リクエスト

□当て馬注意報
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それは本当に偶然だった。


フェルナー
「閣下、先程ミュラー上級大将閣下から書類をお預かりしたのですが」


その時たまたまおれは閣下の執務卓の後ろにいた。

その時たまたま端末に届いたメールを盗み読みする気なんて毛頭なかった。

その時たまたまメールの内容が閣下にショックを与えるに足る文章だったと云うだけだ。


『大嫌い』

オーベルシュタイン
「フロイ…ライン?」

がたあ――――――…ん

フェルナー
「閣下!?
どうされました、閣下!?
おい、誰か軍医を!!」




【当て馬注意報】




閣下は高熱を出して倒れられた。

今も意識は戻っていない。

ロイエンタール元帥閣下が体調管理がなっていないと皮肉を云いに来たが、意識のない者に罵声を浴びせてもつまらんと云って帰って行ったのが唯一の見舞い客だ。

閣下は…軍ではかなり煙たがられているからな。

しかしそんな閣下に想い人がいたとは…

そうだ、閣下はあの時メールを見て、確かに『フロイライン』と呟いた。

『大嫌い』と云われてショックで高熱を出し、意識を失うほど好いていたお嬢さんがいたと云う事だ。

しかし信じられない…あの泣く子も黙る堅物パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥その人に、そんな想いを寄せる女性がいたなんて。

閣下に想い人がいた事がショックなんじゃない。

こんなにお側に仕えておきながら、その存在に気付けなかった自分にショックを受けている。

あの方の事なら何でも知っているとは云わない。

しかし恋敵の存在をこのおれともあろう男が気付かずにいたなんて。

い…いや、ものは考えようだ。

今となってはそのお嬢さんもおれの敵ではない。

何せ閣下は『大嫌い』と宣告を受けたのだ。

寧ろこれは弱っているところを付け込むチャンスと云うもの。

やりようによってはおれのこの熱い想いを、閣下に受け入れて貰えるかも知れない。

失恋し傷心の閣下を優しく抱き締め慰める…こっ、事によってはキスも…!(はぁはぁ)


ああああ…!

閣下!

閣下、早く目を覚まして下さい!!


ロイエンタール
「何だ、この男はまだ目を覚ましていないのか。
ふん、憎まれ口を叩いてやろうと来たのにつまらん」

フェルナー
「幾ら地上にいる間は暇だからと云って、そんな事に情熱を燃やされても困ります」

ロイエンタール
「随分この男に肩入れするな」

フェルナー
「小官にとっては大事な上官ですから」

ロイエンタール
「殊勝な事だ。
しかし飲まず食わずで付きっきりの看病では、その内卿が倒れるぞ?
食事くらい摂って来い。
ここはおれが看ていてやる」


おや…?

ビッテンフェルト提督と一二を争うオーベルシュタイン嫌いで知られるロイエンタール元帥閣下が、閣下の看病を買って出るとは…?

幾ら何でもこれ程のお方が閣下憎さで寝込みに一服なんて真似はなさらないだろうが、どんなメリットあってこの場は任せろなどと…

ひょっとしておれに気でもあるのかしら?

女は飽きる程食っていそうだし、まさか何やら新境地でも見出したのか(どきどき)

はっ!

な、何をおれは節操のない…

おれは閣下一筋!

しかしこのままではいずれおれが飢えて倒れるのは目に見えている。

ここは一時任せて食堂へ行って来ようか。

腹が減っては戦は出来ぬからな。


フェルナー
「では…お言葉に甘えて閣下をお頼み申します」

ロイエンタール
「ゆっくりして来るといい。
どうせ地上では暇な身だからな」


あいたたた、チクリとやられてしまったか。

暇人扱いはNGワードだったのか?

何はともあれさっさと食事を済ませて来るとしよう。

一服盛るまでしないにしても、寝顔に落書きくらいし兼ねないお方だからな。

















そんなこんなで食事の間中どうやって閣下をお慰めしようか、そればかり考えてしまった。

まさか僅か一時間ばかりの間に、話が急展開しているとも知らずに。


フェルナー
「か…閣下、何をしておいでですか。
一体いつ目を覚まされたんです!?」

オーベルシュタイン
「しまった、見つかったか」

ロイエンタール
「ゆっくりして来いと云ったのに…」


お、おれは幻覚でも見ているのか!?

食事にサイオキシン麻薬でも混ざっていたか!?

なっ、何でっ!

何で閣下がロイエンタール元帥閣下の膝の上で、おかゆをあーんなんて餌付けされてるんだ!?

ままままままさかおれより先にロイエンタール元帥閣下に慰められちゃった!?


オーベルシュタイン
「実は半年程前から付き合っているのだ。
この事は他言無用だぞ」


はあぁ!?


ロイエンタール
「しかしただの風邪でよかった。
今年のインフルエンザは致死性が高いと云うからな」


風邪!?

失恋のショックの発熱じゃないの!?


オーベルシュタイン
「しかしお隣のフロイラインに謝りに行くのは当分先になりそうだな。
うちの犬がチューリップ畑を踏み荒らしてしまったとは悪い事をした」

ロイエンタール
「おれが代わりに謝りに行ってやるから、卿はゆっくり休んで早く熱を下げろ。
時にフェルナーとやら、いつまでそこで呆けているつもりだ。
おれ達の関係を知ってしまったのなら、少しは気を遣え」


はああぁぁぁ―――――――!?

それじゃ何ですか?

フロイラインと云うのは閣下の私邸のお隣のマリアーネちゃん(5歳児)で、たまたまチューリップ畑を荒らされた怒りのメールを見た時に風邪による高熱でぶっ倒れて、おれが妄想に耽ってる間に既に恋人同士だった2人は誰憚る事なくいちゃこらしてたと!?

そう申されるのですか!?

は…はは…何だよ、そりゃ。

おれは当て馬か?

当て馬なのか!?

そうなのか!?

医務室を去り際…確かに閣下の『イイ声』を聞いた。

ロイエンタール元帥閣下、あんた病人にどんな看病施してんですか!

しかし翌日――

現職復帰した閣下に『熱を下げるには汗をかくのが一番』と涼しい顔で云われて、自分が当て馬にさえなれていなかった事を思い知らされたのである…

《終》




◆あとがき◆

膝抱っこで餌付けに一番萌えたのは、誰でもないこの私です(断言)

はい、そんな訳で月夜しゃんの3100HITリクエスト、ロイオベ看病シチュ話は如何でしたでしょうか。

いや、あれ治んないって、絶対悪化するって(笑)

つか粥食ってすぐ激しい運動したら、横っ腹痛くなるって。

そんなツッコミ処満載なお話ですが、よければご笑納下さいませませ(笑)

2010/02/14


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