ワールドトリガー

□駐玄界親善大使
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【駐玄界親善大使裏話】





ここは件のラーメン屋、栞と千佳が連れ立って昼休憩を取っている。

店主の計らいで玉狛のメンバーは黙っていても他の客席から少し離れた静かなテーブルに通して貰える。

店主もまさかボーダー隊員が恋バナをしにここに通って来ているとは想像もしていないが。





ひそひそ…
(チビレプちゃん、もう少しボリューム大きく出来ない?)

ひそひそ
『これ以上は他の客に聞こえるだろう。
再生可能にしておくから、後で自室で聞くといい』

ひそひそ
(チビレプちゃんに使えるイヤホンかヘッドセットがあればいいのに)





修と遊真の会話を盗み聞きする為に、レプリカと互換性のある備品を作ってくれなどとは流石に修本人には頼めない。

録音でもいいのだが、やはりリアルタイムで聞いてこそだろう。





ひそひそ
(あ、遊真くんが防衛任務から帰って来たよ)

「なあ、オサム…なんでおまえは防衛任務に参加しないんだ?」

「ああ、ぼくは研究員としての仕事もあるから免除扱いだ。
空閑が戻った今となってはぼくにはもう必要なくなった研究だけど、ボーダーで必要がなくなった訳じゃないからな」

「メガネくんが研究してたのは近界への移動手段だけじゃないしな。
新しいトリガーの開発、通信手段、近界から持ち帰ったトリガーの解析…まあこの実力派エリート程ではないにしろ、メガネくんも引く手数多なのだよ」

「…ふぅん」


ひそひそ
(ちょっ、不満げ!
遊真くんめっちゃ不満げ!)

ひそひそ
(遊真くんなんか遊真くんなんか、修くんと一緒に防衛任務に就きたいって素直に言っちゃえばいいよ…+)

ひそひそ
『何をしているのだ、ユーマ。
ヒュースの話題を振れ、振るのだ。
いや、私が振ればいいのか』





若干一名目的が違うようである。

それにしても修もよく本人を目の前にして、遊真に逢う為に境界超えの研究をしていたなどと臆面もなく言ったものだ。





「え、今支給されてるこの端末ってオサムが作ったのか?」

「別にぼくが端末を作ってる訳じゃない。
一部の機能がぼくの発案ってだけだ」

「でもこの機能のお陰で今まで遠征艇の通信機頼りだったのが、個人間での通信も可能になったのよね。
とは言っても遠征艇から一定距離以上離れる時は、微っ妙ーにかさばる中継機が要るんだけど」

「学校にいた頃は普通よりは上の成績なんだなぐらいに思ってたけど、オサムって実はすげーアタマいいんだな」


ひそひそ
(くうぅ、遊真くんが修くんを尊敬してる…+)

ひそひそ
『チカ、しっ!』

「あっちの世界じゃアフトクラトルとの共同開発で、こっちで言うショートメール?がやっとこさだったのに」

「「「アフトとの共同開発!?」」」

「あ、やっぱそうなるか」

『それは私から説明しよう』


ひそひそ
『ええい、私本体のアフトクラトルの説明などどうでもいいと言うのに…』

ひそひそ
(え、いや、チビレプちゃん、恋バナじゃないけど、そこも大事な話)





マイクを通した修や遊真の声より親機の音声ははっきり聞こえてしまうので、やおら大きくなったボリュームの調整をしなければなくなった事にレプリカ子機はやきもきしているようだ。

自分の声は音量3に、それ以外の声は音量5に自動調整となるよう設定し、引き続き3人は耳をそばだてた。





「はい、半玉味噌ラーメンと小ライス、餃子セットのお客様ぁ!」

びくぅっ!!

「あ、は、はい、アタシです…」

「はいよ、ごめんねー」

ごとっ、かちゃかちゃ…

「じゃあかに玉チャーハンはこっちのお嬢ちゃんね。
餡が熱いから気をつけてねー」

「は、はい、ありがとうございます…
(どきどきどきどきどきどきどきどき)」

かちゃかちゃ、かたっ。

「はい、じゃあごゆっくりー」

「「は、はーい」」

ひそひそ
(だ、大丈夫、聞かれてない)

ひそひそ
(聞かれてないけど…あっ、あっ、話がだいぶ進んじゃってる…!)

ひそひそ
『後で再生するから案ずる必要はない』

「…あ、悪い。
この端末開発する為に昔ボーダーから支給されてたスマホ提供しちったわ」

「10年前じゃ今とはもう互換性もないかなり古い技術だから別にいいけど…」


ひそひそ
(え、なんか修くんがもやもやしてる?
えっ?えっ?
どう言う状況?)

