リクエスト

□料理の話にゃ違いあるまい
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春のうららの元帥府。

この建物の裏にある広大な空き地には、それは見事な桜の木々が所狭しと咲き誇り、毎日日替わりでローエングラム陣誰かしらの元で花見と云う名の慰労の宴が催されていた。

元はその空き地は調練の場であったらしいのだが、いつの頃からかここからほど近い新無憂宮より風に乗って種子が運ばれ、一株また一株と芽を出し、いつしか木々に兵士が閉め出された格好になったが、それらを伐採して調練場に戻すと云う案は一度たりも兵士の口からは出なかった。

お陰で派手な宴会の類が苦手なオーベルシュタインも、ご多分に漏れず部下の為に花見を催してやる羽目になってしまい、些かいつもの無表情が仏頂面気味に変じている様子である。

当初最初の乾杯だけ付き合ってすぐに席を辞するつもりでいたのに、呼ばれもしないのに当たり前の様な顔をしてロイエンタールまでがこの席に居座っているのでそうもいかなくなった。

二人の仲が世を忍ぶ恋人同士である事は誰も知らない。

妙に勘のいいフェルナーあたりは薄々感づいているかも知れないが、オーベルシュタインにとっては人に知られてはならない軍の機密にも等しい極秘事項なのである。

なのにこの男ときたら、隙あらば二人の仲を公認にしたいと狙っているのだ。

こそこそするのは性に合わないと云う彼の言い分も分からぬではないが、もう少し恋人の身にもなって欲しいものだ。

武勇伝よりも無慈悲で緻密な策を畏れられている彼としては、夜毎ロイエンタールに可愛がられ甘い声を漏らしているなどと知られては威厳も何もあったものではない。

しかし不幸は秘書官が手配したケータリングの料理がイマイチどころかイマサン程度のレベルであった事から、免れ得ぬ事象として彼に忍び寄って来つつあるのだ。

フェルナー
「………旨いか?これ」

シュルツ
「まっずいですねぇ…」

グスマン
「来年からはここの業者はやめておけ」


まずいのならまずいなりに不満だけを云っておけばよかったのだ。

なのによりにもよってこの男はオーベルシュタインの料理自慢を始めてしまった。

今ここにオーベルシュタインの部下でもないロイエンタールが同席していると云うだけでも不自然極まりないのに、これでは何故彼が自分達の上官の手料理の味など知っているのかとツッコミ放題である。

いや、寧ろツッコミを入れてくれと云わんばかりだ。

…入れられたかったのだろう、恐らく。

案の定上官を愛してやまない副官のフェルナーが地団駄を踏んで羨ましがった。

挙げ句自分も閣下の手料理が食べたいと駄々をこね始める始末。

皆から畏れられるこの上官にこんな我が儘が云えるのはこの男ぐらいのものだ。

幾ら酒の席とは云え…と周囲の人間は冷や冷やしたが、例え素面でもこの副官は同じ事を云ってのけたであろう。

オーベルシュタインは一つ溜め息を吐いた。


オーベルシュタイン
「してフェルナー、卿は私に何を作らせたいと云うのだ」

フェルナー
「えっ、作って下さるんですか!?
そうですね、私は魚介類に殊の外目がなくて…魚介をたっぷり使った料理ならなんでもいいです」

ロイエンタール
「魚介と云うと海老とか蟹とかか?
この間食べたシュリンプサラダのドレッシングは絶品だったな」

オーベルシュタイン
「(またこの男は余計な事を…)
そう云えば海老と云う海洋生物は、孵化した時は全て雄で長じて雌に変ずる生き物らしいな」


オーベルシュタインは何とかそれで話の方向を変えたつもりでいた。

料理から生物学へと話を反らせば、この男とてしつこく自分の手料理を食べれる立場である事をこれ以上自慢しては来ないだろう。


ロイエンタールを警戒するあまり、副官がまた厄介な性格を有している事を失念していたのは彼らしくないミスと云えるだろう。

おまけに今は酒に強い金銀妖瞳の提督と、己の発言により凍り付いている他の部下達の中にいて、フェルナーはこの場唯一の酔っ払いであった。


フェルナー
「えぇっ!?
て事は海老ってみんな姉さん女房なんですか!?
てゆうか女体化萌!?」

オーベルシュタイン
「(にょた…?)
大抵の場合は雄より雌の方が美味だと云われるが、海老の場合はどうなのであろうか。
肉なら成牛より仔牛の方が柔らかくて旨いだろう」

