ワールドトリガー

□引く手数多
1ページ/2ページ

「なあ、しおりちゃん。
オサムってどこ行ったの?」

「ん?(キュピーン)
気になる?」

「………?
気になるってか、オサムっていつも玉狛にいないじゃん。
あいつ何やってんの?
どこ行ってんの?」

「今日は鈴鳴だね。
訓練室の改良の手伝いに行ってるよ」

「鈴鳴に?
なんでまた。
ボーダーの支部ってエンジニアがいるの玉狛だけなの?」

「うーん、どこの支部にもエンジニアはいるし、修くんはまだ学生だから正確にはエンジニアじゃないよ。
肩書きは三門市立大学トリガー研究室付研究員…かな」

「そうなの?
この端末もオサムが作ったって言うからてっきりエンジニアなんだと思ってた。
じゃあエンジニアでもないのになんでわざわざ鈴鳴の訓練室なんかバージョンアップに行ってんの?」

「一緒にチーム戦を戦った遊真くんなら分かると思うけど、修くんって独特の視野があるじゃない?
今あるもので何が出来るかを考えるのが得意って言うか」

「ああ、おれはその場で自分がどう動くかしか思い浮かばないけど、オサムは人をどう動かすかって考え方だな。
初めて一緒に戦った時なんか敢えて相手の有利な地形を選んで逆に相手を不利にするなんて、おれにはない発想だから結構衝撃だった」

「(ふふふふふふふふふふふ…+
そうやってお互いないものを補い合っていけばいいよ…*゜¨゜゜)
うん、だからね、今も『こう言うことがしたいんだけどどうすればいい?』って相談受けてて、今いるエンジニアのスキルや備品で何が出来るかを考えてるの。
あるものだけで工夫するのと、人を動かすことに関しては修くんの得意分野だからね」

「だな。
はあー、でも相変わらず面倒見の鬼だな、あいつ。
それであちこち呼ばれて玉狛にいないのか。
いても何かしら作業してるしなー」

「ん?ん?
構って貰えなくて寂しい?」

「寂しいってか戦闘員としてはおれら3人ともブランクあるから、C級からまたやり直しじゃん。
早いとこB級に上がらんとチームも組めないのに、あいつ個人戦はやらないし、最近まで防衛任務にも就いてなかったから全然ポイント貯まんないし。
一緒にまたチーム戦やりたいって思ってんのおれだけ?」

「(かっはー!
何その好きなのはおれだけ?みたいな拗ね方!)
それ修くんに言った?」

「いやいや、言えないでしょ、そんなこと。
あいつそれで給料貰ってんだし、それで学費は自腹だって言うし」

「ああ、それは修くんから聞いてるんだ。
お母さんは自分の人生なんだから好きにやりなさいって人だけど、お父さんがいい顔しなかったみたい。
大学までは出すけど院には進ませないって。
経済的に苦しい訳じゃないけど、ほら、修くん一度大規模侵攻で任務中に死にかけてるから。
お父さん的にはこれ以上ボーダーに関わって欲しくなかったんじゃないかなあ。
それでも我を通すなら自力でなんとかしろって言われたんだって。
勿論ボーダーから学費援助は受けてるけど、ご両親が健在だから他の奨学生の手前全額って訳にはいかないから」

