その宮の主人が静かに呼び止めた。

「ああ、いや…その。」

足を止めてくるりと彼を見やると
何処と無く歯切れの悪い声を洩らした。
こんなにモジモジしたシオンは珍しい。
普段の彼ならバシッと明朗快活に
物を言い切るのにと優斗は首を傾げた。

何がシオンをこうさせているのか。

「いや、ごほん。」

自分でも己の態度が気恥ずかしくなったのか
軽く咳払いをするシオンの言葉を
優斗は静かに待った。

「実はアルデバランの誕生日が近くてな
 彼の弟子達が相談してきたんだが、
 私はそういうのが…得意では、ない。」

シオンの言葉に、そういえば
そわそわした気配を他にも感じるのは
テネオ達だったのかと優斗は納得した。
そういう事だったのか。

「テネオ達はアルデバランが
 びっくりする様な贈り物をしたいそうだが
 流石に意表を突ける贈り物など
 私は思い浮かばず困っているんだ。」

「僕らも色々考えてみたんだけど、
 最近アルデバラン様と会える時間も
 少なくなって様子が分からないだ。」

シオンの陰から飛び出してきた小柄な影が
優斗の腰にギュッとしがみついてきた。
一瞬驚いたものの、それが親しくしている
聖闘士候補生だと分かり、ほっとする。

「サロ!!
 優斗様を驚かすな!!」

慌ててサロを諌めながら出てきたテネオと
セリンサに、お馴染みの3人組が顔を揃えた。

「こらサロ!離れな!!!」

「すみません、優斗様。」

「ああ、良いのよ。大丈夫だから。」

いちいち所作が幼い弟分の様子に
2人が頭を抱えるのもいつもの光景だ。

「まあ、そんな訳で何かお祝いしたいけど
 何が良いのか分からなくて、それで
 シオン様に聴いて頂いていたんです。」

「なるほどね。」

可愛いなぁと笑みが零れそうになるのを
優斗は彼らに悟られないように
そっと唇に力を込めた。















ハスガードからすれば、己の誕生日だろうと
普段と変わらない1日の筈だった。
そもそも『アルデバラン』となった己に
ハスガードとして生を受けた日など、
価値がないと言えば言い過ぎだが
特に覚えておくべき日でも無い。
その程度。



5月18日の夜。

「今日は随分とやる気があったものだ。」

夕方に稽古をつけた己の3人の弟子の顔を
思い出しながら、ハスガードはアテナに
謁見すべく十二宮の階段を登っていた。

「アルデバラン、参りました。」

「お疲れ様です、アルデバラン。
 問題ありませんか?」

にこっとサーシャが微笑んで牡牛座の
労をねぎらう言葉を掛けた。
それに丁重に応えながらハスガードは
つつがない旨を返すと女神は
彼にとって意外な言葉を発した。

「今日はあなたの誕生日でしたね、
 アルデバラン。」

驚いて顔を上げたハスガードに
サーシャがふわっと笑う。

「あなたが牡牛座の黄金聖闘士として
 この聖域を力強く守り、次代の子らを
 健やかに育ててくれていて、
 いつだって心強く思っています。

 あなたがいてくれて、私やセージをはじめ
 他の黄金聖闘士達や優斗も
 とても嬉しく思っています。

 いつもありがとうございます。」



「勿体無いお言葉、痛み入ります。」

「これからもお願いしますね、
 アルデバラン。」

言葉を返しつつ、彼は頭を深く下げた。
サーシャが語った想いにハスガードが
下げた頭を上げられなかったのは
このような表情を主人に見せる訳には
いかなかったからである。

…いかなかったからであるのだが。

「さぁ、もう金牛宮に戻ってください。」

「はっ。…では下がらせて頂きます。
 アテナ。」

追い立てられては仕方がなかった。

やんわりと、だが有無を言わさぬ小宇宙に
ハスガードは失礼の無い範囲で
最も素早い動作で教皇の間を去った。
 
礼儀を重んじる、そんな彼の珍しく動揺した
姿を思い出してサーシャは教皇の間でひとり、
思わずくすりと笑みを零した。

そう。
金牛宮では今頃彼の弟子とシオン、そして
ハスガードの為に自らカヴァ(酒屋)で
彼が好みそうな酒を選んだ優斗が
とびきりのご馳走を用意している筈だ。

そう、ハスガードの為に。

アルデバランとしての彼は立派だが、
ハスガードとしての彼もとても
素晴らしい、情に厚い優しい人だ。
使命の為に一度きりの人生において
素の自分、ハスガードを消し去るのでなく
大事に、共に生きて欲しいと
サーシャは願っている。
それは、彼の親友であるシオンも
優斗も同じ想いの筈だ。



「私達も今度、ご相伴に預かりたいですね。」

「アテナ様の為なら、優斗はいくらでも
 腕を振るいましょうぞ。」

静かに現れた教皇に女神は悪戯っぽく笑うと
老教皇は愛娘を思い浮かべ、応えた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