WJ作品

□デスノ連載_とんだ個人医院
2ページ/5ページ

【第一章】

ブリジット
「別れましょう…
私、来月結婚するの」

メロ
「例の彼氏と?
そっか、おめでとさん」


一つしか年の変わらないブリジットの卒業は再来年である。
今この時期に結婚と云うと、所謂《できちゃった婚》だろう。
その子が本当に彼氏の子であればいいのだが…


メロ
「まぁ俺にそっくりの子が出て来たって、責任取れとは云わないだろう。
次に別れ話を持ち出しそうなのは、来年卒業のソフィアか?」


普段ジゴロを気取ってるだけあって、女の方から別れ話が上がってもメロの方は淡々としたものである。
年下は後腐れがあって面倒くさい、そう云って年上ばかりと付き合っていたこの青年だが、実は今夢中になっているのは同い年の同性なのである。



とんだ個人医院
〜連載編2〜



メロ
「ニ〜ア〜、起〜き〜ろ〜よっ!
たく、本っ当に寝起きの悪い奴だな。
朝だぞ、あ〜さ!」

ニア
「夕べは急患が三組も来たんですから、もう少し寝かせて下さいよ…
今日は大学病院時代の同期と飲みに行かなきゃならないし…
休診にします」


同期と云っても皆30代である。
ニアだけが極端に若いのだ、そんな連中と飲んでも楽しいとも思えない。


メロ
「はいはい、それじゃ今夜は相手にして貰えないんだな?
だったら彼女の内の誰かん家に泊めて貰お〜っと」

ニア
「メメメメロぉっ!?」


慌ててみせる癖に顔はいつもの無表情、この医院に入り浸る様になってもうひと月になるが、未だに笑った顔も怒った顔も困った顔も見た事がない。
だからメロも半ば意地になってニアを困らせようと努める。


メロ
「行って欲しくない?
だったら日付変わる前に帰って来る?」

ニア
「ももも勿論!」

メロ
「勃たなくなるほど飲んで来ない?」

ニア
「当然です!」

メロ
「じゃあ寝てていいよ。
でも急患が来たら起きるんだぞ?」


こうなると恋人と云うよりお母さんである。
しっかり者のメロは、なるべく生活習慣のだらしないニアにまともな暮らしをさせる様、徐々に軌道修正を図っている。
お陰で昼間っからパジャマ姿で診察をすると云う様な事はなくなったが、それでもニアに根強くついた悪習はなかなか直るものではなかった。


キャサリン
「ねぇメロ、例の彼氏とはまだ付き合ってるの?」

メロ
「ああ、ただ飯食えるし、週三回は泊まってるよ」

キャサリン
「男同士ってそんなにイイの?不思議ね。
ね、私やソフィアやブリジット達と彼、誰とするのが一番気持ちいい?」

メロ
「ブリジットとは別れたよ。
結婚するんだと」

キャサリン
「え!?
彼女一番巧そうだったのに…残念ね」

メロ
「キャサリンの方が巧いよ」


こんな付き合い方をしていれば、メロ自身悪女にもなるだろう(男だが)

しかしニアの嫉妬を操って、自分の思う様に操縦しているつもりでも、やはり手の上で踊らされているのは自分の方だと思う。
自分の為にはちっとも感情を露わにはしてくれないし、まるで縛り付けようなどともしない。
もう少し束縛してくれてもいいのに…彼女達とは別れろと云って欲しいのに…

初めて本気で好きになった相手は、体だけの関係の彼女達と同じく、独占欲がない。
それは想像していた恋とはかけ離れていて、自分だけが好きになってしまった気になり何とも面白くない。
だから彼女達と同じく自分とは別に恋人がいるのではないかと疑心暗鬼にすらなってしまう。

