ワールドトリガー

□噂のふたり
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【噂のふたり】

「こんちわー、オサムいる?」

「あ…!
玉狛の白い悪魔改め黒い悪魔だ…!」

「伝説の元白チビ・空閑遊真が来たぞ!?」

「うわっ、ログでは見たことあったけど、本物初めて見た!」

「私本部で個人戦してるの見たけど、とても10年もブランクがあるようには見えない神懸かり的な動きだったよ?」

(別に丸々10年戦闘離れしてた訳じゃないんだけどな…)





この日遊真は教習所帰りに、玉狛支部へは向かわず修の大学へと足を運んだ。

先日話題に出しそびれたチーム戦の話をしたかったのと、ひとりで玉狛にいると千佳と栞に好奇の目でじろじろ見られて、何となく居心地が悪いからだ。

自宅からの通いで合同訓練や防衛任務がある千佳は兎も角、正式なボーダー職員として玉狛に在籍している栞は基本いつでも基地にいる。

基地は宿舎も兼ねているので、こちらの世界に戻って以来基地に住んでいる遊真は、言ってみれば栞に24時間監視されているようなものだ。





「よくここが分かったな、空閑。
宇佐美先輩に聞いたのか?」

「大学まではタクシーで来た。
住所言わなくても大学の名前だけで連れて来て貰えたよ。
敷地に入ってからはボーダーしか言ってないのにここまで連れて来られた。
前から思ってたけど、ニホンジンって親切だよな。
おれが悪い奴だったらどうすんだ」

「いや、ボーダーの隊服着たままで言われても…」





中学の時とは違い、大学は誰でもその敷地の中に入れる事に驚いたようだ。

守衛室で修を呼び出して貰おうとしたら、前述の通り『ボーダーの…』と言いかけただけでここまで連れて来られたのだ。

まあ遊真が隊服を着ていたので、ボーダー隊員が学生の隊員を迎えに来たとでも思ったのだろう。





「なあオサム、今日は大学って何時までなんだ?
終わったら玉狛行くだろう?」

「悪い、空閑。
今日はこれからエンジニア志望の一年にトリガーの仕組みを教えなきゃならないんだ」

「それって先生の仕事じゃないのか?」

「教授は実際に自分でトリガーを起動させた事がある訳じゃないから理論しか教えられない。
その点修は実践して見せられるからな。
あまり困らせてやるな」

「おっ、チカの兄さん。
それじゃありんじさんだってトリガー使えるじゃん」

「空閑…麟児さんは教授の学会の手伝いで一昨日から家に帰ってないんだよ…」





なるほど確かに麟児の目は死んだ魚のようになっている。

大学教授の助手とは忙しさの割には給料はスズメの涙で、OL時代の千佳よりも収入は少なかったと聞いている。

そんな麟児に修の仕事まで押し付けるのは酷と言うものだ。





「分かった。
じゃあ終わるまで待ってる」

「そんなに暇なら本部へ行って個人戦でもして来たらどうだ?
C級相手じゃ物足りないだろうけど」

「おれもうポイント3000までいっちゃったから、これ以上やったらひとりだけB級に上がっちゃうよ。
オサムはまだ1500くらいだろ?」

「………1200」

「げっ…
なあ、おれらっていつチーム組めんの?
チカの兄さんが見つかったからもうA級に上がる必要もないし、チーム戦には興味ないか?」





言ってしまってからしまったと思った。

修を困らせたくはない。

修とチーム戦がしたくて故郷を捨ててこの世界にやって来たなど、あくまでそれは自分の都合であって、それに多忙な修を巻き込むのは単なる身勝手と言うものだ。





「わ、悪い、オサム。
おれ…」

「やーん、三雲先輩と空閑先輩がラブラブだって噂は本当だったんですねー」

「へっ?」

「三雲先輩が近界に置き去りにされた恋人を救出するために境界超えの手段を研究してるって話は有名だもんな?」

「え、恋人!?
置き去り!?」

「オレが聞いたのは近界民に連れ去られた昔の恋人が忘れられなくて、近界に残った空閑先輩を三雲先輩が追おうとしてたって話だったけど…」

「何それ!?」

「昔の恋人ってまさかレプリカの事か!?」





どうやら当事者ふたりの与り知らぬところで、とんでもない噂が立っていたようである。





「すまん、違うのか?
俺もてっきりそうだと…」

「麟児さんまで!?」

「いやいやいや、おれ達男同士だから!」

「えー、でも愛もないのに10年越しで逢いに来る?」

「10年越しで研究続けられる?」





などと周りに口々にそう言われて、お互いがお互いをどう思っているのかが分からなくなってしまった。

そうなのだろうか。

自分達のしている事は普通ではないのだろうか。





「まあ恋かどうかはキス出来るかどうかで分かるって言うよな」

「キキキキス!?←マウストゥマウスを想像してしまった。
(ま…まずい、まずいぞ?
ぜ…全然出来る…!
こっ、こんな事空閑に知られたら…ひっ、退かれるだろう、絶対!)」

「キスってあのキス?←欧米式の挨拶を想像してしまった。
え…オサムどころかりんじさんでも迅さんでもとりまる先輩でもレイジさんでもヘーキなんだけど…」

「えぇっ!?(がーん!!)」

「そ、それもどうかと思うけど…」

「なぁんだ、恋じゃなかったのねー」

「誰だよ、ガセネタ流した奴」

(すまん、俺だ…)





遊真がキスの定義を勘違いしたお陰で、その後妙な噂がそれ以上広がる事はなかったが…








あの学生が『恋かどうかはH出来るかどうかで分かる』と言っていたら、遊真が出来ると即答して話が余計にこじれていたところである。
《了》





それより麟児さんが流石は千佳のお兄さんって感じですね。
2020/06/27 椰子間らくだ


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