リクエスト
□召しませ闇鍋
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一体誰が云い出したのか…
ローエングラム元帥府への新たな人事も漸く落ち着いたところへ、それぞれの面子の顔見せを兼ねて食事会を開こうと云う話になった。
本当に最初はささやかな親睦会を開くつもりでいたのに何故こうなったのか…
ビッテンフェルト
「蟹ー!
その蟹はおれのだ!
誰にも渡さん!」
ロイエンタール
「やかましい!
卿は猪鍋でもつついてろ!
この蟹は譲らん!」
オーベルシュタイン
「春菊の下に隠して煮えるのを待っていた私の白滝がいつの間に…!
白滝!
私の白滝!
最後の一つだったのに!」
キルヒアイス
「その呑水の中の牡蠣を下さるなら、私の白滝を譲って差し上げてもよろしいですよ…?」
老いも若きも軍人と云うものは食欲旺盛なものである。
例え後方勤務であろうと、日々の鍛錬には参加義務があるので誰しもがよく食べる。
ましてやローエングラム陣営は他の元帥府に比べて平均年齢が圧倒的に低いのだ、当初の予算で用意された食材などでは若い彼らの胃袋を満たし得る筈などなかった。
ミッターマイヤー
「全然食べた気になれませんな…」
ミュラー
「そりゃあ奥方の自慢に夢中で、殆ど胃袋には詰めてないからでしょう…ν
まあちゃんと食べてた私も些か物足りないですが」
ラインハルト
「すまん、私が貴族どもに嫌われているせいで、意図的に予算を削られた。
これでは親睦を深めるどころか、食材の奪い合いで軋轢が生まれるばかりだな」
キルヒアイス
「まさか貴族のお偉方も、そこまで計算してた訳ではないでしょうが…
あっ、ビッテンフェルト提督!
お肉ばかり取らないで野菜も食べなさーい!」
飢えた子ども達を見守るお母さん気分にさせられたキルヒアイスは、ラインハルトがいい顔をしないのを承知である提案をした。
グリューネワルト伯爵夫人…つまりは皇帝の寵姫であるラインハルトの姉に、事の次第を話して親睦会費の支援を無心してはどうかと云うのである。
間接的にはラインハルトの憎悪する皇帝の力に頼る事になるのだ、当然諾とは答え難い。
しかし期待に満ちた光を湛える部下の瞳に囲まれては、流石のラインハルトも否とは云えなかった。
ラインハルト
「仕方ない…姉上に事情を話してみるか」
しかしこの時グリューネワルト伯爵夫人の元へ、ヴェストパーレ男爵夫人が遊びに来ていた事が災いした。
元々男爵夫人はラインハルトの元帥府の人事に並々ならぬ興味を抱いていたのだ、親睦会などと聞いては黙って見過ごす訳がない。
普段若い芸術家達のパトロンをしている彼女は、嬉々として資金提供を買って出た。
彼女をよく知るメックリンガーは、横で『今回の話はなかった事にした方がいい』と必死でジェスチャーを送ったが、時既に遅しであった。
ラインハルト
「ど、どうしよう…本人も来るって…」
キルヒアイス
「来るんですか!?
あの軍人も勝てないパワフルなご婦人が親睦会に乱入を!?
き、来てしまうんですか!?」
ロイエンタール
「何をそんなに慌てておいでだ。
ご婦人1人が増えたくらいで、食材の分け前の心配など無用でしょう」
数々の女性を手玉に取って来たロイエンタールには、事の深刻さは見えていない。
ヴェストパーレ男爵夫人の恐ろしさは、食べる量などにあらず。
しかしその事を知る者はラインハルト・キルヒアイス・メックリンガーの三名のみなので、他の陣営の面々はただただ満たされない胃袋を満たせる事の喜びに、問題を問題視する事など出来よう筈がなかった。
ロイエンタール
「一体誰が云い出したのか…彼女をパトロンにしようなどと」
オーベルシュタイン
「誰も云い出してなどおらぬ…本人が勝手に買って出たのだ」
ミュラー
「ビッテンフェルト提督…よくそんなもの食べれますね…うぷ」
ビッテンフェルト
「そうか?
クリーミーでなかなか旨いぞ?」
ラインハルト
「これをクリーミーで済ませるか…ぐふっ」
ヴェストパーレ男爵夫人はキルヒアイスの云う通りパワフルだ。
何でも豪快な上に鍋に入れたら美味しそうなもの、軍人が好みそうな栄養価の高いものを、食材同士の相性など考えず片端から投入する。
そのラインナップや肉はカルビ・牛筋・ラム・レバー・鳥皮・モツとひたすら脂っこいか癖の強いものをチョイス。
普通に腿やロースは選んではくれなかった。
続いて魚介はアンコウ・マグロ・サバ・鯛・フグ・ずわいに牡蠣に烏賊・蛸・海老・ホッキ貝・蛤・サザエなど、白身も赤身も青魚もなく、それぞれ単品で味わえば美味なものを、混ぜたお陰で香りも風味も何もない。
ただただ生臭いだけだ。
その臭いを緩和しようとしたのか、にんにく・アボカド・生クリーム・バター・ヨーグルト・チーズなどが投入される。
ビッテンフェルトが云う様にクリーミーでは済まされない。
これだけ濃ゆい食材に反して、野菜は水菜やもやしと云ったさっぱり系。
あっという間にこの強烈なスープを吸って、口直しにも使えない有り様であった。
オーベルシュタイン
「む…昔これに似た料理を食べた事がある…」
ロイエンタール
「ほう…何と云う…料理…だ?」
ラインハルト
「知っているぞ…その料理の名…は…やみ…な…ごふっ」
ミュラー
「あああっ、ローエングラム伯があぁっ!!」
キルヒアイス
「ラインハルト様、しっかり!
お気を確か…ぐふっ」
ミッターマイヤー
「キルヒアイスまで!
誰か!
誰か軍医を呼べ!」
その後もローエングラム陣営の猛者達は相次いでばたばたと倒れ、ビッテンフェルトとヴェストパーレ男爵夫人だけが何事もなかった様に鍋を完食した。
後にファーレンハイトが自分も完食する自信があると語ったが、その時のレシピはグリンメルスハウゼンの遺した暗黒の貴族史よりも厳重に封印されている。
《終》
◆あとがき◆
かなんしゃんの1700HITリクエストで、【闇鍋の出て来る話】は如何でしたでしょうか。
しまった、ロイ男かオベ子のどっちかを無事に残しておいたら、看病ネタに繋げたのにホ
一応表向きはオールキャラギャグサイトなので、ロイオベと云う指定がなければこれでオッケェと云う事で(笑)
(自分なりの解釈出た)
かなんしゃん、こんなお話でよければどうぞご笑納下さいませ(^_^;)ゞ
2009/11/01