リクエスト

□帝国七不思議
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ポプランが私室として使っている部屋に残されていた1台のコンピュータ端末。

イゼルローンに取り残され捕虜とされた帝国軍兵士に持ち主はいなかった。

大方戦死したか敗走した兵士の私物であろうとヤンは処分を勧めたが、ポプランはいい暇潰しだと云って空いている時間にパスワードの解析を始めたらしい。

他人の私物を覗き見ようなどとは悪趣味である。

アッテンボローは顔を顰めたが、本人は至って何処吹く風と云った感で楽しそうに解析を進めている。

本人曰く持ち主がアッテンボローの様にジャーナリスト志望であったなら、遺された記事を世に出してこそ彼の本懐である、と云うのだ。


アッテンボロー
「ただの野次馬根性だろう…
おれの他にそうそうジャーナリスト志望の軍人なんかいるもんか」

ヤン
「あまり褒められた行為じゃないがね、あれで持ち主が分かれば遺物を帝国のご遺族に返してあげる事も出来るし、ポプランもそれで気が済むならまあいいんじゃないかな?」


ヤンはそう云ったが本人が生きていた場合どうなるのだろう。

それこそ日記でもつけていた日には、プライバシーの侵害…と云うより本人は赤っ恥だろう。

願わくば彼があまり赤裸々な体験談なぞを記してない事を祈ろう…

もし己の死後、自分の残した記録を勝手に盗み見られては堪らないアッテンボローは、どうしてもコンピュータ端末の持ち主に同情的になってしまうのであった。

最初のうちこそ暫く話題にものぼったが、パスワードが容易には解けない代物だったらしくそのうち帝国兵の私物の端末の存在なぞ皆忘れてしまった様だった。

アッテンボロー自身ポプランに例の端末が…と切り出されるまで、すっかり記憶の彼方へと押しやってしまっていた。

いや、端末と云われても暫くの間ぴんとも来ずにいた。

云われてみればそんなものがあった、と思い出したのはポプランに現物を見せられ、帝国ではどうか知らないが同盟では比較的珍しい漆黒のボディを目にした時だ。

あれからゆうに半年が経過している。


アッテンボロー
「パスワード解けたんだ?
随分経つからお前さんも忘れてるもんと思ってた」

ポプラン
「いや、実際忘れてたんですけどね。
提督に貰った帝国語の電子手帳何処やったかなーって探してたら出て来た。
ついでに電子手帳で調べた単語を試しに入れてみたら開いた」

アッテンボロー
「へぇ…ちなみにその単語は?」

ポプラン
「間男」


聞いた自分が馬鹿だった。

そう思ったが後悔先に立たず。

寧ろそんな言葉をパスワードに設定した帝国兵を小一時間ばかり問い詰めたい。

何はともあれコンピュータ端末は開いたのだ。

他人のプライベートと分かっていつつも「間男」などと云う言葉をパスワードに設定する様なふざけた輩だ、思い切り侵害してやっても罪にはならない様な気がした。


アッテンボロー
「まあ帝国の機密事項なんてものは期待してないがね、どんなデータが入ってたんだ?」

ポプラン
「ゴシップ…とでも云うんですかね?
帝国の七不思議ってんのがやけに詳しく調べられて、びっしり書き連ねられてましたよ?
頭痛くなって途中で読むのやめちまいましたがね」


途中でも何もないだろう、恐らく最初の一文でリタイヤしたに違いない。

この男は好奇心は旺盛だが、そのあとに発生する帝国語の翻訳と云う作業にまでは情熱を燃やせなかった。

無理を云って人から奪った電子辞書を早々に放り出している姿が目に浮かぶ。

ジャーナリストの端くれとして帝国のニュースにも目を通すアッテンボローは、辞書がなくともある程度の読み書きは出来る。

その事を知らないポプランではない、最初からアッテンボローに翻訳を押しつける気満々で、多少は興味を惹きそうな見出しだけを調べたのだろう。

溜息をつきながら開いた帝国の端末には、七不思議以外は今日の献立や哨戒当番のシフト表などどうでもいい情報しか記載されていなかった。

七不思議と云う言葉を見つけなければ、この男は端末を遺族にも返さず人知れず処分さえしてしまって居たかも知れない。

これが自分の端末だったら遺言で処分しろと云っておいても、後生大事に保管するのだろうが。


ポプラン
「で…何て書いてあるんです?」

アッテンボロー
「んー、帝国人にとっては七不思議なんだろうがな、おれ達にしてみりゃだから何?ってなネタだな。
新無憂宮に現れる何代目だかの皇帝の幽霊だの、一番生息数が多い筈なのに絶対鹿の捕まらない狩り場だの…ん?
こりゃ何だ?」

ポプラン
「何すか?
面白いネタありました?」


そこには七不思議と云うだけあって到底信じられない様な一文があった。

帝国の双璧と謳われるロイエンタール提督と、ローエングラム陣の現総参謀長・オーベルシュタインが恋愛感情を以てして密かに通じ合っていると云う。

ヤンが早くからローエングラム陣に注目していたことからアッテンボローも彼らの動向に目を光らせていたが、この七不思議の4項目目だけは得心がいかない。

ロイエンタールと…オーベルシュタインが…?


