とある神官さま!!

□牡牛座
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「どこに行くのかと思ったら。」

マニゴルドに優斗がつれて来られた
場所は聖域とは目と鼻の先のロドリオ村。

村に入っても、変わらずひょいひょいと
屋根から屋根に飛び移るように移動する
マニゴルドに優斗は焦った。
いまだ、横抱きにされたままなのだ。
村の中の様な人の目がある所では
恥ずかしくて死にそうな優斗に構わず
男は涼しい顔で蒼髪を風に靡かせた。



何の変哲も無い扉の前に降り立つなり
傲岸不遜とも言える口調で呼び掛けた男に
呆れ混じりの溜息が返ってきた。

「おーい、牛!」

「…マニゴルドよ。お前、もう少し
 マシな口の利き方は出来ないのか。」

「あ、アルデバラン様。」

ぎぃっと軋み声を上げて開いた扉から
窮屈そうな体勢のハスガードが顔を覗かせた。
年長者の牡牛座の黄金聖闘士が浮かべる
苦虫を噛み潰した様な表情にはどこ吹く風と
マニゴルドはにやにや笑いながら
腕に抱えている荷物を差し出した。


荷物ーーーー優斗だ。

同僚の行動の意図が掴めないハスガードの
視線が青年と神官を見、表情に怪訝さが増す。
いきなり訪問して来たと思ったら
何も告げずに人間を差し出されれば
誰だってそうなるだろう。

一方、優斗は冷や汗ものだった。
彼女自身、あまり多く関わった事は無いが
シジフォス達と幼馴染同然のこの偉丈夫は
礼儀作法に厳格な人物と聞いていたからだ。

「どういう事だ?マニゴルド。
 どうして「あーめんどくせ」

「きゃあ!!」

「優斗殿!」

痺れを切らしたらしいマニゴルドによって
放り投げられた優斗をハスガードが
慌てて無理のない体勢で抱き留めた。

「マニゴルド!お前…!!」

「まあまあ!!カッカすんなって!
 この神官殿は聖域にいたら仕事しちまうから
 今日1日聖域立ち入り禁止っつーわけ!
 ここなら仕事しようがねぇだろ?
 っつーことで、じゃー任した!!」

言いたいだけ言うとマニゴルドは姿を消した。
まるで嵐。
後に残された者たちは狐につままれたような
想いで一瞬前まで男がいた場所を見つめた。

「「……………………………………。」」

開いた口が塞がらないとはこの事だろう。

後で師匠に言いつけてしまおうと密かに
誓っている優斗は知らない。

聖域立ち入り禁止は教皇勅命で
蟹座の黄金聖闘士に言い渡されたものだと。

「まったく…仕方のない男だ。
 優斗殿、怪我はないか?」

ハスガードに抱えられたまま覗き込まれて
漸く優斗は現状を思い出した。

「わ、ごめんなさい!!アルデバラン様の
 おかげで怪我はありません!」

慌てて謝罪する優斗をハスガードは
ふっと笑いながら床に降ろしてくれた。
その巨躯からは想像しづらい程の繊細な
動きに優斗は深く感心した。
流石、多くの子供を預かるだけある。

一方のハスガードも彼女の言葉に柔らかな、
だが確かな苦笑を浮かべた。

「俺よりも確かに優斗殿は年下だが
 教皇セージ様麾下の神官であるお前は
 我ら黄金聖闘士と同格とも言えるだろう。
 様付けはいらんな。」

「では、アルデバラン、貴方も私の事は
 ただ優斗と呼んでください。」

お互いに、どこかこそばゆさを感じる
笑顔を交わしながら位置付けを固める。
相手を立てる事と併せて、距離を縮めたい
意思表示の互礼だ。
なんだか、こんなやり取りをするのも
久し振りな気がした。

「ああ、そうさせて貰おう。優斗よ。」

「宜しくお願いします、アルデバラン。」

大きな手にふんわり包まれる柔らかな握手を
交わせば、ふと己に向けられている
多くの視線に気付いた。
その迫力に多少気圧されたものの、
沢山の好奇心を滲ませた幼い瞳が並ぶ中に
優斗は見知った顔を見つけた。
同時に向こうも気付いた様で声をかけて来た。

「おや、優斗さんじゃないか。」

「あれ、セリンサ?」

顔、と言うには語弊があるかもしれない。
それと言うのも、聖闘士候補生の彼女は
仮面を着けているからだが、短くはねた
空色の髪と声はセリンサそのものだ。
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