ワールドトリガー

□想い出の唄を歌って
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「あ、おれこの歌好き。
この【秘密基地】ってのがさ
おれにとっては玉狛支部なんだよね」
「そうか?
玉狛に限らず本部も各支部も
ボーダーのオフィシャルな存在だから
全然秘密でも何でもないぞ?
子供の言う秘密基地なんて山で見つけた
洞窟とか木のうろとかだろ」
「いやそれ近界ではリアルにアジトだから」
「所変わればだな。
で、なんて曲なんだ?」
「いやあのもしもし?
それわたくしが聞きたかったんですが?
オサムさん」
「あ、ああ、そうか。
空閑がこっちの曲なんて知ってる訳ないよな。
すまない…ぼくはこう言う事には疎くて」





この時は空閑がいずれ元の世界に
帰る人間なんだって事は
すっかり頭から抜け落ちてしまってた。
だからその曲の歌詞の意味なんて
深くは考えなかったんだーーー





【想い出の唄を歌って】





「近界遠征お疲れ様でしたあー!」
「カンパーイ!」
「うおお、夢にまで見た日本メシ!
近界のメシも悪くはなかったけどさあ
やっぱ自分の国のメシが一番だよな」





ーーー大丈夫。

迅さんは言った。

千佳ちゃんのお兄さんと
友達は必ず見つかるよ。
おれのサイドエフェクトが
そう言ってるーーー





「お前ら食ってばかりいないで誰か歌えよ。
何の為のカラオケだよ」
「はいはい、あたし歌うー!
加古さん、いつものあれ入れてー」
「小南、お前はそればっかだな。
他の曲は知らんのか」
「うるっさい!
何歌おうとあたしの勝手でしょ!」





その言葉に目が眩んで

目的が果たせることが…
ただただ恩人をこの手で
救い出せることが嬉しくて

もうひとつの目的を
失念してしまっていたんだ。

ここまであいつは大事な相棒を犠牲にしてまで
ぼくらの力になってくれていたのにーーー





「えっ、ちょっ、オサム!?
あんた、何泣いてんのよ!?
いくらあたしの歌がうますぎるからって
そこまで感動しなくても…」
「…………はっ!
あ、あの、小南先輩!
その選曲まずいやつっす!
今のメガネ先輩には地雷っすよ!」
「はあ?
地雷って何が……あっ!」





ーーーおれは残るよーーー

迅さんにはこの未来が見えていた筈だ。

ーーーレプリカがまだ見つからんーーー

だけど言えなかった。
ぼくらが動揺すれば作戦の成功率に関わる。





「ちょっ!
別に遊真が近界に残ったのは
あんたのせいじゃないって!」
「そう言うことじゃないんです。
修くん、遊真くんのことが…」
「まあ…そうだな。
三雲はあの自律トリオン兵に代わって
空閑の相棒を自負していたからな」
「いっそ自分も向こうに残って
白チビの探しもんとか言うやつを
手伝いたかったんじゃねえの?」





空閑がぼく達の世界に来た目的は
黒トリガーになってしまった
父親を元に戻すこと。

しかしそれは叶わないと分かった時点で
この世界に留まる理由はなくなった。

それを今まで引き留めていたのは
こちらの都合、ぼくのエゴだ。

空閑の意思じゃない。





「はいはい、今日はもうお開き!
みんなお疲れ様でした!
ね?帰ってゆっくり休んで!」
「修くん…」
「すみ…ません…
気を遣わせてしまって…」
「別にお前に気を遣ってなどいない。
アフトクラトルはもう大丈夫としても
いつまた別の近界民が攻めてくるとも限らん
皆気を引き締めて明日に備えろ」





麟児さんがーーー
千佳の兄さんが見つかった今となっては
空閑がぼく達に付き合ってこちらの世界に
戻らなきゃならない理由はもうない。

ましてや父親を失った空閑を
これまで支え続けてきた相棒を
犠牲にしてまで。

なのにぼくは自惚れていたんだ。
空閑がぼくの傍から離れる事はないと。

今ではぼくがレプリカに代わって
あいつの相棒になったんだと。

根拠のない自信だ。

自分の目的の為に散々力を利用して
本当の相棒まで失わせて…
利があったのはぼくの方だけじゃないか。


『お前と一緒に戦えてよかった。
親父が死んでから初めて楽しいと思ったよ。
ありがとうな』


あれはぼくが言わせたせりふだ
本心じゃない…本心の筈がない。

ぼくなんかでは親父さんの代わりも
レプリカの代わりも務まる筈が
ないじゃないか。


『バイバイ、オサムーーー』


だからあいつはぼくの手を振り払って
行ってしまったんじゃないかーーー!





