とある神官さま!!

□変革
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「んはは!魚座の聖闘士と一緒にいたのを
 見てピーンと来たんだぜェ。」

猛けるシオンと交戦しながらもその合間に
杳馬がクリスタルウォールの向こうから
ニヤニヤしながら語り掛けてくるのを
優斗は正面からまっすぐ見つめた。

正直、杳馬の圧倒的な闇を内包した小宇宙は
優斗など正に赤子の手を捻るよりも
容易く死を与えるだろう。
そんな恐ろしさしか感じない小宇宙に
優斗は初めて触れたのだ。
この上ない恐怖に襲われている優斗だが
それでも逃げない、闘うと腹に決めた以上
傍らにあるアスミタの陰に隠れるなんて
皆と共に並び立てない事はしたくなかった。

「魚座の兄ちゃんも随分優斗チャンが
 大事で大事でしょーがないって面ぁ
 してたしなぁ。それも、あの魚座が!」

杳馬の物言いに引っかかるものを感じた。

「あの、魚座って…!?」

言葉少なに、しかし確かに反応した優斗に
杳馬はますます笑みを深めた。

「決まってるっしょ♬毒薔薇の孤高の魚座が
 あれほど他人に心を開いてるっつーたら
 やっぱりそこにつけ込むべきっしょ☆」

「くっ!!この外道が!!」

唯一無二だろうからなぁと嗤う半神半人に
シオンが拳をふるった。
黒い鞭のような歪みが室内を縦横無尽に
3人に襲い掛かってくるため、
シオンにも優斗を庇うアスミタにも
少しずつ傷が増えていく。

「あんだけ大事に大事にされてるっつーのに
 気付かずに自分は要らない人間だなんて
 卑下する優斗チャンも滑稽で
 ほんっと、サイコーだったぜぇ!!」

杳馬の言葉に顔が熱くなる。
この悪魔の言う事は真実だ。


ずっと、自分の事しか見えていなかったのだ。

ずっと、自分に向けられた愛情に無頓着で

ずっと、自分が役立たずだと拗ねていた。

いい歳をした大人が幼子のように。


「そうね、あんたの言う通り
 私凄く滑稽だったと思う。」

優斗が大切だと思っている彼等が
これ程まで慈しんでくれてきた自分自身を
最も蔑ろにしてきたのは、他ならぬ優斗。

どうしようもなく恥ずかしかった。

「過去は変えられない。
 でも、気付いたもの!!!
 何が大切なのか、どうすればいいか!」

大きく息を吸う。
大丈夫、もう迷わない。間違わない。

「今から変えていけば良い!!
 過去の私よりもずっとずっとずっと!
 聖域の皆を信じて大事にしていける!!」

「なるほど、それが君の理かね。
 優斗。」

「ええ。」

アスミタの問いに優斗は深く頷いた。
そんな彼女にふっと軽く笑うと
アスミタは前方で闘う同胞に声を上げた。

「シオン!
 私がこの鬱陶しい歪みを消す。
 その後あやつに技を打ち込むのだ。」

「ああ。」

アスミタが印を結んで叫んだ直後、なにやら
怨霊のようなものが大量に飛び出して来て
優斗をギョッとさせた。
頭上を過ぎていく魑魅魍魎が次々と杳馬が
出している歪みを次々と相殺していく。

「くっそ生意気だぜ!
 アテナの聖闘士どもぉ!!」

「スターダストレボリューション!!!」

杳馬が怯んだ一瞬の隙を突いたシオンが
牡羊座の奥義を叩き込む。

「やった!!」

「くっそくっそ!!!てめえらムカつくぜ!
 消えちまえよー!!!!
 リワインドワールド!!!」

シオンの攻撃をまともに喰らった杳馬が
鬼の形相を浮かべながら技を発動させた。

「こ、これ何!?」

自分の身体に無数の時計が浮かぶ。
だが、それよりも重大な変化が起きていた。

「か、身体が子供に戻ってく…!!」

隣のアスミタも同じ速さで
髪の毛が短くなり、身体も痩せ細っていく。

「いかん!!」

「このままでは胎児以前に戻されてしまうぞ」

「んははははははは!!
 こうなりゃ跡かたもなく消えるだけだぜ」

ボロボロの姿で杳馬が高笑いする中
3人の姿は瞬く間に消え去った。










 
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