ワールドトリガー

□少年A
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「バナナのか〜わを虚ろな目をして剥いてるあなたの視線がやらしいわ〜♬」

「…迅さん、セクハラ禁止」

「お触りはやらなくなったけど、その分口が達者になったよね…」




【少年A】




10代の若かりし頃、迅悠一はよく女性にボディタッチをしては怒られていたが、流石に成人して以降は悪さをする右手を封印したようだ。

成人による異性の肉体への合意なき接触は立派な犯罪行為、もはや少年Aでは済まされない。

そこは心得ているので例え未来予知のサイドエフェクトが「この女性は訴えない」と囁いても、決して触ったりはしない分別の持ち主だ。

…栞の言う通り下ネタは湯水の如く口から溢れるようになったので、手放しで大人になったものだなどとは褒められないが。





「なあ、前から思ってたんだけど、こっちの世界ってなんか性的な話題をタブー視するよな。
特に子供には」

「そりゃそうでしょ、おちびさんの前でそんなデリケートな話は出来ませんて」

「こっちの世界で言う子供って…何歳まで?」





遊真は腑に落ちないと言う顔で周囲の面々を見回した。

近界民の遊真が初めてこちらの世界に来たのは15歳。

しかし当時は11歳の時から身体の成長が止まっていたので、すこぶる小柄に見えた。

その為実年齢より子供扱いされた事を言いたいのだろうか、子供の年齢の定義を問うてくる。





「一般的には20歳からが成人とされてるから、19歳までを言うのかな。
まあ20歳過ぎてても学生の内は子供扱いされる事が多いが。
ぼくなんかクローニンさんには未だにヒヨッコ呼ばわりされてるよ」

「20歳で大人?
やっと?
遅すぎない?
じゃあ結婚適齢期って何歳?」

「今はあまり適齢期なんて言葉自体聞かないな。
早い奴は学生の内から結婚するし、しない奴は30を過ぎても40を過ぎてもしない。
東さんは今でも独身だけど、駿なんかもう子供がひとりいるぞ」

「しゅんが!?
マジか…てかだからあの頃のボーダー幹部ってみんな独身だったんだな。
…まさか結婚の年齢で平和を感じる事になるとは思わなかったぜ」




何やら驚き方が尋常ではない。

と言うよりも結婚と平和がどう結びつくのか。





「だって兵は多いほど戦争に有利だろ?
とっとと結婚してとっとと産まないと兵が足りなくなる」

『ユーマがトリオンの身体になった時から結婚と言う選択肢はなくなったが、あの当時のユーマの年齢なら近界の男女は7割が結婚していて、5割は子供がいると思っていい』

「え、え、え、えええぇー!?
早すぎるよー!」

「そ、それで千佳と初めて会わせた時、付き合ってるのかなんて聞いてきたのか…
中学生なのに何言ってるんだ、こいつって思ってたよ」

(いや、それはメガネくんが奥手なだけだよ)

(ううん、修くんは遊真くんにわたしとの事を誤解されたくなかったんだよね…+)

(うんうん、修くんがフリーかどうか気になってたんだね、遊真くん…+)





それぞれの思惑は置いておいて、生身の身体に戻った遊真は今では結婚も視野に入れられる筈。

10年の歳月は小さかった遊真を逞しい青年の体へと成長させた。

年頃の女性であれば、放ってはおけないルックスである。

ならば近界にそう言う約束を交わした相手はいなかったのか。

帰りを待つ人がいるならいつまでこちらの世界に滞在するのか。

邪まな妄想を持っていなくとも、そこは気になるところだ。





「10年って簡単に言うけどさ、来れるものならすぐにでもこっちに戻って来たかったよ。
おれはこっちに戻る事前提で動いてたんだから、あっちで誰かと約束するなんてある訳ないじゃん」

『私の半身を見つけるまでに半年、修復に半年かかった。
それからユーゴの黒トリガーを解析するだけで3年の年月を要し、データをバックアップするのに更に1年が必要だった。
膨大なデータ量だったからな』

「寧ろ人ひとりの人生分のデータをたった3年で解析出来たレプリカを褒めたいね、おれは」

「気が遠くなるような話だな…」





解析結果を基に遊真の肉体を修復するのにかかった時間が更に3年。

これは封印した肉体をトリガーから解放出来れば外科的手術でもっと早くに治療も出来たのだが、肉体の損傷があまりにも酷く、解放後の生存予測時間が短か過ぎたため叶わなかった。