「修くん…遊真くんには
あまり時間がないって言ってた」
「それじゃ【10年後】はまずかったわね…
歌う前に誰か突っ込んでよね」
「いや、おれのせいだよ。
そもそもレプリカ先生が
いなくなったのは…」
「あたしもうオサムの前で
絶対あの曲歌わないから」





空閑は…レプリカに逢えるだろうか。
残された時間で相棒を見つけることは
叶うだろうか…

ぼくには何が出来るだろう。
遠く離れたこの世界から
償うことは出来るだろうか。

もう一度お前に逢って
詫びることは出来るだろうかーーー





































「まったくあんたも大概よね。
大学院まで進んで遠征艇以外での
近界への移動手段の研究って…
そりゃあんたの実力とトリオン量だと
遊真もヒュースもいませんじゃ
遠征メンバーに選ばれるのは無理だけど
チカに頼めば遠征艇でかくするぐらい
訳ないんだから、あんた1人くらい
どうとでも…」
「いや、千佳は友達と麟児さんを探すって言う
当初の目的は果たしてますから…
これ以上危険には巻き込めない」
「しかし酷な言い方だがその友人が
今も生きている保証はないんだろう?
お前がそこまで責任を感じたところで
その努力も無駄になるかも知れない。
それだけは覚悟はしておいた方がいい」
「そう言う麟児さんだって
身勝手な行動の償いだなんて言って
大学に残って教授の助手になってまで
ぼくに協力してくれてるじゃないですか。
それに責任がどうなんて
ことじゃないんです。
空閑に報いる為にぼくが
そうするべきと思っているから」
「やれやれ、10年経っても
相変わらずオサムは面倒見のオニだな」
「……………!?」





10年片時も忘れた事がなかった
声が聞こえた。
いや、幾分大人びて聞こえるのは
気のせいかぼくの願望か。





「く…空閑?
空閑なのか…?」
「かっ、髪が…遊真の髪が黒い!?」
「おちび先輩がおデカ先輩になってるっす!」





ぼくは…夢を見ているのか…?
あの小さかった空閑が…
11歳で成長をやめてしまった筈の
空閑の身体がこんなに…大きく…?





「そう驚かんでも…
レプリカがさ、親父の黒トリガー
解析し終えたんだよ。
えらい時間かかったけどさ。
それでトリガーに封印してたおれの身体を
修復する方法も見つけたって訳」
「レプリカ?
じゃあ…見つかったのか!」
『久し振りだな、オサム。
あの時は辛い選択を迫って申し訳なかった。
しかしアフトクラトルの有志も
協力してくれてこの通り
無事ユーマと再会を果たせた』
「アフトクラトルの有志…
ヒュースも無事だったのか」




麟児さんの言ってた通りになった。
ぼくの10年に及ぶ研究は無駄になったんだ。

だってもう…そんな事をしなくても
逢いたい相手が今目の前にいる。





「空閑は…生きているって信じてた」
「おう、当然だな」
「でも二度と逢えないことも
何処かで覚悟していた」
「へっ?
なんで?」
「ぼくが恨まれたって不思議はない
くらいのことをお前に強いたからだ。
だからってお前が恨み言をわざわざ
言いにくるような奴じゃないのは
誰よりも知っている」
「待て待て、だからなんでそんな
話になる」
「こちらから行かなきゃ逢えないと…
逢って貰えないと思って…
だから…だからぼくは…」
「泣くなよ」
「………古傷が痛むんだよ……」





こんなに驚かれるとは正直思わんかった。
でもいつの間にかおれの居場所は
こっちの世界になってたんだから仕方ない。

そりゃ親父やレプリカと過ごした
あっちの世界も大事だけど
離れてみて痛感したからな。

おれにとってお前も同じぐらい
…それ以上に大事だってことを。

だから他人の為に損ばっかりしている
そんなお前が心配で おれが傍に
いてやらなきゃって思ったんだ。

いや、違うな。
これはおれ自身の為。

そうだ、忘れられないあの場所に
おれ達ふたりの懐かしい秘密基地に
またふたりで立つ為にーーー

だから言うよ。
ただいま、オサムーーー
《了》








コナミの【いつものあれ】が誰の何て曲かがバレバレです(笑)
2020/06/20椰子間らくだ


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