WJ作品
□デスノ連載_とんだ個人医院
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【序章】
メロは貧窮の大学生。
イギリスの片田舎から身一つで、このアメリカの大学へ進学したはいいが、いつも貧乏に喘いでいた。
先日も進級の懸かった課題かバイトかで考え倦ね、やむなく課題を選んで栄養失調で倒れてしまった。
運良く地元の町医者に拾われ行き倒れの不名誉は免れたが、この町医者のニアと云うのがとんでもない男だったのだ―――
とんだ個人医院〜連載編1〜
ニア
「おや…メロ君、またここへ来たんですか?
もう二度と来ないと云っていた癖に」
メロ
「うるせぇっ!
また貧血で倒れちまったんだから、仕方がないだろう!」
ニア
「それにしても懲りない事ですね。
前回ここで私に散々犯されて…普通学習能力のある人間だったら、倒れてここに運ばれる危険性のある場所にはうろつかないものではないですか?」
メロ
「大学の寮と目と鼻の先なんだ、うろつかない訳に行くか!」
そんな悪態をついてみせたが、実は意識を失う直前メロ自身がこの個人医院を指定した。
文句を云いつつもこの町医者との情事が忘れられなかったらしい。
ニア
「やはりあの時あなたを帰すべきではありませんでしたね。
全く…体を作らなきゃいけない時期の若い子が栄養失調だなんて…」
メロ
「そう思うんだったら点滴じゃなくて、飯食わせてくれよおぉぉ」
ニア
「あ………」
この一見メロとそう年も変わらなそうに見える医師は、性格は兎も角として相当なキレ者だ。
僅か13歳にして医大を主席で卒業し、こんな若さでも医師歴既に7年である。
しかも養父であった先代の院長が莫大な富を残してくれたので、大学病院での派閥争いに巻き込まれる事もなく、悠々自適でこの小さな医院を経営している。
しかしその富が仇となり、外食しかした事のないニアに料理など作れる筈もなかった。
メロ
「チッ、つっかえねーな!
もういいよ、他行ってたかるから!」
ニア
「あ、ちょちょ、待って下さい!
デリバリーじゃ駄目ですか?」
メロ
「もう…飯が食えるなら何でもいいよ…」
他にたかると云ったが実際のところ宛はない、そこは駆け引きである。
この医師性格にそぐわずいつも無表情で、愛しい可愛い傍におきたいと連発する割にはメロにその感情を見せてはくれない。
意識のない自分を無理矢理犯したこの医師に腹を立てつつも、一度抱かれて情が湧いたのか、それとも単に犯られっぱなしでは癪に障るから利用する気でいるのか、何故だかメロはこのニアと云う男にこだわった。
このすかした鉄面皮を引き剥がし、焦らせたりあたふたさせてみたい。
ちょっとした悪女思考である。
メロ
「あ〜っ、うまかった!
ごっそ〜さん!」
ニア
「まさかこのまま食い逃げなんてする気ではないでしょうね?
診察費だってちゃらにしてるんですよ?
分かってますね?」
メロ
「ちょっと待てよ!
医者なら分かるだろう?
食ってすぐあんな激しい運動したらどうなるか…
それよか夕べずっと課題やってて一睡もしてないんだ。
ベッド借りるぜ?
悪戯して起こすなよ?」
ニア
「ちょっ…」
期待に反してニアがまた無表情のままだったのは面白くないが、メロはこの男を困らせる為に必要以上に傍若無人に振る舞った。
ニアの商売道具を占領し、その顔色を伺いつつ寝た振りを決め込む。
しかしやはりニアは無表情で、がっかりしている様にも怒っている様にも全く感情を伺えない。
メロ
(こいつ本当に俺の事好きなのかよ…)
その内メロも満腹な上に夕べの徹夜も手伝って、猛烈な睡魔に襲われそのまま意識を手放した。
眠っていればまた…あの…気持……ちいい事…を…してく………れ…る………
やはり自分から求めるのは癪だったらしい…
目が覚めてみると、意外な事に何処にもニアの姿は見当たらなかった。
おまけに体に触れた形跡も全くない。
メロ
(あいつ何処行ったんだよ…
悪戯するなとは云ったけど、そんなの駆け引きじゃん?
