とある神官さま!!

□再接続
1ページ/1ページ

「そんな事、私が許さん!!」


悪魔の指先が優斗に触れる事はなかった。

突如響いた憤怒を孕んだ一喝と共に現れたのは
優斗の目の前に輝くクリスタルの壁と
黄金の羊を纏った青年の背中。



「………し…おん?」



「ああ。間に合ったようだな。
 無事か、優斗?」

「……ん………。」

背中を向けたままだったが、
優斗にその安否を気遣うシオンの声に、
奥底から一気に涙がせりあがってきた。
ぎゅうっと胸がいっぱいになる感覚に
大きく息を吸ってから声を絞り出した。
本当に微かな音にしかならなかったが
優斗の声を、シオンは確かに拾っていた。
彼女からは見えないシオンの表情だが
それでも穏やかに笑いかけてくれているのが
その小宇宙から感じ取れたのだから。



………来て、くれた……!



私から離した手を、繋ぎ直しに

追い掛けて来てくれた。


それだけでもう涙が止めどなく溢れてくる。
もう二度と戻れないと思っていた、
もう会えないと思っていた。

言葉にならない。
涙を何度も両手で拭い去りながら、


「迎えに来た。
 だから帰ろう、私達の聖域に…!」

シオンの言葉に必死に首を縦に振り続けた。

帰って来いと。

待っているのだと。

シオンから聖域の皆の小宇宙を感じる。
気を抜けば子供のように大声をあげそうで。
優斗は引き攣る口許を必死に
なんとか動かして大きく息を吸いこんだ。

「帰り、たい………!!!」

「んはっははははは!!!
 このアメ細工、久し振りじゃねえか♬
 なあ?シオン様よぉー!!!!
 やっぱりてめぇは最高だぜ優斗チャン♬」

クリスタルウォールの向こうから突如
響いて来た哄笑にシオンの表情が
一気に厳しいものに変わった。

「お陰で分岐点が出来たぜ♬
 このクソ生意気なシオン様を
 ミンチにしてやれるチャンスがよォ!!」

「消えろ、カイロス!!言った筈だぞ。」

邪悪な笑みを浮かべる時の神に
シオンは小宇宙を更に燃やしていく。


これ以上私達を弄ぶ真似は許さんと。


聖衣継承試験で対峙した折には散々
先代牡羊座アヴニールの想いを踏み躙り、
今もなお、優斗の運命を弄ぼうとした。
シオンの激怒を招くのは当然だった。

「この代償を払って貰おう!!カイロス!!」

「人間のお前ェがかよ、シオン様ぁ!!
 俺だって昔、お前ェに無駄死にさせて貰った
 俺の分身の礼がまだなんだぜ!!」

一触即発の緊張感が走る。
杳馬から迸る深い闇が迫ってくる。

「んはは!このクソ狭ぇ部屋で闘れば、
 弱っちいギャラリーの優斗チャンは
 一溜まりもねぇだろうぜェ?
 庇いながらどこまでやんのか見ものだな?」

邪悪な笑みをシオンの肩越しに向けられた
優斗が一瞬強張るものの、
力強い光を宿した視線を返して来た。
精神的な揺さぶりにも乗ってこないふたりに
杳馬は忌々しそうに舌を打った。

「私は絶対に聖域に帰る!!
 聖域の皆と一緒に最後まで闘う!!」

もう、絶対に手放したりしない。
二度と、大切な人の想いを疑ったりしない。

「私…まだやるべき事がある!」

こんな所で、死んだりしない。


「もう迷わないって決めたの。」


優斗の声にシオンがふっと笑った。
そして、わずかに顔を後ろに向けると
流した視線が優斗と交わった。


「だ、そうだ。くれぐれも優斗を頼んだぞ。
 ………私はこの悪魔との因縁を断つ!」


放たれた言葉は優斗にも
杳馬にも向けられたものではない。
戸惑う優斗の耳に届いた声の主は
彼女が思いもよらない人物だった。

「誰に言っている、シオンよ。」

憮然としているのか、聞き流しているのか
読み取りづらいトーンの声が応じた。
シオンが来てくれた事にも驚いたが
まさか、彼が来てくれるとは。

「何の間違いが起ころうとも、優斗の
 髪の毛一本たりとも奴にやる事はない。」

サラリと流れる金糸と黄金聖衣。




「この乙女座のアスミタがな。」





Reconnect

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