リクエスト

□執事殿ご用心
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宇宙歴797年、帝国歴488年。

この年オーベルシュタインは未だ執事のラーベナルトに髪を切って貰っていた。

しかしリップシュタット戦役の開戦を間近に控えたある日…









ロイエンタール
「何、執事殿が怪我を?」

オーベルシュタイン
「あああ…私が通販で高枝切り鋏など買い与えねばこの様な事には…」

ロイエンタール
「(軒下に立てかけてあったあれは通販で買ったものだったのか…)
それで…怪我は重いのか?」

オーベルシュタイン
「うむ、怪我自体は深刻なものではないのだが、利き腕の靱帯を伸ばしてしまってな。
あれは断絶より厄介らしく、完治まで1ヶ月程度かかるそうだ。
出征前に髪を切ってさっぱりしたかったのだが」

ロイエンタール
「子供じゃあるまいし、美容室へ行け美容室へ!
おれがいい店を紹介してやる!」


伸ばしきった高枝切り鋏は意外な重量を感じるものであるが、伸びきった髪と云うのもオーベルシュタインにとってはかなりの重さを感じるものらしい。

その重量に我慢がならなかったのか、彼はロイエンタールに勧められるまま、生まれて初めて美容室なる店の軒をくぐった。

果たしてロイエンタールお墨付きのその店にて髪を切って貰う事になったオーベルシュタインだが、腕がいい美容師がいると云うだけあってなかなかの繁盛ぶりだ。

ローエングラム陣営の中でも名高いロイエンタールの紹介である事と、オーベルシュタイン自身の冷酷・冷徹と云う噂も手伝って、待たされる事なく席に着いたが髪を洗っている途中で客に呼びつけられたり、顔に蒸しタオルを乗せられてすぐ放置されたりと、待てど暮らせど散髪には至らない。

それだけこの美容師に人気があると云う事だが、オーベルシュタインとしては腕の良し悪しよりも早急な任務遂行をこそ評価の対象としたかった。

暫くして美容師が戻って来て、濡れた髪をまとめ上げる。

彼の髪はやや長めだが長髪と呼べる程の長さもなかったので、一つにまとまりきれず左右でクリップで留められてしまった。

これを内側から一房ずつほどいて整髪にかかるのだが、いざ鋏を入れようと云う時になってまたしても彼女の上客が来店してしまった。


美容師
「お客様度々申し訳ありません、すぐに戻りますわ」


美容師はすぐにと云ったが、先程からの経緯を思えばまた暫く放置されるのは目に見えている。

オーベルシュタインは目の前の鏡に映った自分の姿を情けない思いで眺めながら、それでもここは軍ではないのだから小言も云わず待つ事にした。


オーベルシュタイン
(何だこの頭は…まるで幼女だ)


同盟の事務の達人、アレックス・キャゼルヌの年幼い娘が、今の彼と同じ髪型である事を勿論本人は知らない。

この画をシェーンコップ辺りが目撃したなら、帝国印の剃刀ではなくフロイライン・キャゼルヌとあだ名した事だろう。

鏡の中のツインテールの自分に見飽きた頃、漸く美容師が先程来た上客らしき男を連れて戻って来た。

どうやらその男も上客と云うだけあって順を優先されたらしく、空いていた隣の席へと案内された。

たまたま同じ店に居合わせた客など本来興味も持たないのだが、流石にその男が自分と同じ帝国の軍服を着ているとなると、見るとはなしにちらりと横目で確認せずにはいられない。

しかし精神衛生上は彼の為にも見なかった方がよかったであろう。

そこにはやはり自分と同じくローエングラム陣営の提督の顔があった。

慌てて目を反らしたが、時既に遅しである。


メックリンガー
「今日ここに来れば珍しいものが見れるとロイエンタール卿に云われて来たのだが、成る程これは珍しい…
写真を取って来てくれと頼まれたのだが、一枚よろしいかな?」

オーベルシュタイン
「な………っ!」

パシャリ


こうしてツインテールのオーベルシュタインの写真は、ロイエンタールの宝物となった。

彼は生涯その写真を軍内に散布する等に悪用する事がなかったのがオーベルシュタインにとっての唯一の救いだが、別の意味で悪用されていた事はまた別の話である。

そしてこれもまた別の話ではあるのだが…









髪を切り始めるまでは、やはりメックリンガーもフロイライン・キャゼルヌと化していたのであった。

《終》



◆あとがき◆

かなんしゃん、1100HIT踏み抜きあ〜んどリクエスト有り難う御座居ます。

ご要望にはちゃんと応えられていたでしょうか?

オベ子は絶対大人になってもラーベナルトに髪を切って貰っていると信じて疑っていなかったので、美容室に行く理由を必死で考えました(笑)

こんなものでよければご笑納下さいませ。

2009/09/26


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