ワールドトリガー

□想えども想えども
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『やーん、三雲先輩と空閑先輩がラブラブだって噂は本当だったんですねー』





何を言ってるんだ。





『ここまでいちゃついておきながらなんで無自覚なんだろう…』





そんな訳ないだろう。





『すまん、違うのか?
俺もてっきりそうだと…』






麟児さんにまでそう言われて…

無自覚なんて、そんな訳ないじゃないか。





【想えども想えども】





こっちは空閑に気づかれまいと必死なのに。

陽太郎とヒュースが【そう】だからって、みんなそれが普通なんだと思ってるんじゃないか?

普通な訳ないだろう。

それは恐らく近界でも。

空閑は言ってた。

『こっちじゃ男同士で好きになるとかよくある事なのか?』と。

普通じゃないと思っているからそう言う聞き方をするんだろう。

だから空閑に今の気持ちを知られる訳にはいかないんだ。

周りであんなに騒いだりしなければ、こんな感情に気づく事もなかったのに。

10年。

そうだ、10年逢いたくて逢いたくて逢いたくて焦がれて来た。

それが恋だとも気づかずにただただ再会を夢見てた。

いっそ振られてしまえば諦めもつくのだろう。

でも気持ちを吹っ切って楽になるのはぼくだけだ。

彼の気持ちはどうなる?

ぼくを仲間と思って、友と信じて来てくれたのに、こんな邪な思いを持たれていたと知ったら?

落胆するだろう。

失望するだろう。

彼の10年を無駄にする訳にはいかない。

黙ってさえいればいずれ空閑にも大切な人が出来るだろう。

そうなればいつかぼくにも…誰か他に好きになれる人は現れるだろうか。

いつか笑って話せる日が来るだろうか。

ぼくは共に戦う仲間でしかない。

弁えろ。

期待するな。

好いているなら尚更、空閑の幸せを願うべきだろう?

そうだ。

そうするべきだと思うから…

ぼくは何も言わない事を選ぶんだーーー








自覚がない?

みんな好き勝手言ってくれるよな。

こっちは10年期待して逢いに来たのに。

こっちの世界じゃ同性の恋はご法度らしい。

オサムがそう言うんだから間違いない。

いっそおれがこっちに来るんじゃなくて、オサムに来て貰えば良かったのかな。

向こうじゃ常に戦争だから、とにかく兵を生み育てる為に男女関係なく子供を産める民族は多い。

長い時間をかけてそう言う風に進化したんだ。

おれは親父がこっちの人間だから、産めるかどうか知らんけど。

それじゃダメかな。

やっぱりオサムは困るかな。

例えおれが産める身体だったとして、そもそもそう言う習慣のないこの国で期待するのは無理なのかな。

みんな無責任に付き合えとか自覚を持てとか言うけど、オサムには無理だろ。

あいつ真面目だからな。

好きな奴の事困らせたくない。

世の中には好きになっちゃいけない奴なんてのがいるんだな…想像もしたことなかった。

最初は自分が損しても他人の世話を焼く親父みたいな奴って思ってた。

それがいつの間にか尊敬とか信頼とかそんなもの飛び越えて、放っておけないとか傍にいたいとか守りたいとか…もうこれ完全に恋じゃん。

好きだと思えば思うほど、大事だと思えば思うほど…おれじゃダメなんだなって思う。

言わないよ…オサムの為に。

そりゃあ言えばあいつは面倒見の鬼だから、おれを傷つけないようにって無理して付き合ってくれるくらいの事はするだろう。

でもそんな関係すぐに破綻するに決まってる。

何よりおれのせいで無理するオサムは見たくない。

墓場まで持ってくさ、こんな気持ちは。

だからせめて…オサムに大事な奴が出来るまでは、一番傍にいさせてよ。
《了》





両思いなのに片思い。
切ないす。
2020/07/02 椰子間らくだ


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