ワールドトリガー

□恋するお子さまは無駄にウザい
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自称陽太郎の義理の母である小南に軟禁されてから20日間、ようやっと陽太郎も地下から出る事を許された。

充てがわれた部屋だけでなく地下フロアは自由に出歩く事は出来たのだが、小南が反省させる為だと言って他の隊員に地下に降りる事を禁じたので、実質独房と変わりない。

逢いに行っていたのは食事を運んでいた小南自身と林藤支部長、後は小南の目を盗んで入り込んだレプリカぐらいだ。





「おれももう15なんだけどね…こなみが過保護すぎるんだよ」

「こら、陽太郎!
母ちゃんって呼べって言ってるでしょ!」

「でもまだ籍は入れてないんですよね…?」

「婚姻届も養子縁組届もとっくに書いて捺印までしてるわよ。
まだ提出してないってだけで」





一応小南はお嬢様である。

両親は娘が子供の頃から慕っていた林藤支部長のもとに嫁ぐ事には諦めがついているらしい。

しかし親子ほどとまでは言わないまでも、あまりに夫となる男の年齢が離れている事に祖母が難色を示しているのだ。

おまけに陽太郎を養子として引き取ると言うのもネックになっているらしい。

もう既に彼女は林藤支部長との間に一女を設けているというのに、孫がシングルマザーである事には抵抗はないのか。





「あたしが苦労したから…ってか現役で苦労してるから、陽太郎の年の差愛には寛容よ。
寧ろ応援してるわ。
でもね、密行はダメよ!」

(((『相手が男って事にも寛容なんだ…』)))





小南の事だ、実力もついていない内に近界などに渡って万一陽太郎が死んだり傷付いたりしようものなら、半狂乱になってかの世界に踏み込み国ごと消滅させる恐れもある。

安易に想像出来るからこの厳しすぎる措置に敢えて周りも反対しなかったし、陽太郎も逆らうことなく従ったのだ。

母となってからは新人の育成のみに従事しているが、彼女の火力の高さは健在である。

以前陽太郎が内情を知らないC級隊員から虐めに遭った時も、危うく生まれたばかりの娘を抱いたままトリガーを起動させるところだったのを、すんでのところで偶然遊びに来ていた出穂に取り押さえられた。

トリオン体では剛力無双の小南も、流石に生身のままでは空手道場師範代の出穂には敵わなかったようである。

その出穂が今日は玉狛に遊びに来ている。

と言うのも本日付で遠征に出ていたメンバーが近界から戻って来る予定なのだ。

そのメンバーの中には今では玉狛支部所属となっている元の狙撃手仲間・ユズルもいるから、挨拶がてら寄ってみた。

と言うのは建前で、ユズルが今でも千佳に気がある事を知っているので、遠征中にいつの間にか千佳が復帰している事に彼が驚くであろう事は火を見るよりも明らかであるから、その様子をにやにや見学に来ていると言うのは内緒の話。





「予定通りならそろそろ遠征艇が本部に到着する時間っすね」

「陽太郎、あんた緊張しすぎじゃない?
10年ぶりとは言えレプリカの話を聞く限りじゃヒュースはあんたにぞっこんよ」

「でもおれ大きくなったし…ヒュースがちっちゃいおれが好きだったんならがっかりするかも」

『今頃逞しく成長しているだろうとwktkだったな』

((((レプリカがネットスラング使うと物凄く違和感…))))





今回の遠征は出発時メディアに露出していたので、まさかの親善大使同行での帰還は各新聞社とも大きく取り上げるであろう事が想像出来る。

中には適性近界民を引き込む為の布石ではないかと穿った見方をする記者もいるであろうが、今や巨大組織となったボーダーに面と向かって弓を引ける者はそういない。

恐らくヒュースは市民からも友好的に迎え入れられるだろう。

そうなると陽太郎が心配なのは彼のルックスだ。

10年前にもボーダー女性隊員の注目を集めたイケメン枠を、あの根付広報部長が放っておくだろうか。

それにツノ付き枠として鬼怒田開発室長に狙われる可能性もある。





「ヒュースが本部に取られたらどうしよう…」

「それはないな。
ヒュース本人が玉狛所属を希望しているし、忍田司令からアフトクラトル大使館として玉狛基地の一部を供出するよう直接俺に通達も来てる」

「でも…ねつきさんはイケメン枠でヒュースを欲しがるだろうし、ぽんきちはヒュースのツノの解析をしたがるだろうし…」

「…支部長、いっそあんたがヒュースの事も養子にしたらどうです?
そうすりゃ陽太郎とも同じ籍だ。
うん、それで全てが丸く収まるとおれのサイドエフェクトもそう言ってる」

「迅さん、アタシ的にはそれでもおいしいけど、それだと息子と言うか息子の嫁が義母の小南と同い年って事になるんだけど…?」





…複雑怪奇な間柄だ。





「ヒュースがこの世界に嫁入りする事を親や主君に認められるだろうか…
いっそおれが向こうに婿入りした方が…
いや、今のおれを見て本当に結婚してくれる気になるだろうか…」

「ちっちゃい頃は根拠もなく自信満々だったのにね」

「千佳…あ、あんたも言うようになったわね…」





栞の影響である事は間違いない。

いや、近界遠征以来持ち前のトリオン量で相手を容赦なく吹っ飛ばすようになったので、元々その素質はあったのかも知れない。





「おれはちゃんとヒュース好みの男に成長してるだろうか…
ヒュースの周りにはもっといい男がいたりするんじゃないだろうか…
はっ、まさかおれよりおさむや迅の方が魅力的に映るかも知れない…!」

「だーもー、うっとーしーわねー!
千佳も言った通りガキの頃のあんたの自信は何処行ったのよ!
レプリカや遊真もヒュースはあんたにぞっこんだって言ってるじゃない!」

「だって…だって期待が大きいほど現実を見てがっかりする度合いは大きいって…」

「陽太郎くん、ウザい(にっこり)」

「がーーーーーーん…!」

「チカ子、それ禁句…」

「どうも話が堂々巡りでぐだぐだだと思ったら、まとめ役がいないせいだな…
メガネくん…早く退院して来てくれ…おれには手に余る…」

「おちび…じゃない、おデカ先輩もいないからツッコミ役もいないっす。
遠征艇帰還よりもメガネ先輩の方が大事なんすね」

「「やっぱり出穂ちゃんもそう思う!?」」

「うわ、そっちに食いつく?」

「うわーん、やっぱおれとヒュースの事なんかより、おさむとゆうまの方が重要なんだー!」





散々ネガティブモードを撒き散らかしてゴネていた陽太郎だったが、ヒュースが報道陣を蹴散らしてまで逢いに来てくれたので、すっかり昔の無駄にポジティブで自信満々のお子さまに戻ったのである。
《了》




千佳がユルい笑顔で容赦ない一言を発するのは寧ろ三雲母の影響であると思われます。
2020/06/28


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