ワールドトリガー

□ボーダー映画研究部へようこそB
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【ボーダー映画研究部へようこそB】


◆恥と共に去りぬ◆

空閑について前々から疑っていた事がある。

以前はあれ、もしかして…程度の疑惑だったが、今回の事でそれは確信に変わった。

空閑はアルコールが入ると記憶が飛ぶ!

間違いない。

これまでは恐らくレプリカが会話を記録して空閑に聞かせる事により、会話の整合性を保っていたのだろう。

しかし今回レプリカは会話の一部を空閑に知らせるべきではないと判断したようだ。

でなきゃあんなハズカシイ会話をしたのに、空閑が平気な顔で普段通りに振る舞えるなんて考えられない///

では何故レプリカは件の会話を黙すべしと判断したのか。

@男に可愛い呼ばわりされて空閑が傷付く、もしくは不快に思うことを避けるため。

A【可愛い】が実は空閑にとって褒め言葉で、彼を調子に乗せないため。

Bレプリカがぼくの邪な感情に気づいたが、知られたくないと言うぼくの気持ちを察してくれたため。

C空閑がぼくの気持ちに当てられて、うっかりその気になるのを避けるため。




…まあAはないな。

女性に言われるよりマシと言ったニュアンスの事を言っていたから、可愛いは別に褒め言葉じゃない。

B…もないな。

レプリカは亡くなった親父さんに代わってこれまで空閑を見守ってきたんだ。

寧ろ話して無闇にぼくに近づかないよう提言する筈。

@かC、もしくは両方…





「ああ、もう…どうして可愛いなんて言っちゃったかな…
あれ絶対(レプリカに)バレたよ…」

「言って拒絶されなかったって事は相手もその気だって事でしょう。
もういい年なんだから、つべこべ言わずに押し倒してしまいなさいな」

「はいぃ!?
か、母さん、何を言って…」

「空閑くんでしょう?
あの子大きくなっても可愛いものね。
相手が千佳ちゃんじゃないのは残念だけど、好きな人と一緒になるのが一番だもの」

「な…な…な…!」

「バレてないとでも思ったの?
あなた心の声がダダ漏れてるわよ」

「う、う、う、うわああぁぁぁーーー!!」

「あら、行っちゃったわ。
そんなに恥ずかしがらなくても」




修、恥と共に実家を去りぬ。





◆七人の腐女子◆

ボーダー広報部の公式サイトには手の空いた隊員が防衛任務での出来事や日常を呟くツイッターが人気コーナーとなっているが、以前腐話で盛り上がった女性隊員達が連続投稿をかましたので物議を醸し、禁止しても辞めないと踏んだ根付広報部長が鍵付きの裏アカウントを作った事を知る者は少ない。

専ら入り浸っているのは七人の腐女子達だ。





『修くんが実家で何かやらかしたらしくて、ここ何日か基地に泊まり込んでます。
敢えて遊真くんの部屋から離れた部屋に籠っているあたり、却って意識してる事がバレバレですwww』

『その修くんが籠ってる部屋の前で遊真くんが何か言いたげに動物園の熊よろしくうろうろしてるのをさっき見ました(笑)』

『玉狛勢羨ましすぎます。
カップルが2組もいる上に、何年か前までは京介レイジコンビも…+』

『え、双葉ちゃん、そこはレイジ京介コンビでしょ?』

『(スルー)陽太郎くん達は今日はどんな感じですか?』

『さっきふたりできゃっきゃうふふと連れ立って鯛餡吉日に行ったよ。
新作のブルーベリーヨーグルト餡の試食だって』

『公認は堂々とデートですか。
とりまる先輩と木崎さんもデートとかすればいいのに。
ふたりが本部所属になっても、ちっとも萌えシーン見られません』

『え?え?
双葉ちゃん、そこは木崎さんと烏丸先輩って書くとこだよね?』

『(完全に無視されてるのに藍ちゃんもめげないなー)
ふふふ、ゆりさんを諦めきれなくてさめざめと泣く木崎さんをとりまるくんが慰めてるとこを焼き鳥屋で目撃しました…+』

『えぇー、志岐先輩ずるいですよおぉ、どうして誘ってくれなかったんですかあぁ!』

『あ、日浦先輩が三門に戻って来るちょっと前です。
あとで隠し撮り写真送りますね』

『わたしもおさむくんとゆうまくんがいちゃいちゃしてるしゃしんほしいですー。だれかもってませんかー?』

(この7人目って一体誰の裏アカなんだろう…)

(文章の癖で特定されないように常にひらがな改行なしなんですよね…)

(【UMAじゃないよ、遊真だよ】って名前からして、相当の空閑くん推しなのは間違いないわね)

(空閑くん推しは結構いるからそれだけじゃ特定出来ないぃぃ!)

