WJ作品

□リボーン
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【あなたの為に】

今日もツナは数学の小テストで散々な点数を取り、罰として放課後居残りで音楽室の掃除を命じられていた。
単に面倒事を押し付けられただけの事ではあるがツナにはもう慣れっこで、ぶつぶつと文句を云いながらも独りで手慣れた風に掃除を進めていた。
もうすぐ終わって帰れると云う頃に誰から聞き出したのか自称ツナの右腕・獄寺隼人が慌てた表情で音楽室に飛び込んで来る。ツナは何事かと思って獄寺に問いかけた。


ツナ
「ど、どうしたの?獄寺くん。
そんなに大慌てで…(こ、怖いな、もう…)」

獄寺
「す、すんません、10代目!!まさか音楽室の掃除なんかやらされてるとは思わなくて…!
か、貸して下さい、そんなもん俺がやりますから!!」


云うなりツナの手からモップをもぎ取ると勢いで傍にあった机をなぎ倒してしまった。


獄寺
「あ、あれ?すんません、今片付けますから…」

ガシャアン!!

獄寺
「うわっ」

ツナ
「ご、獄寺君大丈夫!?」


倒れた机を立て直そうとして一歩下がったところ、足下に転がった椅子に躓き今度は獄寺自身が派手に転んだ。


獄寺
「いや、へーきッスよ、10代目。
とにかく!ここの掃除は俺が終わらせますから10代目は休んでて下さ…げっ!?」


モップを杖に立ち上がろうとした獄寺の体重に耐えられず、柄の部分をまっぷたつに折ってしまった彼は拍子で壁に並べてあった多数の楽器達を激しく床にまき散らしてしまうと云う目も当てられない惨劇に思わず固まってしまう。


ツナ
「ちょっ、獄寺君、何やってるの!
あ〜あ、折角もうちょっとで終わるとこだったのに…もうっ、いいからそこ座って大人しくしててよ!」

獄寺
「め、面目ないッス…」


敬愛するツナに叱られ、しゅんとなってピアノの椅子に腰掛ける獄寺。


ツナ
(そう云や前に山本ん家で弁償騒ぎになった時も獄寺君皿壊しまくったっけ…片付けとか自分に向いてないとか分かんないのかなぁ)


折角終わりかけたところをかえって仕事を増やされたのでツナは内心不満をぶちまけたい気分だったが、まだ獄寺の事が怖いので部下とは分かっていても面と向かっては云えずに渋々後片付けを続けた。


獄寺
(あぁ…10代目怒らせちまったよ…たかだか掃除も出来ねぇなんて情けねぇ)


すっかりしょぼくれてしまった獄寺は最初大人しくツナの働く姿を眺めていたが、ふと自分が座っているのがピアノの椅子である事を思い出した。


獄寺
(ピアノか…城にいた頃はよく弾いてたけど今んとこには持って来れなかったから懐かしいや。
こいつ弾く位じゃ掃除の邪魔にはなんねぇよな。
いや寧ろさっきの汚名返上?)


そう思うといても立ってもいられなくなり、獄寺はそっとピアノを開けてみた。城にあった物と比べれば随分と安物だが、ツナに喜んで貰えるなら値段など関係ない。


ポロロン…

獄寺
(へぇ、安モンの割にゃちゃんと手入れしてるじゃねぇか。
よし、それじゃあ…)

ツナ
「ちょっとちょっと獄寺君、何やってんの!?
やめてよもう、そんな高い物壊されたら俺弁償出来ないよ!
頼むから黙って座っててよ!!」

ガーーンΣ( ̄□ ̄;)

獄寺
(そっか…10代目俺がまともにピアノなんか弾けねぇと思ってるんだ…アネキさえいなけりゃこんなの訳ねぇのに…凹)


これ以上ないと云う位凹みまくった獄寺はツナが掃除を終えても立ち上がろうとせず、椅子に腰掛けたまま呆然と遠くを見つめていた。


ツナ
「獄寺君?
掃除終わったから俺帰るけど」

獄寺
「あ…お疲れ様ッス…」

ツナ
「…?
帰らないの?」

獄寺
「あ…?
あぁ…すんません…俺…もうちょっと頭冷やしてから帰ります…お気を付けて、10代目…」

ツナ
「そ、そう?じゃあ俺、先に帰るから…」


ツナもまさか獄寺がここまで落ち込むとは思っていなかったのでどう扱っていいものか分からず、取り合えずそっとしておくのが一番いいと判断し独り先に帰る事にした。
残された獄寺はツナの後ろ姿を見送り、ひとつ溜息をこぼす。