ひそひそ
『ユーマとヒュースに妬いているようだな』

ひそひそ
(遊真くんとヒュースくんの間に何が?)

ひそひそ
『そこは重要ではない。
後で再生してくれ』





重要項目が千佳達女子組とレプリカとでは一部しか共通していない。

女子達ふたりにしてみればそこが一番聞きたいところなのだが、これまで父親目線で遊真を見守ってきたレプリカにしてみれば、息子同然の遊真が自分もよく知る相手と恋に落ちているなどと認めるのはやはり複雑な心境なのだろう。

なるべく避けて通りたい話題であろう事は千佳も栞も察しているので強くは言えない。





「ん?
端末のここ、何か光ってるぞ?
向こうから連絡でも来てるんじゃないか?」

「あ?
やば、音切ってたから気づかんかった。
えーと、どうすんだっけ…ああ、ヒュースだ」

「ヒュース…」


ひそひそ
(今絶対顔に出たね…ニヤリ)

ひそひそ
(今絶対顔に出たよね…キラキラキラキラ)

ひそひそ
(あれは修くん面白くないよね…ニヤニヤニヤリ)

ひそひそ
(このタイミングでヒュースくんだもんね…キラキラキラキラキラキラキラキラ)

「「うんもう、意識しちゃってちゃって!」」

ひそひそ
『しぃー、声が大きい!』





注文かと思った店員が一瞬こちらを向きはしたが、他の客は特に気にしてはいないようだ。

興奮状態の女子ふたりを、レプリカ子機が声を落とすよう宥める。





「ヒュースがこっちに来る日が決まったってさ。
ようたろうが密行しようとした遠征艇が帰りに乗せてってくれる事になったんだと」

「こっちに来るのか?
ヒュースが?
何のために」

「なんだ聞いてないのか…って、そうか。
メガネくんは防衛任務に参加してないから話しそびれたんだな」






近々ヒュースがこちらの世界にやって来ると言う話は、千佳もこの時の防衛任務で遊真の口から聞いている。

しかしこの話は任務後(陽太郎とヒュースの萌話をする為に)栞には伝えたが、修には敢えて話さなかった。

修は遊真から直接聞きたいだろうし、自分のいないところでみんなが遊真との会話を楽しんでいたなどと知っては面白かろう筈がない。

迅も遊真が話すだろうと自分からは話題には出さなかったのだが、肝心の遊真がすっかりそんな話をした事を忘れてしまっていた。

帰りにひとりだけ本部へ寄って個人戦を楽しんだ挙句、部活のチラシなぞを貰ってしまったので興味はまるっとそちらに向いてしまったからだ。

千佳と栞はもやもやしている様子の修にはらはらしたが、そんな事も一気に吹き飛ぶ衝撃の会話が聞こえて来た。





『ここには親善大使に【任命された】などと書いてあるが、ヒュースはヨータロー会いたさに自分から親善大使の必要性を常々説いていたのだ。
当初自国で準備していた遠征艇で来る予定だったが、ボーダー側の厚意で予定が早まったようだな。
早速チカとシオリに報告せねば』


「「『キャーーーーーーー♡♡
キタコレ、陽ヒュー♡♡♡♡』」」






他の客達と店員が何事かと一斉に振り返る。





「あいつおれがこっち来る時も、自分だって行きたいのにだのようたろうに会いたいだのずっとぶちぶち言ってたよな、レプリカ。
まあ、思ったよりは早く決まってよかったんじゃん?」


『聞いた?聞いた?聞いた?』

「「聞いちゃった!聞いちゃった!聞いちゃった!」

『「「ラーーーーーー
ブーーーーーー♡♡♡」」』


「あの…お客さん?
もう少しお静かに…」

「あっ、ごっ、ごめんなさい!」

「すっ、すみません!
あっ、白いごはんどんぶりで貰えますか?」

「今のでどんぶりメシ三杯はいけるよね!!(興奮)」

「は?
はあ…おふたりともどんぶりに白いごはんひとつずつ追加でよろしいですか?」

「「はいっっ♡♡♡」」





お互い意識し合っているのに無自覚な修と遊真より、意識し合っている事を隠そうともしない陽太郎とヒュースの方が、目下この娘達(とプラス若干もう一名)の心を掴んで離さないらしい。
《了》




盗み聞きはラーメン屋の出禁喰らわない程度にね。
2020/06/25 椰子間らくだ


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