「だろ?
あいつだって苦労してんのに、そんな仕事に嫉妬する女じゃないんだから」

「修くんはヒュースくんに妬いてたみたいだけど?」

「修が?
ヒュースに?
なんで?」

「だってヒュースくんがレプリカ先生探すの手伝ったんでしょ?
修くんだってホントは自分が手伝いたかっただろうに」

「無茶言うなー。
あいつは近界民じゃないんだから、そんなの無理だろ」

「今だから言うけど、風間さんが無理矢理連れ戻さなきゃ、修くんあのまま近界に残ろうとしたらしいよ」

「え?
おれオサムが遠征艇に乗るとこ見届けたけど…」

「アフトの次の補給地点で脱走しようとしたんだって。
風間さんがうまく取り繕って公式記録には残ってないけど。
下手すりゃ記憶封印措置&懲戒ものよね」

「………また言ったの?
『ぼくがそうするべきだと思ったからだ』って」

「あー、言ってそうだね…」

「鬼より強いものって何?」

「???
陰陽師とか?」

「面倒見のおんみょうじ」

「いや、それは変」

「………………………………………」

「自分がしたかった事をヒュースくんに取って代わられたんだから、嫉妬くらい許してやんなさい」

「いや、手伝ったのはヒュースだけじゃないし…」

「それ嫉妬の対象が増えるだけだから」

「レプリカがいなくなったのはオサムのせいじゃないってあの時も言ったのに、そんなに責任感じてたのか」

「(あーもー、そうじゃないでしょうよ。
いや、責任もあるだろうけどー、そうじゃなくてー。
もう、ニブイんだからー)
そう言えばそのレプリカ先生はどうしたの?
朝から見ないけど」

「ん?
いや、ちょっと…野暮用?」

「(さてはオサムくんを探しに行かせたな…)
まあ修くんが帰って来たら、チーム戦の事はアタシがそれとなく言っておくから」

「いや、いい」

「えー、言わなきゃ修くん忙しいし、あの子も大概ニブイからいつまでも気づかないよー」

「いや、自分で言うから」

「そーお?
(何言うつもりかしら?
どう言うつもりかしら?
みんなの前で言うつもりかしら?
そそそそれともふたりっきりで!?)」

「当分戻って来そうにないし、おれ本部行って個人戦して来る!」

「え?
ああ、うん。
行ってらっしゃい。
(なんだ、鈴鳴に迎えに行くんじゃないんだ)」



















「お帰りー…って、あれ?
3人一緒?」

「ああ、鈴鳴の用事が済んだのがちょうど合同訓練の終わるぐらいの時間だったから、本部に千佳を迎えに行ったんです。
そしたら空閑もいたんで拾って来ました」

「(遊真くん、例の話はしたのかしら…)
そっか。
じゃあみんな揃ったしごはんにするね」

「あっ、すみません!
本部で烏丸先輩と木崎さんに会ったので、みんなで焼肉食べて来ちゃいました。
連絡するの忘れてました!」

「あちゃあ、じゃあ今日はアタシひとりか(しょぼんぬ)
ひとり分って作り甲斐ないんだよね…
千佳ちゃん、手伝ってくれる?」

「はーい」













ひそひそ
「で?で?で?
あのふたり、どんな話してた?
何話してた?」

ひそひそ
「えっ?
し、しおちゃんが食いつくような話は特にしてなかったけど…遊真くんが本部に来る前に何かあったの?」

ひそひそ
「実はかくかくしかじかで…」

ひそひそ
「ええっ?
聞きたかった…
うーん、でもチーム戦の話は出なかったなあ。
烏丸先輩が広報部所属になったいきさつとか、レイジさんが本部長になった理由とかそんな話」

ひそひそ
「遊真くんめー、懐かしい顔に会って当初の目的忘れたな?
結構思い悩んでるような素振りだった癖に」

ひそひそ
「遊真くんってそう言うところあるよね…
あ、あと修くんが忍田司令に何かお仕事頼まれてたかな」

ひそひそ
「またか!
それじゃますますチーム戦が遠のいちゃうじゃないよ。
はあー、こんなに引く手数多なんじゃ優秀なのも考えものだ」

ひそひそ
「それから遊真くんがわたしも修くんも車の運転が出来るって聞いて、教習所へ通うって決めたみたいだよ」

ひそひそ
「ええー、この上遊真くんまでチーム戦と関係ない行動に出るか!
何考えてんのかな、もうー」

ひそひそ
「想像だけど…遊真くん暇だと個人戦ばっかりしちゃうから、ひとりだけ先にB級に上がるのが嫌だったんじゃないかな」

ひそひそ
「そ、そう言うことか!」

ひそひそ
「あと多分修くんとドライブがしたかったんだと思う」

ひそひそ
「かあー、青春だねぇ…+」




こうして腐女子の妄想でオチがついた訳だが、始終いなかったレプリカは別段オサムを探しに行かされていた訳ではなく、謹慎中の陽太郎にヒュース来訪の報を伝えがてら萌え話に盛り上がっていた事は誰も知らない。
《了》








今回も次ページにおまけがあります。
2020/06/27 椰子間らくだ
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