リクエスト

□銀河の歴史がまた1ページ
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宇宙歴798年。
帝国歴489年。
遂に銀河を統合すべくラインハルト・フォン・ローエングラムが自由惑星同盟へ向けて侵攻を開始する時が訪れた。
進撃する旗艦ブリュンヒルド。
だが、その艦内では思わぬ難題が持ち上がっていた。

【銀河の歴史がまた1ページ】


ラインハルト
「ファーレンハイトの陣営が遅れている?
あの艦の性能から云ってスピードに問題があるとも思えぬが…故障か?」

オーベルシュタイン
「そうではありません、閣下。
これほどの規模での進撃ですので経費も莫大、なるべく無駄が出ぬよう節約を心がけるよう各艦に通達したのですが、あの男だけその節約が度を越しているのです」

ロイエンタール
「聞いた話ですと太陽風が進行方向に向かって吹いている時間帯はエンジンを切り、気流に任せておるようですな。
しかしあれは商船など単艦もしくは小規模なキャラバンでのみ有効な方法。
何千と云う味方艦に囲まれていては太陽風の影響など及びますまい」

ミッターマイヤー
「影響があるとすればしんがりですな。
結局前の艦隊に衝突せぬよう逆噴射をしなければなりませんから、却って燃料の無駄になると云うものです」


全くあの男の貧乏性はどうにかならぬのか…ラインハルトと三長官は頭を抱えた。
結局のところ後続の艦隊の妨げになった事で行軍を急かされてしまい、ファーレンハイト艦隊も渋々通常航行に戻ったが、フェザーンに到着した折行軍を乱したとしてラインハルトからのお小言は免れなかった。
挙句あのいけ好かない軍務尚書に節約の何たるかを延々講義された事に辟易し、生活に困った事もない癖に何が節約かなどと密かに心の中で毒づいた。
そうだ、節約は自分の方こそエキスパートだと本人は思っているようだが、一家庭単位と組織を並列に考えて貰っては困る。
とは云えいつまでもこんな話を引っ張って士気を下げられても面倒であるから、流石のオーベルシュタインも適当なところで話を切り上げる事にした。


ファーレンハイト
「お待ち下さい、軍務尚書。
まだ話は終わっていないでしょう」

オーベルシュタイン
「これ以上まだ何があると云うのだ。
そのように節約が気になって仕方ないと云うのなら市井に降りてみてはどうか。
軍を持たぬフェザーンのこと、何か独自の節約術もあるやも知れぬぞ?」


オーベルシュタインの言いなりになるのも癪な話だったが、確かに云う事にも一理ある。
何より元々節約好きの彼である、フェザーン独自のなどと聞いては興味が湧かぬ訳がない。
早速地上の哨戒がてら図書館を探してみる事にした。


ファーレンハイト
「ふむ、ここがフェザーンで一番大きな図書館か…帝国の国立図書館に比べると蔵書の量に期待は持てぬが、領土と呼べるものの規模が違うし歴史も浅いのだ。
それでこの大きさならなかなかのものだろう。
しかし節約と云うとカテゴリはどうなのだろう。
生活か?経済か?それとも文化…おや?」



























ミッターマイヤー
「何だ、どうした、こんな処に呼び出して…フェザーン商人が不当な価格の吊り上げでもしていたか?」

ファーレンハイト
「いや、まずこれを見て頂こう…何とフェザーンにはこんな書物が出回っているのです」

ミッターマイヤー
「書物?コミックのように見えるが…な、何だこれは」

ファーレンハイト
「帝国領土では見た事がない故フェザーンのみで流通しているもののようですが、我ら帝国軍の活躍を勝手にこのようなものに書き連ねるとは…全く以てけしからん次第です」


ファーレンハイトは我ら帝国軍と云ったが、勿論同盟の面々の活躍も描かれている。
その名も銀河英雄伝説…ファーレンハイトが図書館から借り出したのはコミックだが、他にも小説やら舞台やらアニメーション等々あらゆるメディアで人気を博しているようである。
時には抒情的に、時にはコミカルに描かれたそれは、ミッターマイヤーの目にはなかなかに秀逸な作品に見えたが、この男は何ゆえ怒り心頭なのか。
この作画担当のカツミ・ミチハラなる人物はファーレンハイトのこともなかなか男前に描いているではないか。


ミッターマイヤー
「おれには何がどうけしからんのか分らぬが…同盟の活躍も描かれているのが気に食わんのか?卿は」

ファーレンハイト
「そうではない!
私をこのように勝手に出演させておいて、私自身には1帝国マルクの出演料すら入っていないとは如何なることか!
これをけしからんと云わずに何とする!」

ミッターマイヤー
「結局はそこか!」


その後ファーレンハイトはミュラーやビッテンフェルト、レンネンカンプに挙句シルバーヴェルヒにまで出演料要求の合意を得ようと奔走したが、「どうでもいい」の一言で一蹴された。


ロイエンタール
「しかしまさかフェザーンでかようなものが出回っていたとはな…帝国でも売れそうなものだが、商売上手のフェザーンがよく売り込みに来なかったものだ」

オーベルシュタイン
「いや、売り込みはあった」

ロイエンタール
「そうなのか?
まあおれは書店など滅多に行く事はないが、そんなものがあったなどとは知らなかった」

オーベルシュタイン
「私が退けたのだ。
そんなものを帝国領内で流通させれば、一人や二人こんな事を云い出す輩がいると思ってな。
帝国の品位を落とす訳にはいかん」

ロイエンタール
「卿の読みは当たっていた訳か」

オーベルシュタイン
「まさか上級大将クラスが騒ぎを起こすとは思ってもみなかったがな…」


無論どの歴史書にも帝国領内では流通していないこの銀河英雄伝説なる書物が、出版社から見本として提供された後オーベルシュタインの私邸に蔵書として保管されていると云う記録は残されていない。

《終》


〜あとがき〜
手伝う様の200hitリクエストで、アニメのファーレンハイトと漫画版のファーレンハイトが出会うお話如何でしたでしょうか。

本作は天下無敵あどりぶ銀英伝「ブリュンヒルトの黄昏」のパロディ仕様となっております。
↓これです。


運命の出会いでしたが結局貧乏性ネタでした(笑)

こんな話ですがお気に召して頂ければ幸いです。

2015/10/06


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