リクエスト

□夢のミュッテン対決
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それは一通の心無い挑戦状から始まった…


アッテンボロー
「提督…あの帝国軍人の中でも紳士的で好感度の高かったミュラー提督から…」

ヤン
「(ぷ…ぷぷ…)
い、いやあ、アッテンボローがうっかりビッテンフェルト提督と仲良くなっちゃったからだろう?
帝国領に滞在してる間でよかったじゃないか。
帰ってからまた呼び出されるのはしんどいぞ?」

アッテンボロー
「そりゃそうなんですけど、おれが何でミュラー提督に挑戦されなきゃなんないんですか!?」

ヤン
「だからビッテンフェルト提督と仲良くなっちゃったからだろう」



【夢のミュッテン対決】



『全国三千万のミュラー&アッテンボローファンの皆様、ようこそお集まり下さいました!
今宵夢のミュッテン対決を実況させて頂きますのは、ワタクシ銀河帝国皇帝ことラインハルト・フォン・ローエングラム。
解説はリップシュタット以前に退役致しましたミュッケンベルガー前宇宙艦隊指令長官。
そして審判は公平性を保つ為に、フェザーンよりケッセルリンク氏をお招きしております』

そう、心無い挑戦状の送り主はミュラー。

餃子の早食い競争でうっかりビッテンフェルトとの友情を育んでしまったアッテンボローに、猛烈に焼き餅を妬いた末の決闘申込みだ。

対決名と名前が似ていると云うだけで、退役し田舎に引っ込んでいたところを呼びつけられたミュッケンベルガーは堪ったものではない…と思いきや、ノリノリで実況のラインハルトと今宵の対戦カードについて勝敗の行方を熱く語っている。

そして前回の解説者であったアンネローゼは、ヴェストパーレ男爵夫人と共にやはりノリノリでラウンドガールを務めている。


ミュラー
「ま、まさかこんな大事になるなんて…
で、でもアッテンボロー提督にビッテンフェルト提督を渡す訳には…」

ビッテンフェルト
「???
何だかよく分からんが、この殺伐としたご時世にお祭り騒ぎなんかが出来るなんて楽しいではないか。
おれは勿論卿が勝つ方に賭けるぞ?」

ミュラー
「ま、またブックメーカーがしのぎ削ってる…」


夢のてんてん対決があったばかりだから二番煎じで自分は目立つまいとの予想に反して、前回の対戦に準備の間に合わなかった貴族や商人達が続々集まり却って規模は大きくなった様だ。


ヤン
「それでアッテンボロー、今回はどんな対決方法なんだね?」

アッテンボロー
「それが例によってまだ明かされてないんですよね…
今回はあまり体格差がないからバトルもありかも…」

オーベルシュタイン
「いや、それはないだろう」


前回同様屋台料理を両手いっぱいに抱え込んだオーベルシュタインが、どんな魂胆か裏情報を流しにやって来た。

その後ろではロイエンタールが射的で取った戦利品を、自慢気にフェルナーに見せびらかしている。

どうやら牽制しているらしい。

牽制…そうだ、さっきのミュラーの眼だ。

オーベルシュタインは自分のものだと暗にフェルナーに訴えるロイエンタールの眼と、先程自分に向けたミュラーの眼は同一のものだ。

と云う事は自分…ミュラーに牽制されてる…?


アッテンボロー
「つまりは…ビッテンフェルトは自分のものだと?」


そうこう云っている間に例のチアリの十戒もどきと、それを割ってステージに歩むラインハルトが対戦方法を読み上げる儀式が始まった。

そして今回もご多分に漏れず、異様に盛り上がる観客の貴族の面々。

帝国には余程娯楽がないのだなと思いつつ、発表された対戦方法を聞いて仰天する。


ラインハルト
『今回の対戦方法は…料理対決です!』


はあぁ―――!?

寄りにも寄って料理対決。

軍人に料理の腕前を競えと?

そりゃあ同じ軍人でもローゼンリッターの様に地上戦アリの部隊なら多少は必要になって来るかも知れないが、母艦には何十人と云う料理人が乗り込んでいるし、各艦には兵糧が十分積み込んである。

ましてや闘いのない地上に降りている間には、外食したり従卒の用意した食事で事足りる。

自慢ではないがアッテンボローは生まれてこの方料理などと云う作業を体験した事すらないのだ。

どうやらそれはミュラーも同じ様であったが。


ミュラー
「ま、負けませんよ、アッテンボロー提督!
どちらがビッテンフェルト提督に相応しいか、この場ではっきりさせます!」

アッテンボロー
「は…はあ…
(どうしたものか…)」


やおらスタジアムに食材と調理器具が運び込まれ、それと格闘を始めた帝国の鉄壁。

しかし自分は何をどうしていいかも分からない。


アッテンボロー
(こ…れは本当に参ったな…
ミュラー提督は不器用ながらも、料理らしきものを構築し始めてるし…)