(でもこのコ…まさかアタシ達が6人揃って面付き合わせてこれを書いてるなんて思ってないよね/笑)

「(すぐ後ろでラーメン食ってるなんて、この6人は想像もしてないだろな)
大将、ギョーザ追加で」

「遊真はデカくなってからよく食うなー」





本当は6人目はチビレプにしたかったけど、それだと7人目が遊真だとバレてしまうので茜にしました(笑)





◆まんま見ィや◆

「まさかあの白い子がメガネに逢いに戻って来るとは思わんかってん、俺ふつうに感動したわ」

「空閑チャンの愛の賜物っすね!」

「ヒュースも戻って来よったし、メガネモテモテやんな」

「それゆうたら那須隊の…ホラ、狙撃手の子ぉも戻って来たやないすか」

「せやんな、これで3人揃たやん」

「「「「3人揃う?」」」」

「この映画みたくメガネの争奪戦が始まるで」

「こない感動的な映画、穿った見方すなや!
まんま見ィや!」

「「「マリオ巧い」」」




いや、修は3人とは寝ないだろ。





◆ネイバーフッド・サイド・ストーリー◆

ヒュースが玄界に旅立ちはやひと月が過ぎた。

ヒュースを我が子の如く可愛がっていたエリン家当主にしてみれば、ヒュースの恋の成就を願って泣く泣く手放したのだから、彼のその後が気になって気になってしょうがないのは無理もない事だ。

実子に過保護と笑われてもヒュースの定時報告の時間になると、自らオペレーターの元に足を運んでしまうのだ。





「そろそろヒュースからの連絡が来る時間であろう。
しかしボーダーも小粋な事を。
彼らが置いて行ってくれたこの端末があれば、文字も50字以上送れるし映像まで見る事も可能だ。
玄界の進歩も目覚ましい…」

「我々とは技術の方向性が違いますからね。
こんな小さな端末でも我々が開発した物より遥かに優れた機能を備えています。
私も一度技術指導を受けに彼の地に滞在してみたいですよ」





実のところこの端末を使用して二国は頻繁に技術に関しての情報交換も始めている。

修が研究していた遠征艇を使わずにふたつの世界を行き来すると言う技術も、戦略的な理由の他に貿易の面でもまた両国の利害は一致している。

これまでの試作機で最大のネックとなっていたのは、設置場所ごと発見した近界民の偵察機に撃ち落とされる事だった。

実際これまでに試作機を三度破壊され、一度は研究費の枯渇で研究そのものを一時休止した事もある。

しかし今では近界でも指折りの軍事大国・アフトクラトルが友好国側についたお陰で設置場所の問題が払拭された。

アフト側としても玄界とは貿易協定を結びたいので、共同開発と言う名目でトリオン供給の形で協力している。

市井の民も玄界の文化には興味津々なので、ヒュースからの玄界の文化発信には多くの関心が集まっている。




「あ、来ましたね、ヒュースからです。
今日も映像つきです」

「来た来た…!」

『ヒュースでーす。
今日の晩ごはんは…鰻重!
玄界では毎年一回か二回【土用丑の日】と言うのがあって、この日に健康と長寿を願って鰻を食べる習慣がありまーす』

『本当は鰻は夏が一番脂がのっていなくてまずいので、江戸時代の鰻屋が鰻が売れないと平賀源内に泣きつきました。
そこで夏バテ防止に鰻を食べよう!と言う口実で、言わば売れないものを売るための商戦だと言うのはあまり知られていない歴史の裏話です』

『そうなのか、修!?
こんなに旨いのに、日本人はこれを不味いと言うのか?』

『まあ旬の秋〜冬に比べればって話だけど』

『日本って信じられないくらい食文化にこだわりがあるよな。
はい、これが肝吸いでーす。
鰻の内臓で作ったスープだけど、これもウマイ!』

『あっ、ユウマ!人の仕事を取るな!』

『仕事…なんだ?
こんなふざけた映像に報告書なんて銘打って叱られないのか?
なんだかユーチューバーの食レポみたいになってるけど』

「なんと!
玄界にはその様な職業があるのか!?
羨ましい…私も是非彼の地へ行って存分に食を堪能してみたいものだ…!」

「駄目ですよ、領地ほっぽってグルメ旅行とか考えちゃ」





修の心配とは裏腹に、ヒュースのグルメ日記は映像を加工され、国営放送で大人気番組となっている。





◆玉狛の休日◆

「よし、じゃあ元白髪チビ!
まずはお前の散髪シーンを撮るぞ」

「え…今よりまだ短くするの?
それよりいい加減その元白髪チビって呼ぶのやめてくれよ。
遊真だよ、空閑遊真」

「チッ、髪を切るシーンが見どころなのに…
分かった、じゃあそこのメガネ!
遊真をスクーターの後ろに乗せて観光名所を回れ」

「…三門市に観光名所なんてあったっけ…?」

「こないだの文化祭以来なんとなくボーダー基地が観光地化してるけどな」

「スクーターなんてないから社用車でいいか、エネドラ」

「あっ、おれ運転したい!
免許取ってからまだ一回も運転してない!」

「ヘプバーンが助手席に男乗せて四駆運転するのかよ!
ああ、じゃあ次の撮影までにスクーターはこっちで用意しとく。
次のシーン…よし、迅!
遊真がSPの頭をギターでぶん殴るところをカメラで撮れ!」

「おれカメラなんて持ってないけど、スマホのカメラでいいか?」

「だあーもー、あれもない、これもない!
オマエらやる気あるのか!」

「「「いや、いきなり押し掛けて来て、やる気って言われても…」」」





防衛任務に就く隊員のいない日を狙い、突撃隣の晩ごはんノリで撮影を始めるエネドラに振り回される玉狛の面々。
失恋から立ち直ったエネドラはウザさ増し増しであったが、玉狛メンバーが休日大人しく基地でじっとしている訳もなく、被害に遭ったのは迅・修・遊真の3人だけであった。
しかしもしこの場に千佳と栞がいたなら、被害者になるのは自分の方であった事を彼は知らないーーー
《了》





色々誤解がありましたが、今は寺島チーフとお付き合いをしています。
千佳と栞にはそのへんを散々イジり散らかされるでしょうね。
2020/07/05 椰子間らくだ


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