ロイエンタール
「水中に棲む生き物は生きている限り大きくなり続けると云うしな。
雄より大きい分やはり大味なイメージがあるが…」

フェルナー
「年下攻め…イイ…!
幼なじみ萌とか!?
海老彦兄ちゃん!
おれ前から海老彦兄ちゃんの事…!
馬鹿、よせ海老太!
お、おれはもう兄ちゃんじゃ…あっ!」


…誰だ、海老彦。

幼なじみでこそないものの、今まさに年下攻めなロイエンタールと付き合っているオーベルシュタインとしては、こんな話題は生きた心地がしない。

その他の部下達は部下達で某女史が己の上官を永久凍土と評した様だが、フェルナーの発言によりこの場がそれを上回る絶対零度の寒波を発生させている事に戦慄を覚えていた。

誰もが止める事さえ出来ずに、己のポジションでたたひたすら凍り付いている。


オーベルシュタイン
「(話題を変えよう…海老は駄目だ)
時にロイエンタール、海老はどうだったか分からぬが、烏賊はやはり雌の方が美味だと聞く。
卿は烏賊の雌雄の判別を何処でつけるか知っているか」

ロイエンタール
「ん?ああ…鶏の雛や愛玩動物などは男生殖器の有無を確認するらしいが、烏賊ともなると想像もつか…」

フェルナー
「ええぇえっ!?
烏賊!?
烏賊の10本の腕を使って拘束プレイですか!?
てゆうか迫り来る触手に絡め捕られて、あんなとこやこんなとこがぐちょぐちょに!?
海老彦兄さんの運命や烏賊に蛸に鯨に!?」


だから誰だ、海老彦。

そもそも考えれば海老が性行為などする訳はない。

魚類と同じで雌が産卵し、雄が精子をかけて受精する。

違うのは産んだ卵を海中に放置するか、己の腹に抱えているかだ。

オーベルシュタイン
「(駄目か…然らば植物の話なら…)
雌の烏賊は腕の吸盤がきちんと整列していて、雄はそれが不揃いだそうだ。
不揃いと云えばネットメロンは網目をを美しく見せる為に、小さい内からわざわざ表面に傷を入れて全体に網目が行き渡る様にするらしいぞ?
目が不揃いだとて味は変わらぬだろうにご苦労な事だ」

ロイエンタール
「普通は傷など入ったら売り物にならないだろうに。
確かに網目のないネットメロンなど旨そうではないが…」

フェルナー
「小さい内から傷物に!?
海老彦兄ちゃん、あんたどんな人生送って来たんだ!
しかも網の目に縛り上げられて無理矢理りょっ、陵辱…?
ああっ、兄ちゃーん!」


お前は海老彦から離れろ!

そもそも海老だから人生ではない!

そう突っ込む事も出来ずに、フェルナー以外の部下は春先の冷たい風の中、幾ら熱燗にされたsakeを飲んでも冷凍庫から出したばかりのウォッカを飲まされている気分にさせられたのであった―――




















フェルナー
「うー、頭痛た…
昨日は小官、些かばかり羽目を外し過ぎた様ですな。
全く記憶がありません」

オーベルシュタイン
「ほう、では私の手料理を所望した事も?
折角卿の為に作って持って来たのだがな」

フェルナー
「しょっ、小官の為にですか!?
これは光栄です…お恥ずかしい話今朝は寝過ごしてしまいましてな、朝食を摂っていないのです。
今ご馳走になっても?」

オーベルシュタイン
「ああ、構わん」


些かばかりなものか…オーベルシュタインの義眼が怪しく光った。


フェルナー
「かっ、辛っ!
辛―――――――――っっ!?」


メニューはケチャップの代わりにタバスコを使ったチキンライス、カリカリに焼いた鶏皮と白髪葱をラー油で和えた惣菜、生のままの玉葱の微塵切りと和辛子で炒めた鶏挽き肉を巻いたトウモロコシのクレープ、青唐辛子で染まって普通のピーマンにしか見えないパプリカ(黄色)と蒸し鶏のサラダであった。

以来酒の席でフェルナーが下ネタを口にする事は、オーベルシュタインの同席の有無に関わらず二度となかったと云う―――

《終》




◆あとがき◆

はい、とーこ様の7900HITリクエスト作品如何でしたでしょうか。

確かに話は噛み合ってないけど、フェルナーはっちゃけ過ぎです(^_^;)ゞ

下ネタどころかBLネタですみません。

お待たせした割には大したものが書けなくて申し訳ないですしょぼり(>_<)

こんなものでよければご笑納下さいませませ。


2011/07/02


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