WJ作品

□あやつり左近
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【君が嘘をついた】

私の名は橘薫子。こう見えて女の身であり乍ら警視庁捜査一課の警部補である。

実は先日義姉から最近甥の様子がおかしいと相談を受け、休暇を利用してどう云う事態なのかを確認に来たのだ。

その甥と云うのが兎に角変わっていて、年頃の美少年だと云うのに同年代の友達とも遊ばずに文楽人形を日がな日暮らしいじり倒している。
その変わり者の甥がこれ以上どう変わったと云うのか…


「こんちわ〜。
義姉さん、来たわよ〜」

「ああっ…薫子さん!(うっうっ)
お待ちしてましたわ…(よよよ)
このところ左近の様子がおかしくて、もうどうしていいか…(よろっ)」

「あああ、ね、義姉さん、落ち着いて」


義姉からしてこれなのだからその息子である甥の変わりっぷりは想像がつくだろう。
精神状態が普通じゃない義姉の話を幾ら聞かされても埒があかないので、私は直接左近に逢って話を聞く事にした。


「兎に角私、左近と話してみるわ」

「ええ…ええ…薫子さん、お願い…
ああ、こうしている間にもあの子が苦しんでいるかと思うと…!」

「だ〜から、落ち着いてってば!」


いちいち付き合っていたのではこちらの身が保たないので、義姉の事は放っておいて私はさっさと左近の部屋へと向かった。


「左近〜、いるんでしょ?
入るわよ〜」

「あ…薫子姉さん、いらっしゃい…」


左近は私が訪ねて来た理由も聞かず、その端正な顔を伏せて憂い色に染めた。
成る程、これはちょっと様子がおかしい…


「ちょ〜っとぉ、どうしちゃったのよ?
義姉さ…お母さんも心配してたわよ?何があったか話しなさいよ」

「それが…薫子姉さん、聞いて下さい!
右近が!右近が〜!」

「ちょっ、右近が!?
あんたの大事な右近がどうしたって云うのよ!?」

「うっうっ…最近…右近が反抗期なんです!!」

「はあ?」


反抗期…と云ってもその右近を操ってるのは他ならない左近本人じゃない…反抗的にならない様、操ればいいだけの話なんじゃないの?
私は訳が分からない乍らも、なるべく甥を傷つけない様言葉を続けた。


「で…右近は今何処に?」

「あ…はい、今呼びます…」


呼ぶ…って、例の湿気だか乾燥だかから人形を守る箱から出すって事じゃないの…人形を友達扱いするこの子が私ゃ心配でならないよ(汗)


「ほら、右近…薫子姉さんが君の事を心配して来てくれたよ」

「ちょっと右近、聞いたわよ?
あんた最近…」

『おい、薫子!何かお前ェ見ない内に太ったんじゃねぇか?』

「(くわっ)な、何ですってえぇ〜!?」


左近、ホントに教育がなってないわよ!
って云ってるのは左近本人か…て事は反抗期なのは左近!?


「う、右近!何云い出すんだよ、いきなり…
薫子姉さんに失礼じゃないか!」

『んだよ、左近。お前ェも相変わらず辛気くせぇツラしてやがんな。
ん?何だお前、それ白髪じゃねぇのか?』

「え、えぇっ!?
う、嘘っ!?」

『真に受けんなよ』

「ひ、酷いよ右近!」


おい…自分相手に何騙されてんのよ…


『そう云やお前が解決したこないだの事件…犯人脱獄したってさっきニュースで云ってたぜ?』

「えぇっ!?こないだのって…」

ズビシ!!


…気が付くと私はハリセンで左近をシバいていた。


「か、薫子姉さん!?」

「今まで箱に入ってた右近がニュースなんて見てる訳ないでしょ!?」

「あ…」


あ…じゃないわよ…自分自身に騙されるって、そんな事あるもんなの?
でも左近が演技してる様にも見えないのよねぇ…


「薫子姉さん…僕はどうしたらいいんでしょう?
右近が嘘をつく様になってしまうなんて…(うっうっ)」

「いや、騙されるあんたがどうかしてると思う…」


暫くして右近の反抗期は終わりを遂げたが…後から聞いた話だと、先日の事件で右近の眉毛を本人に内緒で猫の毛に仕立て上げた事を根に持っての事だったらしい…

でも私は…

甥っ子の二重人格よりも、彼がオレオレ詐欺なんかにあっさり騙される様な性格である事の方を危惧していた…
《終》

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