獄寺
「俺のピアノ聞いて欲しかったな…10代目の為に作った曲…まだ途中までしか出来てないけど…」


無論ピアノがないので弾いてみた事はないが、符線だけ起こし密かに作り続けていた曲がある。
10代目ボスを称える為の軽快で勇ましい曲作りを目指していた筈が、どうしても優しく切ない旋律しか頭に浮かばず今まで完成する事のなかったこの曲…


獄寺
「別に10代目襲名の時に弾かなきゃいいんだよな。
ファミリーとは関係なく沢田綱吉さん個人のイメージ曲っつー事で…でも辛気くさいか?」


荒くれ者の中で育ったせいで荒々しい曲を好んだ獄寺にとってはこんな甘い旋律はどうにも気が滅入ってならなかった。
自分で云っておきながらツナのイメージに合っているとも思えない。
なのに何故彼を想うとこんな音達が自分を支配するのか、獄寺自身が理解出来ずにいた。


獄寺
「10代目…もう校舎から出たよな?
聞こえるとこで弾いたらまた叱られちまうからな…はぁ、この曲が聞いて貰える事なんてこの先あるんだろーか…ま、こんな辛気くさいのが10代目の曲だっつったら気ィ悪くするだろうからあの人の前では弾かない方がいいか…」


聞いて貰える事のない曲を独り弾いてみる。
演奏するのは初めてなのに自分でも驚く程指は滑らかに甘く切ない、それでいてどこか優しい音符の渦を奏でる事が出来た。


獄寺
「なんだよこれ…これじゃまるでフランス映画なんかで流れる甘ったるい恋の歌じゃねぇかよ。
なんでこんなんが10代目の曲なんだ?
自分でも呆れちまうぜ」


そんな独り言を云いながらなおも演奏を続けていると、突然の拍手に驚き弾かれた様に椅子から転げ落ちる。


ツナ
「うわ、ごめん!
お、脅かすつもりはなかったんだよ。
大丈夫?獄寺君」

獄寺
「じゅっ、10代目!?
どうして…帰ったんじゃなかったんスか!?」

ツナ
「あ、いや…俺ジャージ忘れて…教室になかったからここだと思って来てみたらピアノが聞こえて…ごめん獄寺君、ピアノ凄く上手かったんだね。
それなのに俺壊したら弁償出来ないとか失礼な事云っちゃって…」

獄寺
「そ、そんな気にしないで下さい、10代目!」


ピアノの誤解は解けたが、聞かれない方がいいと思っていたこの曲を本人に聞かれてしまいなんとなく気まずい思いの獄寺。
照れ隠しに景気のいい曲を弾いておどけてみせた。


獄寺
「どうです10代目、上手いもんでしょう?
アネキさえいなけりゃこいつの演奏くらいお手のもんスよ♪」

ツナ
「はは、楽しい曲だね、それイタリアの?
でも俺…さっきの曲のがいいな。
あれ何て曲?
最後まで聞かせてよ」

獄寺
「え゛」


一番聞かれたくなかった曲をねだられ戸惑う獄寺に無邪気な視線を投げかけるツナ。


獄寺
「あ…すんません10代目…タイトルはないんです。
それにまだ曲も全部は出来てないし…」

ツナ
「え?凄い、獄寺君!!
あの曲自分で作ったの!?
じゃあ早く完成させて全部聞かせてよ。
俺すっごい気に入っちゃった」

獄寺
「……………」


恐らくツナはこの甘い恋の歌を笹川京子に重ねて聞いていたのだろう。
自分がツナの為に作った曲を他の女の為に聞きたがる…獄寺は何故だか無性に切ない気持ちでいっぱいになった。


ツナ
「…?
獄寺君?」

獄寺
「残念ですが10代目…この曲は完成させるつもりはないんですよ…その内10代目の為にもっといい曲作りますからそれで勘弁して下さい」

ツナ
「えぇ〜、どうして?
すっごいいい曲なのに…」

獄寺
「すんません…それより10代目、もう帰りましょう。
俺、送りますから」


ツナは納得していない様だったが獄寺は強引に腕を掴み音楽室を後にした。


ツナ
「ちょっ、獄寺君痛いよ。
獄寺君?
どうしちゃったのさ、俺なんか悪い事云った?」

獄寺
「すんません…」

ツナ
「いや、だからすんませんじゃなくて…獄寺君?」


ツナの腕を放し先を歩く獄寺がなんだか泣いている様に見えてそれ以上何も云う事が出来なくなったツナ。
獄寺がツナに尊敬や憧れの念を越えて恋心を抱いてしまっている事に、この時はまだ二人とも気付いていない…
《終》
2005/01/13
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