ワールドトリガー

□不意打ち
1ページ/1ページ

一夜明けて嵐が過ぎれば外は快晴。

あの猛威を奮った台風も、文字通り何処吹く風だ。

それぞれ実家や避難所に身を寄せていた隊員達も、三々五々台風の後始末に玉狛基地へと戻って来た。

まあ、基地自体は頑丈に出来ているし、トリオンの防壁があったからウワモノの被害はなかったのだが…




【不意打ち】




「あーあーあ、こりゃヒドいわ」

「ぼく達が基地を出た時はまだなかったですよ…」





玉狛地区は高級住宅街とまでは言わないが、集合住宅よりは建売の多い地域である。

なので多くの家に庭木があるのだが、強風に煽られて折れた枝々がこぞって基地のある川に流され足場に引っかかっていた。

それでなくても増水しているのに、広葉樹の枝で堰き止められてはもう今にでも溢れそうだ。





「まあここはおれの出番でしょ。
【強】印使えばこんな枝くらい、引きずり出すのは訳ないし」

「問題はその引きずり出した枝の撤去場所だな。
レンタカー屋行ってトラックでも借りて来るか。
迅、決壊まではどれぐらい保ちそうだ?」

「保って2時間…早けりゃ1時間半ってとこですね。
こりゃ急がないと」





見れば折れた枝どころか根こそぎ引き抜かれた様な柿の木がある。

対岸の家の一軒が垣根の一部ごと持っていかれたのか、荒れに荒れた花壇までが丸見えになっていた。

この木が他の細かい枝や垣根を全部堰き止めているのだ。





「まずは細かいのから退かしていかないと大元に辿り着かん。
小枝は取り敢えずこの橋の上にでも置いとくか」

「支部長が戻って来るまで待った方がよくないか?
迅さんは少なくとも1時間半は保つって言ってたし、二度手間になるし」

「ふむ、一理ある。
でも水の流れる隙間くらい作っとくか」





折れて引っかかっていた標識のパイプを梃子に、取り敢えず水の通り道を作る。

少しずつ流すつもりでいたが、堰き止められていた大量の水が、僅かな逃げ道に一気に流れ込んだ事で細かい枝が噴き出して来た。





「うわわ、ヤバ!
足場崩れ…っ!」

「く、空閑!」




咄嗟に手を伸ばしたものの、換装前の修の非力な腕で遊真の身体を支えきれる筈などなかった。

おまけに増水によるこの急流である。





「ぎゃー!!
遊真と修が流されたーーー!?」

「堰き止めて!
こなみ、双月連結して穴塞いで!」


















「ちょっと、遊真!
あんたがついてながら何よ、この体たらくは」

「面目ない…」

「い、いや、自業自得ですから。
あたた…」





小南がすぐに穴を塞いだお陰でさほど流されずには済んだが、噴出した枝が直撃したので修は脚に負傷した。

折れていないのがせめてもの救い…と言えるかどうか。

左膝裏の靭帯を伸ばしてしまったので、ひと月安静の宣告を下されたのだ。





「まったくあんたもついてないわね。
いっそ断裂した方がまだ治りが早かったのに」

「こ、怖い事言わないで下さい。
それよりすみません、撤去作業手伝えなくて」

「元々あんたには期待してないわよ」

「ぐっ…」

「じゃああたしは作業に戻るけど、遊真、あんた責任持って修の面倒見なさいよね。
非力な修が健気にもあんたを助けようとして名誉の負傷を負ったんだから」

「反省してます…」





結局撤去作業は迅が遊真からレプリカを借り受ける事で滞りなく進んでいるらしい。

小南と千佳、ユズル、虎太郎は川下に流された枝を攫っている。

水中作業なので栞は視覚支援担当だ。

ちなみに陽太郎とヒュースは小南の実家に取られて、荒れた庭を絶賛修復中である。
(地味に小南のばーちゃんに気に入られてるイケメンふたり)





「で?
おまえらわざとらしく修と遊真をふたりきりにして、一体何を企んでるんだ?」

「あちゃあ、支部長には敵わないなあ。
バレバレですかあ」

「ま、うさみの策が昨夜盛大に空振ったから、怖い思いさせたお詫びってところなんじゃないの?」

「予想してなかったシチュエーションだから、なんだか却ってどきどきするね」





非力ながらも遊真を助けようとした修の健気さ、そんな修を甲斐甲斐しく看病する遊真のいじらしさ。

今回ふたりの恋の進展は諦めていただけに、この不意打ちの様なシチュエーションは腐女子どもを悶絶させた。





「不謹慎なのは分かってるんだけどぉ」

「いや、おれも三雲先輩には幸せになって欲しいですから…+」

「他人の幸せより自分の幸せを追えよ(ぐすっ)」

(迅のやつ、まだ修を諦めてないのか)

「「「「今頃ふたり、どんな話をしてるんだろーねー…///」」」」





そんな期待とは裏腹に、お互いの助け合いと昨夜の気恥ずかしさも引きずって、ふたりが終始しりとりなぞして時間を潰していた事など彼らは知る由もない。
《了》





付き合い始めのカップルかと突っ込みたい(笑)
2020/07/06 椰子間らくだ


次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