ポプラン
「これはおれでもおかしいってわかりますね。
あるんすか?こんな事。
だってロイエンタールってあれでしょ?
帝国の諸星あたる」

アッテンボロー
「お前には云われたくないと思うぞ?
まあそんな女好きの男が同性に手を出すかって疑問もあるが、そもそもこのオーベルシュタインってのはこのイゼルローンから逃亡して糾弾された奴だろ?
だからこの記事が書かれた時点ではこの二人は面識がない筈なんだが…」


この時代にAD時代のアニメキャラの固有名詞が語り継がれていたかどうかの疑問はさておき、諸星あたるがラムやしのぶを差し置いて面堂終太郎と逢瀬を楽しむだろうか。

寧ろ声優的には美術の先生とラムの婚約者だろう。

話が反れた。

少なくともこの記事を書いた人間は二人の仲を知っていた。

もしかすると遠距離恋愛となってしまったオーベルシュタインに、何やら恋の相談事などをされていたのかも知れない。

それくらい記事には詳しく二人の睦み合う姿が生々しく記録されていた。

固まっている二人の元へヤンが現れた。

見慣れぬ端末を前にして引き攣っている二人を見てただ事ではないと思ったのか、自分の用事もそっちのけで事の次第を聞いてきた。


アッテンボロー
「あー…ね、そのー…例の端末が…」

ヤン
「例の端末?」

ポプラン
「あれですよ、ほら。
帝国の…おれの部屋にあった…」


要領を得ない二人にますますただ事ではないと思ったのか、この男にしては珍しく慌てた様子でポプランを押しのけ端末を覗き込む。

もしや帝国の開発した神経性の怪電波にでも当てられたか?と思ったが、数瞬後にはヤンもポプラン、アッテンボロー同様の表情で固まってしまっていた。

そして『見なかった事にしよう』と云って端末の上面カバーを閉じた。

その後端末は丁重に梱包されて帝国本土へと送られたのであった。


ヤン
「駄目だ…あれは駄目だ、衝撃がキツ過ぎるよ。
よりによってロイエンタールとオーベルシュタインだよ?
あんなものを見せて…シェッ、シェーンコップがその気になったらこまっ、困るんだよ…!」

ポプラン
「あー、あの不良中年最近趣旨替えしたらしいですからね…ご愁傷様です」

アッテンボロー
「だからお前が云うな…」


趣旨替えしたポプランに乗られて人生が変わってしまったアッテンボローが溜息をつく。

しかしまさか帝国のあの二人の有名人までもが、自分と同じ性癖に人生を変えられていたなんて…

もしもこの先同盟と帝国が和解・もしくは支配下に治まって、両名と顔を合わせる機会が訪れてしまったら自分はどんな顔をして逢えばいいのだろう。

どっちが乗られる方ですかとはとても聞けない。

自分はポプランに執拗に口説かれて絆されたクチだが、あの二人はどう考えてもどう想像してもどちらともに口説いてる姿が想像出来ない。

アッテンボロー
「想像力貧困…おれってジャーナリスト失格か?」

ポプラン
「おれだってあの二人のどっちがタチでどっちがネコかなんて想像したくないですって」

アッテンボロー
「そんな生々しい事まで想像してないっ!」















ロイエンタール
「何やらイゼルローンから遺族に返せと云って端末が送られてきたんだが…シリアルナンバーからして卿の私物らしいのだが?」

オーベルシュタイン
「生きているのに遺族とは失敬な…ん?
パスワードが解かれているな、まさかあの記事を見られたのか?」

ロイエンタール
「何だ、あの記事とは」

オーベルシュタイン
「いや、まさかこれを書いた時にはな…」


実のところアッテンボローの云った通り、オーベルシュタインがイゼルローンに駐留していた時点ではロイエンタールとの面識はなかった。

ただ当時の数少ない友人にエイプリルフールのネタを何か考えてくれと頼まれて、帝国七不思議と題して5W1Hを適当に組み合わせて作ったネタに信憑性があるように見える注釈を添えて書き送った。

その下書きがこの端末には残されていたのである。


オーベルシュタイン
「この記事を書いた時点ではまさか本当に卿とこう云う関係になるとは夢にも思っていなかったのでな」

ロイエンタール
「おいおい未来予知か?
よしてくれ、新無憂宮に本当に幽霊が出るぞ(笑)」


まさか本当にロイエンタールと関係を持つとは思ってもみなかったが…まさか同盟の自称ジャーナリストを散々に振り回していたとも夢にも思っていないオーベルシュタインであった。

《終》





◆あとがき◆

Σ( ̄□ ̄;)何か全然条件満たせてねぇ!!

もっ、森沢しゃんのリクエストでロイオベの噂話をするポプアテと云うシチュリクだったのに、何だか噂も何のただのでばがめ野郎になっちまいやがりましたっ!

あれ?何だこれ、あれ?

うひぇー、散々お待たせした揚句こんな出来で申し訳ありまっしぇーん(涙鼻水涎耳垂)

てゆうか何でパスワードを間男にしたのか小一時間ばかりオベ子を問い詰めてもよかですか?

とっ取り敢えずっ、次で挽回(寧ろ卍解)しますっ!

見捨てないで下せぇ、おでぇかんさまあぁぁ!!

2011/02/26


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