とある神官さま!!

□時の神
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ふんふんふーん♬

杳馬は機嫌が良かった。
思わぬ所でとても面白いものを拾ったからだ。
魚座の黄金聖闘士と和やかな雰囲気で
歩いていた時は彼女の心は柔らかな
シャンパンゴールドのように美しかった。
なのに、魚座による彼女の無茶を咎める
ひとことで一気に闇と混ざり合ったのだ。
杳馬にとっての、最高のマーブル模様。

心の片隅に堅く留めていた堰が決壊するように
溢れた闇が光を飲み込むべく混ざり込んだ。

面白い♬

面白い♬

清廉な心の裏に、彼女が押し殺した本心。
明るい笑顔の裏の、昏い憂い。
他者を応援している心が、嫉妬に歪む。
強くあろうとすればするほど、心は弱くなる。

ぐるぐるぐる。

神殺しの魂の息子テンマを知っていて、
猛毒の血を持つ魚座の黄金聖闘士とも
あれだけ近い所にいる女なのだ。

聖域にとっても、あの聖闘士にも
この娘は大事な存在に違いない。
そんなの見てりゃ分かるのさと杳馬は笑う。

だが、この娘は自ら消える事を望んだ。
それはより一層、悪魔の興味を引いた。
自分が持っているものが見えていないのだ。
それは、いつの時代も人間が持つ癖だ。



−な、望みを叶えてあげようかい?

−消えなくちゃ、私…

−へえ?そりゃまたどうしてだい?

−私は、私の大事な人達にとって『害』だから


そんな風にゃ見えんがね。


顔を歪めて嗤う杳馬の顔は
虚ろな瞳で床を見つめる優斗には見えない。
もちろん、親切に教えてやる事はしない。

「(教えた所で信じないなら、
 教えてやらなくても同じだろ?)」

せっかく、俺の腕の中で丸まっている
仔猫を放り出すなんて勿体無いじゃないか。



−俺と一緒にいたらいいさ♬

−…あなたと?

−俺にとっちゃあ、あんたは害にも
 不利益にもなりゃしねえよ。

−……………。

−俺の所にいりゃあ、あんたの大事な人達の
 害になる事もねぇ。消えなくていーだろ?
 で、俺もあんたといられてハッピー♬
 ほら、な?



    み ん な が ハ ッピ ー だ ろ う ?




悪魔の甘い甘い誘惑が優斗の耳を侵す。
優斗の心についた無数の傷ひとつひとつに
優しく軟膏薬を塗りこまれていくような
ちくりとした痛みと安心感。
遠き過去に喪った父母を思い出す温もりに
優斗は心が安らぐのを感じていた。

目の前の男の顔が、自分をよく慕ってくれた
天馬座の少年に良く似ているせいか、
警戒するのも馬鹿馬鹿しく思えてくる。
妙な懐かしさはきっと同じ民だからか
顔立ちの系統が似ている気がするせいか。
何より、彼が紡ぐ言葉は優斗の心が
ずっとずっと抱え込んでいたものを
ひとつひとつ解放してくれるものだった。




【害にも不利益にもなりゃしねえ】

【消えなくていーだろ】

【あんたといられてハッピー】




ずっとずっと欲しかった言葉。

ずっと抱え込んでいた不安が昇華されていく。



「私は、いてもいいの…?」



涙で濡れた顔を向けてくる優斗に
杳馬はあたかも罪人に赦しを与える
聖人さながらに微笑んでみせた。
その裏に、謀略に染まった瞳を隠して。


そーら、毒の完成だ♬

安心しな、あんたは檻に入れて

大事に大事に俺が飼ってやる♬






大間抜けな聖域の連中が


あんたを永遠に見失う、その時まで。






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