ワールドトリガー

□平穏な夏休み
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台風騒ぎで脚を負傷してから一週間が経った。

入院生活は一週間で飽きるなんてよく言うけど、過労で入院した時は自力で動けたしちょうど一週間で退院だったからそんなに苦痛じゃなかった。

今回は入院ではなく玉狛の基地にご厄介になってる身分だし、誰かしらちょくちょく面倒を見に来てくれるから入院の時よりは寂しい感じもしない。

でも今回は自力で動けない。

1か月の安静ははっきり言って地獄だ…






【平穏な夏休み】






「三雲先輩、遅くなってすみません!
トイレ大丈夫でしたか?」

「虎太郎だって防衛任務で何かと忙しいんだから、そんなにべったりついてなくて大丈夫だよ。
それより退屈な方がキツいかな」

「それはあんたの自業自得でしょ。
自分の非力は自覚してるもんだと思ってたのに、まさか生身で戦闘体の遊真を支えようとするなんて」

「す、すみません、つい咄嗟に…」





なんだかんだ言いながらも大抵は小南先輩がついていてくれて、細々と世話を焼いてくれる。

どうも子供を産んでから母性本能に火が付いたらしく、ぼくの【面倒見の鬼】と言う空閑のつけた二つ名は彼女の為に返上するべきではと思うほど世話好きになった。

なので有り難いには有り難いのだが…






「ああ、小南さんがいると空閑先輩に来て貰えないですもんね」

「えっ、いやっ!
だ、誰もそんな事言ってないし!」

「小南さんだってトイレまでついて来れる訳じゃないし、空閑先輩についてて貰えるように頼んでみたら?」

「だからそう言う事じゃ…!」





駄目だ…空閑に触れたら変な気起こしそうだし、トイレの面倒なんてぼくが恥ずかし過ぎる。

でも空閑がたまにしか顔を出してくれない事に一抹の寂しさを感じているのも事実であって…





「空閑先輩ってみんなに遠慮してるんじゃないですかね。
ホラ、三雲先輩って空閑先輩の言う通り面倒見の鬼なんですけど、同時に面倒見られの鬼って言うか」

「面倒見られの鬼?
なんだそれ」

「だっておれもそうですけど、みんな三雲先輩の世話焼きたがるじゃないですか」





言われてみれば思い当たる節はある…小南先輩は勿論、宇佐美先輩に迅さん、ヒュース、クローニンさん。

年上勢だけでなく千佳にユズルに陽太郎、部外者ながらに夏目さん、そしてこの虎太郎だって何かと面倒を見てくれた。





「三雲先輩て昔からそうですよね。
嵐山隊をはじめ、出水先輩や米屋先輩、里見先輩みたいなスゴイどころに構われて羨ましいなーなんて思ってましたけど、実際傍に来てみて分かりました。
なーんか構いたいって言うかほっとけないって言うか、何かしてあげたくなるんですよね」

「な、なんだよ…人を危なっかしい子供みたいに」

「違いますよ、自分じゃ到底真似できないくらい頑張ってるのが分かるから、みんな力になりたいって思うんですよ。
本人にはその自覚がないみたいですけど」





真似できないくらい頑張ってる…?

まさか。

みんなぼくには真似できないくらい頑張ってるからあんなに強いんじゃないか。





「言っときますけどね、三雲先輩。
ランク戦の強さとか関係ないですからね?
みんな得意分野をそれぞれ楽しんで技を磨いてるだけなんです。
そりゃ特定の条件下では強いでしょうよ。
でもね、その特定の条件を自分で作るなんて無理なんです、三雲先輩以外はね」

「え…」

「そんな三雲先輩がなんで自分の為には有利な条件を作り出せないかなー。
ホント他人の事ばっかで自分は疎かだから、だからみんなほっとけないんですよ。
他人の為にはあんなに頑張れる人が、自分は損してても気づきもしないなんて納得いかない。
納得いかないんですー」

「えっ、ちょっ、虎太…」

「おれ言いますからね、空閑先輩に。
条件作りの為におれ達いくらでも利用してくれていいんです。
誰も文句なんて言いませんからね」





えっ?えっ?えっ?

空閑に言う?

言うって何を?