外部から特殊なトリオンを注入することで、解放に耐えられる状態になるまで少しずつ修復するより他なかったのである。





「まあ無理に手術しなかったお陰で時間はかかったけど傷は残らんかったからさ、残りの2年はリハビリだよ」

(むふふ、修くんに会うのに傷は残したくないもんねえ…+)

「遊真ほどの反射神経でもやっぱり何年も封印してると、自分の身体が思い通りに動かせないものか?」

「封印してたせいって言うか、急にデカくなったからね。
自分の手足の長さに頭が追っつかんかった。
もう動きがちぐはぐで、とても戦える状態じゃなかったよ」

(折角再会しても戦えなかったら修くんの足手まといになると思って、会いたい気持ちをぐっと我慢したんだね…)

「そうか…おまえも大変だったんだな」

(そこはもうちょっと労おうよ、修くん!
よく頑張ったって言って抱き締めるぐらいやってもバチ当たんないよ!)

「いやあ、でもトリガーの中でもおれの身体、ちゃんと成長してたんだな、死にかけてた癖に(笑)」

(そそそそれは修くんに釣り合う男になる為にってこと!?
それも無意識に!?
あ、愛だね…ラブなんだね、遊真くん…!)

「…なんかさっきから女性陣の無言の圧力が凄くないか?」

「あ、オサムもそう思ってた?
おれの気のせいじゃなかったか」

「メガネくんにお母さん以上のプレッシャーを与えるってどんだけだよ」

「………………………………………」

「………………………………………」

「………………………………………」

「なんかこえーから話題変えてい?」

「そ、そうだな」

「ようたろうの姿が見えんけど、アイツどうしたの」

「あ、遊真それ地雷…!」

「少年Aね!?」

「少年Aのことだね、遊真くん」

「しょ、え?A?」

「もー、聞いてよ、アイツったらね、アイツったらね!」

「メンバーに選ばれてないのにヒュースくんに会いに行くって遠征艇に密行しようとしたの!」

「まあ見つかって少年Aとして地下の部屋に軟禁状態だけどね!
そうまでして会いたかったか!
ヒュースくんの使ってた部屋に閉じ込められて寧ろ本望か!」

「愛だよね!
愛なんだよね!
ああー、ふたりはロミオとジュリエットなんだね!」

「遊真、レプリカ先生、宇佐美と千佳ちゃんがあれ始まったら1時間は終わらないから」

「すまない、空閑…陽太郎とヒュースの話は禁句だって初めに言っておけば良かった」

「うわ…じゃあヒュースも来月あたりこっち来るって言ってたって、今は言わん方がいいな、レプリカ。
…あれ、レプリカ?」





















『やはりあのふたりは特別な絆で結ばれているのであろう!
10年前もヒュースはいつもヨータローを目で追っていた!
ヨータローもいつもヒュースを気遣っていた!
これを愛と呼ばずして何と呼ぶのか!』

「そうだよね、そうだよね!
レプリカ先生、分かってらっしゃる!」

「ああー、早くふたりが再会すればいいのにー!」











「うそ…食いついた…」

「おれレプリカとは何年も一緒にいたのに…あんなレプリカ初めて見たぞ!?」

「訂正。
レプリカ先生まで参加するなら2時間は終わらないな。
はあ、飯でも食いに行くか」

「そうですね、何食べましょうか」

「三人寄ればもんじゃ焼き?
カゲ先輩んとこ行こーぜ」

「それでね、それでね、その時の陽太郎ったらね!」
「あの時のヒュースくんも陽太郎くんに…!」
『であるからしてそもそもヒュースとヨータローの出会いは…!』
「………………………!」
「………………………!」
『………………………!』






その後食事を終えて基地に戻ると3人の姿は消えていた。

翌日カラオケボックスオールで一曲も歌わず陽太郎×ヒュース談義に花を咲かせたと聞き、迅は自分のサイドエフェクトでも及ばない世界がある事を知るのであったーーー
《了》







次の機会では彼らの中の陽太郎×ヒュースソングをオールで歌う事になるでしょう。
2020/06/22 椰子間らくだ


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