ワールドトリガー

□ボーダー映画研究部へようこそ
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【ボーダー映画研究部へようこそ】

「部活?
部活って学校のみんながやってたあれ?」

「ん?
ああ、部活やサークルの類は学校だけじゃなく企業や組織にもあるんだ。
ボーダーににも野球部、サッカー部、ワンゲル部、弓道部なんかがあるな。
文化系だと漫研、落研、映研とかかな」

「ふむ、ぶんかけいだとみんなけんがつくんだな」

「いや、たまたまだ。
ボーダーにはないけど囲碁・将棋部とか写真部とか…ナントカ研って言うのはナントカ研究部の略だよ」





遊真が急に部活動の話なぞを始めたので何ごとかと作業の手を止め振り返ると、何枚かのチラシを矯めつ眇めつしているのが見えた。

ああ、今年もこのシーズンがやって来たか。





「ボーダー隊員の募集は随時してるけど、何故か部活の勧誘は新年度、まあ春先だな。
空閑も何か部活動を始めるつもりなのか?」

「いや、個人戦しに本部行ったら配られた。
ボーダーに前からこんなのあったっけ」

「空閑がいた頃にはなかったな。
あの時の遠征が成功して行方不明者が大勢戻って来たから、ボーダー人気に火がついて最盛期には戦闘員だけで千人超えてたんじゃないか?
向こうで兵として扱われてた人達も言ってみればトリガー経験者だからな、あの時結構な数が入隊してくれたよ。
お陰で防衛任務のシフトがなかなか回って来なくなったから、暇を持て余した隊員が立ち上げたんだ」





ちなみに最初に立ち上げられたのは北添を筆頭にした落研である。

北添本人は東京の企業に就職したためボーダーも落研も卒業したが、自分がいなくなったら真っ先に潰れるだろうと言う北添の予想とは裏腹に、現在も地味ーに活動を続けている。

ひとりがやると我も我もと立ち上げて、今ボーダーには文化系・体育会系合わせて12の部ないし同好会が存在する。

遊真の持つチラシの1枚には映画研究部と書かれていた。






「ああ、これだよ、空閑。
さっき言った映研って言うのは」

「ほほう、なるほど。
映画のえいと研究部のけんだったか」

「ちなみに顧問はあのエネドラな」

「そう言えば話を訊きに行くといつも何か観てたな」





エンジニアの寺島がおまえのトリオン能力に似た技がある、とふざけて観せたターミネーター2にハマって以来、エネドラは映画と言う映画を観たがった。

アフトクラトルには存在しない文化である。





「え、近界には映画ってないのか?」

「さあ、少なくともおれは観た事ないな。
親父と一緒に随分あちこち回ったけど大抵何処も戦争中だったから、作り物の話なんか映像に残す余裕なんてなかったんだろ。
一応歌とか芝居とかの娯楽はあったけど、映像として残してるものなんて戦闘記録ばっかだったよ」





特にアフトクラトルは軍事大国であったため、娯楽の需要は大きくなかった。

エネドラにとっては目から鱗の文化であっただろう。

最初のうちこそは戦争物やアクション映画ばかりを好んで観ていたが、意外な事に最終的には文化や伝統芸能などを題材にした学術的な作品に関心を持った。

娯楽作品でも古代や中世などの歴史的建造物や秘宝、神話の世界などにも興味津々である。

まさにカルチャーショックであった。

こちらの世界の人間を玄界の猿呼ばわりしていたあのエネドラが、〇〇監督は神!だの女優〇〇の鬼気迫る演技が!だのと、映画人を尊敬するような言動までしていると言うのだから驚きだ。





「興味があるなら覗いてみるか?
この間僕が開発したトリガーの試作品が出来てきたから、本部に提出するついでもあるし。
近界民同士積もる話もあるだろう?
見学だけでも喜ぶと思うぞ?」

「…エネドラってそんなキャラだっけ」
















「やっだぁー、白髪チビちゃんじゃないのぉ!
超ヒサシブリィ、逢いたかったわーん。
あらま、でももう白髪チビじゃないのね!」

「……………………………………」

「固まるな固まるな。
今のはエネドラお気に入りのキャラ、フィフスエレメントのルビー・ロッドだ」

「いや、映画の名前とキャラクターを言われてもさっぱり分からん」

「ほんになぁ、よう来なすったなぁ。
遊真ちゃんや、お帰り」

「……………………………………」

「だから固まるなって。
今のは大誘拐の柳川とし子刀自だ」

「だから言われても分からん」





エネドラに人型のトリオン体が与えられていた事にも驚いたが、何より人格の変貌に驚いた。

例え武器トリガーを渡しても、映画のワンシーンを再現するネタにしか使わないらしい。

破壊と殺戮を無上の喜びとしていたこの男をこうまで変えられるほどの影響力を持つ映画とは、一体如何なる破壊力の文化なのか。

遊真は寧ろ空恐ろしくさえ思った。





「やっぱやめとこ。
おれがおれでなくなりそうで怖いわ」

「そうだな、免疫のない人間には刺激が強すぎるかもな」

「左様か。
遺憾であるが致し方あるまい。
それがし銀幕は観るだけでなく撮る方にも携わっておる。
興味があらばまた来られよ」

「ああ、今のは…」

「だから言われても分からんて」





こうして部活話はお流れになったのだが、後日エネドラより自主製作映画の配役表を送りつけて来られ、その中に自分の名前を見つけて心底辟易した遊真である。
《了》





脚本は志岐小夜子によるBL悲恋物。
2020/06/23 椰子間らくだ


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