大学の講義を終えての帰り道、いつも通り夕食の支度の為にスーパーに寄ろうとしてふと立ち止まった。


メロ
「そっか、今日はニアいないんだ…
俺一人だし、レトルトでいいかな」


以前は寮の部屋に一人が当たり前で、それでも毎日ちゃんと料理を作っていたのに、ニアがいないとやる気が起きない。
そんな自分にもまた腹が立つ。

ニアは自分の為にはなかなか生活を変えられないのに、自分はすっかり変わり果ててしまった。
何をするにも念頭に《ニアの為に》がついて回るのである。


メロ
「自分だけならいいやって何だよ。
自分が一番大事に決まってるじゃないか。
ふん、いないあいつが悪いんだ、今日は思いっきり贅沢してやるセ」


そしてスーパーへと引き返し、カゴの中へ次々と高価な食材を放り込む。
してやったり顔で満足そうにレジで清算を済ませるメロだったが、買ったもの全てがニアの好物ばかりと云う事に気付いていなかった。
無意識下でもニアを思って行動してしまっている事に、今は気付かない方が幸せかも知れない。
気付けばまた自分だけがと不貞腐れるのは目に見えているのだから…


買い物は済ませたものの、やはりニアがいないとやる気が起きない。
レポートを先に済ませてからなどと自分に言い訳をし、だらだらと食事の支度を先送りにした。

そして9時…


メロ
「くそ…流石に腹減ったな…
あ〜あ、やっぱレトルトで済ませちまおうかな」

ガシャン
キイィ―――

メロ
「!?」


突然聞こえた物音に弾かれ、物色していた冷蔵庫を慌てて閉める。
音がしたのは病院側の玄関で、当然診療時間の終わったこの時間に患者が訪ねて来る筈もない。


メロ
「急患だったらまず受け入れ可能か確認の電話が来る筈だよな…
急病人にしちゃやけに静かだし…まさか物取りじゃないだろうな?」


そう云えば今日は調子に乗って高価な食材を買いすぎた。
店で自分を見かけた人間は、どれだけ金持ちのボンボンだと思っただろう。
物取りだとすればそれは自分の派手な行動のせいではないのか?

腕に覚えのあるメロではあったが、まず物取りに目を付けられる様な行動をして、ニアに迷惑をかける結果になってしまった事に落ち込んだ。
こんな時でもやはり《ニアの為》が念頭から離れないメロは、相当ニアに惚れてしまっているのだろう。


メロ
(まずい…今日はニアがいないから、病院の金庫には金が入りっぱなしだ。
夜間金庫の鍵くらい預かっとくんだった)


こうなったら腕に物を云わせて返り討ちにするしかない。
どうやら既に診察室にまで入り込んでいるらしいその男に、不意打ちを喰らわすべくメロはキッチンを飛び出した。


メロ
(いた…金庫の位置を知ってる!?
あいつ、この病院に患者で来た事あるのか?
待てよ、そう云えば何処かで見た様な…)


男は金を鷲掴みにすると、無造作にポケットの中に捻込んだ。
そして盗難が成功して気を抜いたのか、無防備な様子で玄関へと向かう為にこちらへと歩いて来た。


メロ
(今だ!!)

ガシャアァ――ン!!


「!?」

メロ
「そこまでだ!!」


男を投げ飛ばし腕を背中側に拉ぐと、メロは用意していた粘着テープで男の手足を固定した。


メロ
「この俺がいるってのにこの病院に盗みに入るなんざふざけた奴だ。
今警察に通報してやるから覚悟しろ」


「メ、メロ!?
お前、寮に戻ったんじゃ…」

メロ
「!?」


男は…メロの大学の学生だった―――


その後メロは警察で散々な目に遭った。
男が同じ大学の学生だった為、中で手引きをした共犯者だと思われたのだ。


警官
「だからお前が中から鍵を開けてこいつを呼び込んだんだろう?」

メロ
「ふざけるなよ、だったら何で警察に通報するんだ!」

警官
「大方分け前で揉めたとか、そんなところだろう?
正直に云え、この自宅側の鍵はどうやって手に入れたんだ?」

メロ
「だから何度も云ってるだろう?
本人に貰ったんだって!!」


買い物のあと忘れ物を取りに寮へ戻ったメロを見て、今日はこちらへは戻らないと踏んだ犯人だったが、裏をかかれた事に腹を立て、苦し紛れにメロを共犯者だと云い立てたのだ。
メロがちょっとばかりやんちゃなファッションなのをいい事に、警察側もそれを信じて疑わない。

