とある神官さま!!

□魚座
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ハスガードがまるで内緒話をするかの様に
優斗に告げた名前。
言われて初めて気付いたその小宇宙だが、
無事にその人が帰還した嬉しさに
優斗は華開くような笑顔を見せた。

今にも駆け出したがる仔犬みたいな神官が
自分の腕を引いてくるのを見て
この偉丈夫は微妙な気持ちに襲われた。

今日ともに過ごすうちに、彼女の笑顔は
幾度となく見る事は出来た。
だが、この笑顔はそれらのどれよりも
喜びの感情に溢れているのが、付き合いが
浅いハスガードでも否応無く分かった。

「アルデバラン、行こう!」

「そう急がずとも、あやつも俺たちに
 気付いているぞ。」

ぽんぽんと頭を撫でられる。
その手に促される様にもう一度前を見れば
いつの間にかこちらを向いて微笑む彼と
視線がぶつかったのが分かった。

「な?」

ハスガードの穏やかな声が鼓膜を震わせた。







 
「アルバフィカ!!お帰りなさい!!」

「戻ったか、アルバフィカ。」

牡牛座の黄金聖闘士が言った通り、
先を歩いていた筈の魚座の黄金聖闘士は
通りの端に寄ってふたりを待っていた。

「ね、大丈夫?どこも、怪我してない?」

優斗は駆け寄るならアルバフィカの
頬に手を当てサッと彼の身体を検分した。

黄金聖闘士が出張る任務ともなると
きな臭いものも多くなってくる。
神話の時代から争っている種族の封印や
冥闘士の討伐、対立する神々の調査など
地上最強を誇る黄金聖闘士といえども
無傷で帰ってくる事は滅多にない。

「そう心配せずとも大丈夫だ、優斗。
 今回の任務での傷はない。」

だから、この夕暮れの人々で賑わう村の中を
抜けていられるのだと笑ったアルバフィカに
優斗はほっと息をついた。

彼が持つ毒の薔薇と血については、
敵以外の全てに害が及ばぬ様に心を砕いている
アルバフィカが言うのであれば大丈夫だろう。

「よかったぁー!お帰り、アルバフィカ。」

「ただいま、優斗」

両頬に当てられた優斗の手に、
アルバフィカは素手の己の手を重ねて
ゆっくりと下ろさせた。
一見拒絶見えるが、優しい一連の動作に
この青年の優しさが感じられる。

「君が毒に耐性があるとは言え、
 あまり長く私に触れない方が良い。」

「大丈夫よ、怪我してないんでしょ。」

「そうはいってもだな」

のらりくらりと躱そうとする神官と
眉間に軽く皺を寄せた魚座の青年のやりとりに
牡牛座の聖闘士は思わず吹き出してしまった。

「ははっ、お前がそんな表情をしているのは
 初めて見たぞ、アルバフィカ。」

「アルデバラン。
 あなたもあまり私に近付かない方が良い。」

「怪我してないんだろう?大丈夫だ。」

敢えて神官と同じ言葉で返して見れば
面食らった表情をしたアルバフィカに
偉丈夫はますます声をあげて笑った。

「…珍しい取合わせだな。」

ハスガードは小宇宙を感じていなくても
2mを超す巨躯の彼を視認出来ていた。
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