折角無防備な姿晒してやったのに、何もして来ないなんて…)
メロは面白くない気持ちでいっぱいで、ぶつぶつ文句を云い乍ら医院内をニアの姿を求めて歩き回った。
診察室を出ると左側には入院用の個室がひとつ(現在入院患者はいない模様)
反対側にはドアを一枚隔てて居住スペースになっている様だった。
メロ
(丁度昼休みみたいだし、仮眠でも取ってるのかな?)
そう思うとムラムラと湧き起こる悪戯心。
――今日は俺があいつを襲ってやろうか…?――
そんな事を思いつつ扉を開く。
しかしその先には―――
莫大な遺産を所有している人間の割には、手狭でこじんまりとしたリビング。
必要最低限なもの以外は全く置かれていない。
ソファもなくテーブルもなく、小さなテレビの前に大きなクッションがみっつばかり散らばっているだけである。
更にダイニングには市販の建て付けの悪い折り畳みのカウンターテーブル。
食事はそのままこのテーブルで摂っている様だ。
それも自分で作ったものではなく、全てデリバリー…
外食の方が多いと見えて、テーブル脇に貼られていた店の領収書もひと月以上前のものだった。
メロ
「呆れた奴だな、冷蔵庫の中には飲み物しか入ってないじゃないか。
調味料なんかひとつもないし…一体どんな生活してるんだ?」
兎も角目当てのニアはここにはいないと、再び廊下に出る。
廊下の先には玄関と小さな納戸にバスルーム、そして狭くて急な二階へと続く階段。
上に行けば寝室があると踏んで、メロは物音を立てない様、静かに階段を昇った。
二階に上がると部屋が三つあり、一つには倉庫と書かれたプレート。
医療用の消耗品などがしまわれているらしく、消毒薬の様な匂いが微かに漏れている。
残りの二部屋にはプレートはなく、何の部屋かは分からない。
取り敢えずメロは手前の部屋を開けてみる事にした。
メロ
(寝室はあったけど、肝心のあいつはいないじゃないか…
出掛けてるのか?)
寝室はリビングに比べると、何やら物にびっしりと囲まれていると云う印象だった。
書斎も兼ねているのか、まるで子供部屋の様に机や本棚、クローゼットなど生活に必要な全てがこの一部屋に凝縮されている様だ。
ここへ来てメロは初めてニアの生活感らしきものを感じ取る事が出来た。
本棚の中には医療関係の難しい本に混じって、意外にも漫画本が何冊も所狭しと詰め込まれている。
かと思えば哲学書や建築関係の本、美術史や古典文学など各分野のマイナーどころが節操なく並んでいる。
メロ
(マニアックだなー。
しかし何でガンプラなんだ?)
その雑多なジャンルの本達を覆い隠す様に、手前の空きスペースには大小様々なプラモデルが並べられていて、これでは本を取るのに邪魔だろうと云った感が否めない。
それでもメロはあの無表情で変わり者の医者に、人間らしい一面を垣間見て少々ほっとした気になった。
どちらにしてもこの部屋にはニアはいない。
残る最後の部屋を物色するべく廊下に出ると、中にいるであろうニアに気付かれない様、そっとドアの隙間を開けて覗き見た。
メロ
「なっ…………?」
思わず声を漏らしてしまったメロだったが、いると思っていたニアの姿はなく、部屋の様子に呆然とする。
生活感のない人間だと思ってはいたが…
メロ
「何も…ない」
その部屋には文字通り何もなかった。
家具や荷物はおろか、カーテンやカーペットすらない謎の空間。
ここ何年も使われていた気配は全くない。
メロ
「ご丁寧に掃除だけはしてるんだな。
どうせ使ってないんなら、俺だったら寝室にあったあの邪魔なプラモを全部こっちに移すけど…」
ニア
「ここはお嫁さんの部屋ですよ」
メロ
「ひあぁっ!?」
今まで何処にもいなかった筈のニアに突然後ろから声を掛けられ、驚きの余り竦みあがるメロ。
恐る恐る振り返ってみると、別段怒っている様子もなくいつもの無表情。
ニア
「人の家の中を黙って物色するとは、余りいい趣味とは云えませんね」
メロ
「ああああんた、一体何処から…今まで何処にいた!?」
メロの驚きをよそに、倉庫で備品をチェックしていたと涼しげに答えるニア。
その余りに飄々とした態度に思わず忘れそうになったが、さっきこの医師は聞き流してはならない事を云わなかったか?