ランク戦なら兎も角、自分が利用されて面白い人間なんている訳な…





「ただ今戻りましたー」

「あんたら随分長い連れションだったわね」

「いやおれトリガーの組み合わせ変えようと思って三雲先輩に相談を。
小南さんにも見て欲しいから、ちょっとオペ室来て貰ってもいいですか?」

「(ピン!)
あーはいはい、分かった。
じゃあ修、悪いけどあたし暫く外すわね。
代わりに遊真でも寄越すわ、アイツ今日は防衛任務もなくて暇でしょ」

「え、いや、ちょっ…」





く、空閑?

空閑を寄越すって…小南先輩もグルなのか?

虎太郎の奴、空閑に何を言う気なんだ…!

待て待て待て、心の準備が!

心の準備がーーーーーー!!





ガチャ

「よう、オサム。
暇持て余してるんだって?」

「へっ?
あ、ああ…虎太郎なんか言ってた?」

「?
こなみ先輩が甲斐甲斐しすぎで却って気を遣うからって。
ようたろうもよく言ってるもんな、『こなみの愛が重い』って。
あいつの場合子供扱いしすぎでちょっと可哀想だけど、おまえも子供扱いされたのか?」

「(はああ〜〜〜…虎太郎グッジョブ)
ああ、まあ…小南先輩は過保護が過ぎるよな」





実際その通りだし、考えてみれば虎太郎だってまさかぼくが空閑にそう言う意味での想いを寄せてるなんては思ってないだろうし。

研究員に転向してまで逢いたがってた空閑とチームが組めない事に焦ってるんだろうぐらいの認識だろ、きっと。

周りの目を意識しすぎだし、なんだかぼくひとりで焦ってるな。





「怪我のせいかも知れないけど、なんだか年下にまで子供扱いされてるみたいで居た堪れない。
その点空閑は干渉しすぎず程よく世話してくれるから、暇な時はなるべく空閑がついててくれると助かるな」

「(いや、干渉し過ぎると欲情しちゃうんで)
オサムがそう言ってくれんならこっちとしても有り難い。
本人のリクエストだって言えば堂々とついてられるもんな。
みんなオサムに構いたがるから気ィ遣うよ。
独り占めって言われかねん」

「(ホントにそんな理由なのかよ…)
でも悪いな、空閑。
面倒かける」

「いやあ、おれも構いたい人間のひとりですから。
構いすぎだったら遠慮しないでちゃんと言えよな」

「え………///」





空閑に構いすぎられたら滅茶苦茶嬉しいんだけど。

寧ろ自分が変な気起こさないか心配だけど。

身動き取れなくて不便はしても、空閑が傍にいてくれるならそう悪くはない…かな。





「そうそう、一応支部長が怪我のこと大学に報告してくれてたけど、試作品の実装やモニターは無理でも誰かにやらせて使用感の数値化や問題点の洗い出しは出来るだろうって。
銃手用のトリガーだからこたろうがモニター務める事になったらしいけど」

「あ…そう」





あは…あははは…教授…身動き出来ない怪我人にそこまでやらせますか…

ハッ、待てよ!?

虎太郎がやけに協力的な事言ってたのは、この事の罪滅ぼしのつもりだったのか!?

これじゃ空閑が傍にいてくれても話をする暇もないじゃないか!





「ちぇっ、攻撃手用のトリガーだったらおれが協力出来たのに」

「ぼくが攻撃手じゃないからな…ぼくが担当するのは専ら銃手か射手のトリガーだよ…」

「…おれ万能手目指してそっちのトリガーも使えるようにするわ」





それは有り難いけど、その訓練の為にはまたぼくの傍から離れることになる訳で…

今はまだ学生だからこの程度で済んでるけど、卒業後もボーダーに残る気なら寝る間も惜しむエンジニアか、在学中に実力をつけてA級隊員になるしかない訳で…

卒業まであと1年…1年でA級隊員になれるのか?

このぼくが!?

10年前には空閑には時間がないなんて言ったけど、今回時間がないのはぼくの方!?

だっ、だけどこれまでも10年夏休みも冬休みも春休みも返上して研究に勤しんで来たんだ。

10年待ってやっと空閑に逢えたんだ!

だからせめて今年は…今年だけはぼくに平穏な夏休みを下さい…
《了》




夏は心の鍵を甘くするわ、ご用心♪
修も夏のリゾートラブとか夢見ちゃうオトコノコだったんですね(笑)
2020/07/11 椰子間らくだ


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