とある神官さま!!

□Try Try Try !!
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新年の初日。
教皇の間の玉座に座す女神アテナに教皇、
12人の黄金聖闘士が顔を揃えていた。

己の手で焼き上げたヴァシローピタを
捧げ持った優斗は緊張した面持ちで
その中央にゆっくりと歩を進めていた。

新年の大事な儀式だから失敗は出来ない…!

皆知った顔の、所謂身内での儀式で
然程かしこまる必要も無いのだが、
何故一年の始まりの大事な儀式の要を
自分が担う必要があるのか。

優斗は困惑していた。

しかし困惑していても儀式は進む。
黄金聖闘士達の前を抜けると
優斗は玉座の下の階段に進み出た。

「アテナ様、新年の慶び申し上げます。」

膝をつき恭しく形式に乗っ取った口上を
述べると優斗はケーキを頭上に捧げ持った。

「教皇セージ様、女神アテナに
 忠誠を誓いし我らを束ねる者として
 祝福の分配をお願い申し上げます。」

「その役目、しかと承ろうぞ。」

セージが控えの女官からナイフを受け取ると
階段を降り、優斗の前へと立った。
しっかり焼き上げられた生地に
粉砂糖をまぶしたシンプルなケーキは
新年の祝いにギリシアで用いられるものだ。

最初の一切れは神に捧げるものとして
次の一切れはその大黒柱的な存在の為
残りは民草への祝福として分けられる。

セージはスッとナイフを切り入れると
そのしきたりに従い、アテナと己の分を
取り分けた後のヴァシローピタを
綺麗な13等分に切り分けてみせた。
それを黄金聖闘士達に順に配ると
最後に残った一切れを小皿に移すと
優斗にそっと手渡した。

ここで驚いたのは当の優斗だった。

「えっ、私も…ですか?」

「勿論です、優斗。
 貴女は例え聖闘士の様に闘わずとも
 いつだって私やこの聖域を
 支えてくれていますもの。」

こんな肩書きだけはお偉い方々が
揃い踏みしている中で自分も頭数とは。

てっきりヴァシローピタの焼き上げと
給仕するためだけの役目だと思っていた
優斗にサーシャがはにかみながら答える。
紡がれる言葉に温かい想いが込められている。
それを直感的に感じ取って優斗は
素直に最後の皿を受け取る事にした。


* * * * * * *


「では、いただきましょう。」

サーシャのにこやかな号令で
各々がケーキにフォークを差し込んだ。

流石に作った身としては、ヴァシローピタの
その出来がとても気になってしまう
優斗の手は他の者よりも進みが遅い。

心配そうに見つめる優斗に
最初に気付いて微笑んだのはシオン。

「大丈夫、とても美味しいですよ優斗殿。」

それに続いたのはアルバフィカ。
薔薇の香気に混ざって何度も焼き菓子の
匂いが隣の宮から漂って来たのを知る彼も
優斗の努力を知っているひとりだ。

「ああ、美味しいからそんな顔をするな。」

「ほんと…!?アルバフィカ…。」

「新年に相応しい良い仕上がりだよ。」

「シジフォス。」

「そうだな、悪くないと俺は思う。」

「努力家のお前が頑張って作ったんだ。
 不味い訳がないと思うがな。」

「エルシド、デジェル…!!
 良かったぁーありがとう!!」

「普通に美味しいよ!」

だからそんなに心配しないでと
天真爛漫に笑うレグルスにも釣られてしまう。
皆からお墨付きを貰って安堵の表情を
浮かべる優斗に、その場にいた者が
彼女が真剣に準備していた事を実感する。

「ていうか、お前が自分の分を食えば
 美味いか不味いかくれぇ分かるだろ?」

マニゴルドにせっつかれて優斗は
慌てて自分のケーキにフォークを入れた。


カツン。


「!!これ……。」

ケーキとは違う硬い手応え。
焼き上げる直前の生地に入れたそれは。



「まぁ、幸運のコインは優斗の分に?」


サーシャの声に喜びが混じる。
ヴァシローピタを切り分けたピースで
コインが入っていた者は今年一年間の
幸福に恵まれるという言い伝えがある。

新年最初の運試しでもあるのだ。

「良かったな、優斗。」

密かに気になっているその彼が
目が合った瞬間にそんな風に
不意に笑い掛けるものだから。




優斗は赤い顔を隠すのに必死だった。






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