――お嫁さんの部屋ですよ――
確かに彼はそう云った。
しかし実際にはあの部屋には人が住むには何もなさすぎる。
それではまさか…
メロ
(よ、嫁さん死んじまったのか?
それで思い出すのが辛くて何もかも処分したんじゃ…)
もう二度と辛い思いをしたくなくて、女性と付き合う事もなく、代わりに男に手を出しては性欲だけを晴らしていたのか…
自分を好きになってくれたから抱いたのではなくて、単なる性欲のはけ口に…?
つまりは自分でなくてもよかったのか?
しかしそれを責める事は出来ない。
自分とて関係を持っている女性は今5人いる。
しかしそれはどれも割り切った大人の関係で、彼女達にはそれぞれ付き合っている恋人が別にいた。
だからニアの為にそれらの全てを断ち切ってもいいと思っていたのに…
ニアも自分と同じ様に、都合よく抱ける少年を自分の他に何人もキープしているのかも知れない。
メロ
「帰る…」
ニア
「あれ…今何か変な想像しませんでしたか?」
メロ
「何だよ変な想像って!
どけよ、帰るんだよ!!
やらなきゃならない課題があるんだ!」
ニア
「だったら見てあげますからその課題を持ってらっしゃい、未来の花嫁」
メロ
「はぁっ!?」
ニア
「そうだ、鍵を渡しておきますね。
荷物は少しずつ運び込むとして、今日は課題だけでいいでしょう。
この部屋があなた好みにデザインされていくのが楽しみですよ」
――お嫁さんって…そう云う意味かよ!――
思わず恥ずかしい想像をした自分に腹が立った。
考えてみればこの無表情で変わり者で頭のイッてる医師に、そんなに悲しくも繊細な思い出などある筈がない。
同情にも値しない、焼き餅も罪悪感も必要ない相手なのだ。
メロ
(くっそ、ぜってーソフィアともヴィヴィアンともキャサリンともスーザンともブリジットとも別れねーぞ。
五股でも六股でもかけてやる!)
大層ご立腹で寮に戻ったメロだったが、いざ課題を始めようと机に向かっても捗らない。
折角そのつもりでリバー医院に行ったのに、今日の分の気持ちいい事をして貰い損ねているのだ。
メロ
「ちっ、違う、これはあくまでアタマのいい奴に課題を見て貰おうと…って、ああぁっ!
俺は誰に言い訳してんだ!?」
結局メロはギリギリまでは粘ったが…
診療時間の終わりと共に堪らなくなり、愛しいダーリンの住む家のプライベート玄関から合い鍵を使って上がり込むのであった。
《続》
◆あとがき◆
続き物の新シリーズ如何でしょう?
続き物ってーとパラレルですね(笑)
今度の話は隠れん坊企画の正解者様配信用SSの続編となる設定で書かれてるんですけど、一応それを読んでなくても話のつじつまは合う様にしているつもりです。
今回はこんな生活も悪くないよりは短いと思いますので、最後まで宜敷くお付き合い下さい。
2006/09/26