やったのやらないのの押し問答をしているうちに、警察から連絡のあったニアが取り調べ室に入って来た。
折角旧友との懇親を深めていたところだったのに、自分のせいでこんな騒ぎまで巻き起こしてしまった…
これでは愛想を尽かされても仕方がない。
メロは申し訳ない気持ちでニアの顔をまともに見る事が出来なかった。


警官
「ああ、リバーさん。
どうもご足労をおかけしまして。
それでこの二人の小僧なんですがね…」

ニア
「メロ!
あなた何て事をしてくれたんです!」

メロ
「びくっ」

ニア
「おおおお金なんて盗ませておけばいいんです!!
あなたの身に何かあったらどうするんですか!!」

メロ
「え、いや、俺強いし…」

ニア
「もし相手が銃でも持っていたらどうするんです!!
いいですか、今度もしこんな事があっても、絶対に犯人を捕まえようなんてしないで下さいよ!?
ああああなたの身にもしもの事があったら…」

ふらっ

警官
「リっ、リバーさん、危ない!?」


メロが怪我をしたところを想像したのか、ニアは一瞬気を失いかけた。
しかし気丈にも踏みとどまると、今度は警察側に矛先を変えた。


ニア
「あなた方もあなた方です!!
命懸けで犯人を捕らえた私の大事な婚約者を、共犯者と疑うなど言語道断!!」

警官&犯人
「こここ婚約者あぁ!?」


ニアのお陰で解放されたメロだったが、それでもやはりこの愛しい医師に顔向け出来ないでいた。
二、三歩遅れて後をとぼとぼとついて行く。


ニア
「どうしたんです、メロ。
そんなに離れて…こんな夜中じゃ誰も見てませんよ?
もっと寄り添って歩きましょうよイ」

メロ
「だって俺のせいであんたに迷惑かけて…
俺、あんたの傍にいる資格ないよ」

ニア
「メメメメロ!?
どっ、どうしてそんな事云うんですか!?
迷惑!?どうして迷惑なんです!?
あなたは危険を冒してまで、犯人を捕まえてくれたんですよ!?
ハッ( ̄口 ̄;)
ま、まさかもう私の傍にいるのが嫌になったんですか!?」

メロ
「へっ?」

ニア
「そうだ、警察でだって私の恋人だって云えばすぐ解放されたのに、何故それを云わなかったんです!?
あああ、やはり私はあなたに嫌われてしまってたんですね!?
もうおしまいだ!!
私にはもう生きる希望もない!!」

メロ
「ちょっ、待てよ!?
お、俺はあんたが男好きだって不名誉な噂が流れちゃ困ると思って…!」

ニア
「あなたを好きだと云う事がどうして不名誉なんです!!」


ニアは深夜にも関わらずそう叫ぶと、メロを抱き締めて号泣し始めた。
いつも無表情なニアの初めて見る感情的な姿…
メロもニアに縋りつくと、つられて大きな声で泣いた。


メロ
「ニア…俺決めたよ。
もうお前の事疑ったり不安になったりしない。
ずっと傍にいる…いいよな?」

ニア
「悪い訳ないじゃないですか!
ずっとここにいて下さい…私の傍に!」


ベッドの中で再び愛を確かめ合った二人。
もう迷いはない、この愛死ぬまで貫き通そう…
二人はそう信じて疑わなかった。



あの男が現れるまでは―――
《続》




◆あとがき◆
ふっふっふっ、にゃ〜が好きで好きで堪らない癖に意地っ張りなメロちゅ。
女心よのぅ…~
(男です)

さて次回はお約束の三角関係(?)一悶着です(笑)
サブタイトルをつけるなら“招かれざる客”ってところかしら。
お待ちかねのあの方が出て来ますので、乞うご期待。
2006/09/27
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