女兄弟が多かった為、アッテンボローは台所に立った事すらない。

士官学校では食材調達や調理に関しては、地上戦部隊配属希望者のみの選択授業となっている。

成績がよかった為すんなりと戦艦乗りのコースに入れたアッテンボローは、地上戦部隊希望者に調理なんて授業がある事さえ知らなかった。


ボプラン
「こりゃあ提督の負けは確定かな?
あの人おれでさえ作れるカレーも作り方知らなかったくらいだから」

ヤン
「この場をどうやって切り抜けるのか、それはそれで見物だけどねぇ」


そんな事を云っている間も時間は刻一刻と過ぎて行く。

見ればミュラーはスクランブルエッグらしきものとマカロニサラダらしきもの、それとメインディッシュはどうやら鱒のバターソテーらしきものをそろそろ作り終えそうな様子である。

片やアッテンボローはまだテーブルに皿を並べているだけの始末。

なのにミュラーの目にはそれがアッテンボローにはヤンばりの奇計があって、余裕綽々である様に映ったらしい。

ミュラー
「い、今から残された時間で、何か調理が出来ると云うのか…?
さ、流石はヤン艦隊の分艦隊司令官だ。
くそっ、急げばもう一品作れる。
その一品で差を…あっ!」


ガラガラガラ
ガチャン、バリ――ン!!


ミュラー
「あ――――――――っっ!!」

最後にデザートのうさちゃんりんごを作ろうとした時である。

長く剥かれたりんごの皮が足に絡まり、折角用意した料理全てをひっくり返してしまったのであった。

第一ミュラー、うさちゃんりんごを作るなら、皮は全部剥いちゃ駄目だろう。

焦りとはそれだけ人間から冷静な判断力を奪うのだ。

ここで時間切れのブザーが鳴る。

その時アッテンボローはテーブルの上に用意された皿に兵糧の缶詰めを開け、申し訳程度にパセリを添えただけの料理(?)を並べ終えたところだった。


ラインハルト
『残念ながらミュラー選手は料理を一皿も用意出来ませんでした。
よってこの試合、アッテンボロー選手の勝利です!』


い…いいのか?こんな勝ちで…

がっくりとうなだれたミュラーの姿が、夕陽に生えて余りにも哀れだった…


ミュラー
「経緯はどうあれ…完敗です、アッテンボロー提督。
冷静さの足りない私ではビッテンフェルト提督に相応しくない事が分かりました…
ビッテンフェルト提督はあな…あなたのものです…
提督を…提督を宜敷くお願いします…!」

アッテンボロー
「って云われてもおれ彼氏いるし…」

ミュラー
「へっ?」

アッテンボロー
「ビッちゃんとは仲良くなったけど、別に恋愛感情がある訳じゃないから宜敷くされても…
それにポプランなら料理作れなんて云わないし」

ポプラン
「まあそう云う訳だから、猪提督とはあなたが宜敷くして下さいよ」

ミュラー
「えっ、ええぇえ〜〜〜〜!?」


帝国・同盟・フェザーン三国を巻き込んでのこの闘いは一体何だったのか…

少なくとも皇帝とフェザーン商人は満足している…よしとしよう。

よしとはしたが、この闘いはぽっちりミュラーの矜持に傷を付けた。

そして更に―――







ビッテンフェルト
「いやぁ、ミュラー、卿がおれの為に手料理なんて作りたがってくれていたとはな。
おまけにアッちゃん相手に焼き餅まで妬いてくれるなんて、卿は何と可愛いのだ。
おれは果報者だ。
礼にもならんがおれも卿の為に料理を作ってみたぞ?
さあ、遠慮しないで食ってくれ」

ミュラー
「はい…戴きます…」


意外にもビッテンフェルトの手料理がミュラーのそれに勝っていた事に、更に矜持を傷付けられた事はどの歴史書にも書かれていない。

《終》




◆あとがき◆

りんりんしゃんのリクエストで、仲良くなったてんてんに焼き餅を妬くミュラー、如何でしたでしょうか。

ちなみにビッテンの作った料理は鶏もも肉の西京焼き風、きゅうりとしらすの梅じそ和え、茗荷の糠漬け、たらと白子のおすましでした。

遅くなりましたが、こんなお話でよければご笑納下さい。

2010/06/27


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